15 / 20
15話 覗きスポット
しおりを挟む
チュン、チュン、という鳥の鳴き声と共にヒイロは目を覚ます。
最早習慣となっている早起きは、ベットが変わっても継続されているようだ。
「んん……」
熟睡していたヒイロは、ベットの中で大きく伸びをする。
特別柔らかいわけではないむしろ硬めな低品質のベットは、ヒイロにとって今まで寝ていた布団よりも随分高品質なもの。
昨日の疲れがすっかり取れた元気な体を気持ち良さそうに伸ばし、ゆったりと朝を楽しむ。
「朝かあ。ああ、それにしても昨日はひどい目にあ――」
しかし突如、ドーーーーン、という轟音が部屋に鳴り響いた。それと同時に116号室の扉が部屋の中へと吹き飛んでくる。
「ええええーっ」
「起きたかヒイローっ」
犯人はもちろんクレイヴ。
クレイヴは倒れ伏したかつて扉だった物に上にまるで勝ち誇るように乗りながら、ヒイロを見つけ言い放った。
「えええええーっクレイヴさんっ、えええーっドアっドアっ」
ヒイロの頭の中はパニック状態になっており、ポッカリ開いたドアがあった場所とドアとクレイヴを順番に見るだけ。
しかしクレイヴはそれに対し大きく笑うだけ。
「気にするなっ、さあ行くぞ。メガクレイヴギルドの活動開始だっ」
「え? ちょ、ちょっと、ドア、これどうするんですかっ」
「こんなもの昼には直っている。この寮はどこを破壊しようとも即座に修理する変人が住んでいるからな」
「いや、えっ? ええええええ」
クレイヴにさっさと着替えるよう厳命されたヒイロは素早く制服に着替え、クレイヴの後について食堂に向かう。
時間はまだ6時、食事の時間までまだあと1時間もあるのに何をするのか、と思っていると、クレイヴは冷蔵庫を開け食料を強奪し始めた。
そして2人の手とポケットが限界を迎えた頃、スリットの怒号と共に2人は寮から出発。
「なあに外界から珍しい物でも持ち帰ってくれば問題ない。さあ、まずは学校に行くぞっ。部屋を案内してやる」
ヒイロは観念したのか、走るクレイヴの後ろを着いて行く。
文句は1つも言わず、クレイヴと離れ寮に戻るという選択肢もない。なにせ、後ろからはスリットが信じられないスピードで追いかけてきているのだから。
寮から学校までは歩いて10分ほど。
それをわずか1分30秒に縮める激走で2人は学校に到着。
「ほう、持久力は中々あるじゃないか。奴の追跡を振り切ることができるとはな」
「ぜえ、ぜえ、ぜえ、ありが……とうございます」
「しかし最高速度はまだまだだな。おかげで食料が半分近く失われてしまった」
そんな激走だったが、スリットは一時ヒイロに追いつき、その手やポケットから大半の食料を取り返した。
舞い戻ってきたクレイヴの手により撃退に成功したものの、その際の接触でクレイヴの食糧もいくつか取り返されている。
「確かに恐るべき相手だったが、そんなことじゃ俺のギルドでやっていけんぞっ」
「す、すみません」
入りたいと言ったことが1度もないヒイロだが、思わず謝る。
ここで反抗的なことを言えるほどヒイロは対人関係に秀でていないし、疲れて頭も働いていない。よく眠って取れた疲れが、どうやらまた舞い戻ってきたようだ。
「まあ良い。学校というのは教育機関だ、出来ないからと言って駄目なわけでもない。行くぞ」
そうして2人は門を開け学校の中へと入って行く。
そこは昨日ヒイロも歩いた学校玄関前の庭。
たくさんの花が植えられ噴水もある綺麗な道。そしてもちろん変な人々もいる。
忙しそうに何かを持って走り回っている人。ゆったりと花壇に水をあげている人。空を飛んでいる人。噴水で水浴びをしている人。
だがヒイロに心境の変化でもあったのか、そんな人達に対しても変だという感想を抱いていない。
それは間違いなく、自分の前を歩く人こそがこの中で最も変人だという確信があるからだろう。
「そうだ、お前はこの学校の設備についても何も知らないんだったな。少し案内してやろう」
「あ、ありがとうございます」
「ここが庭だ。あそこの花は食える、あれは美味そうだが毒がある。あの草は生だとマズイが煮れば食えるぞ」
「……」
「それからこの花は美味いが育てているやつが執念深いからあまり食わない方が良い。お前は弱いからな、俺は敢えてここから食うが」
「……」
間違いない。
「あそこの木の下を漁ると教員の秘蔵の酒蔵への扉がある、酒が欲しい時はそこから――」
「いやえっと、あのクレイヴさん。もっと学校生活で役立つことを教えて欲しいんですけど……」
通常、学園の先輩が後輩にまず教える学校のことは、どこどこに教室があってどこどこに資料があって、というものだろう。
しかしクレイヴから聞けることは全く別物で、おおよそ役に立てようもない知識。流石のヒイロもこれには改正を試みた。
「ん? ああ、あれか、聞きたいのはあれか」
「あれ? はい、きっとそうです」
「確かに俺も一番にこの知識を伝えるのはどうかと思っていた、お前の方から言いだしてくれて良かったよ」
「本当ですか? ありがとうございます」
「うむ。では教えてやろう、この学園に代々伝わる伝承者しか知らない覗きスポットを」
「え? いや、そうじゃなく……」
「俺に付いて来いっ」
それからヒイロは小一時間、女性の着替えや風呂の覗きスポットを教えられ続けた。
「これらは学園で1人しか知ることを許されない秘匿された覗き場だ。誰かに教えたなら自分はもう2度と行ってはいけない、180年続く歴史、お前に託したぞっ」
「いやそうじゃないんですよっクレイヴさんっ?」
この学園のどこに何があるかを、ヒイロはまだ何も知らない。
最早習慣となっている早起きは、ベットが変わっても継続されているようだ。
「んん……」
熟睡していたヒイロは、ベットの中で大きく伸びをする。
特別柔らかいわけではないむしろ硬めな低品質のベットは、ヒイロにとって今まで寝ていた布団よりも随分高品質なもの。
昨日の疲れがすっかり取れた元気な体を気持ち良さそうに伸ばし、ゆったりと朝を楽しむ。
「朝かあ。ああ、それにしても昨日はひどい目にあ――」
しかし突如、ドーーーーン、という轟音が部屋に鳴り響いた。それと同時に116号室の扉が部屋の中へと吹き飛んでくる。
「ええええーっ」
「起きたかヒイローっ」
犯人はもちろんクレイヴ。
クレイヴは倒れ伏したかつて扉だった物に上にまるで勝ち誇るように乗りながら、ヒイロを見つけ言い放った。
「えええええーっクレイヴさんっ、えええーっドアっドアっ」
ヒイロの頭の中はパニック状態になっており、ポッカリ開いたドアがあった場所とドアとクレイヴを順番に見るだけ。
しかしクレイヴはそれに対し大きく笑うだけ。
「気にするなっ、さあ行くぞ。メガクレイヴギルドの活動開始だっ」
「え? ちょ、ちょっと、ドア、これどうするんですかっ」
「こんなもの昼には直っている。この寮はどこを破壊しようとも即座に修理する変人が住んでいるからな」
「いや、えっ? ええええええ」
クレイヴにさっさと着替えるよう厳命されたヒイロは素早く制服に着替え、クレイヴの後について食堂に向かう。
時間はまだ6時、食事の時間までまだあと1時間もあるのに何をするのか、と思っていると、クレイヴは冷蔵庫を開け食料を強奪し始めた。
そして2人の手とポケットが限界を迎えた頃、スリットの怒号と共に2人は寮から出発。
「なあに外界から珍しい物でも持ち帰ってくれば問題ない。さあ、まずは学校に行くぞっ。部屋を案内してやる」
ヒイロは観念したのか、走るクレイヴの後ろを着いて行く。
文句は1つも言わず、クレイヴと離れ寮に戻るという選択肢もない。なにせ、後ろからはスリットが信じられないスピードで追いかけてきているのだから。
寮から学校までは歩いて10分ほど。
それをわずか1分30秒に縮める激走で2人は学校に到着。
「ほう、持久力は中々あるじゃないか。奴の追跡を振り切ることができるとはな」
「ぜえ、ぜえ、ぜえ、ありが……とうございます」
「しかし最高速度はまだまだだな。おかげで食料が半分近く失われてしまった」
そんな激走だったが、スリットは一時ヒイロに追いつき、その手やポケットから大半の食料を取り返した。
舞い戻ってきたクレイヴの手により撃退に成功したものの、その際の接触でクレイヴの食糧もいくつか取り返されている。
「確かに恐るべき相手だったが、そんなことじゃ俺のギルドでやっていけんぞっ」
「す、すみません」
入りたいと言ったことが1度もないヒイロだが、思わず謝る。
ここで反抗的なことを言えるほどヒイロは対人関係に秀でていないし、疲れて頭も働いていない。よく眠って取れた疲れが、どうやらまた舞い戻ってきたようだ。
「まあ良い。学校というのは教育機関だ、出来ないからと言って駄目なわけでもない。行くぞ」
そうして2人は門を開け学校の中へと入って行く。
そこは昨日ヒイロも歩いた学校玄関前の庭。
たくさんの花が植えられ噴水もある綺麗な道。そしてもちろん変な人々もいる。
忙しそうに何かを持って走り回っている人。ゆったりと花壇に水をあげている人。空を飛んでいる人。噴水で水浴びをしている人。
だがヒイロに心境の変化でもあったのか、そんな人達に対しても変だという感想を抱いていない。
それは間違いなく、自分の前を歩く人こそがこの中で最も変人だという確信があるからだろう。
「そうだ、お前はこの学校の設備についても何も知らないんだったな。少し案内してやろう」
「あ、ありがとうございます」
「ここが庭だ。あそこの花は食える、あれは美味そうだが毒がある。あの草は生だとマズイが煮れば食えるぞ」
「……」
「それからこの花は美味いが育てているやつが執念深いからあまり食わない方が良い。お前は弱いからな、俺は敢えてここから食うが」
「……」
間違いない。
「あそこの木の下を漁ると教員の秘蔵の酒蔵への扉がある、酒が欲しい時はそこから――」
「いやえっと、あのクレイヴさん。もっと学校生活で役立つことを教えて欲しいんですけど……」
通常、学園の先輩が後輩にまず教える学校のことは、どこどこに教室があってどこどこに資料があって、というものだろう。
しかしクレイヴから聞けることは全く別物で、おおよそ役に立てようもない知識。流石のヒイロもこれには改正を試みた。
「ん? ああ、あれか、聞きたいのはあれか」
「あれ? はい、きっとそうです」
「確かに俺も一番にこの知識を伝えるのはどうかと思っていた、お前の方から言いだしてくれて良かったよ」
「本当ですか? ありがとうございます」
「うむ。では教えてやろう、この学園に代々伝わる伝承者しか知らない覗きスポットを」
「え? いや、そうじゃなく……」
「俺に付いて来いっ」
それからヒイロは小一時間、女性の着替えや風呂の覗きスポットを教えられ続けた。
「これらは学園で1人しか知ることを許されない秘匿された覗き場だ。誰かに教えたなら自分はもう2度と行ってはいけない、180年続く歴史、お前に託したぞっ」
「いやそうじゃないんですよっクレイヴさんっ?」
この学園のどこに何があるかを、ヒイロはまだ何も知らない。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
ショタだらけのシェアハウス
ichiko
BL
魔法が存在する平行世界の日本に生きるおっさん。魔法が一つしか使えないために職にも就けず生活は破綻寸前だった。そんな彼を不憫に思った神様が彼を魔法が存在しないパラレルワールドの日本に転移させる。転移した先はショタっ子だけのシェアハウスだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる