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12話 116号室
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「……、普通だ……」
部屋の中を見て思わずヒイロはそう言った。
両脇に2段ベットがあり、部屋の奥には窓がついている。狭いがただただ普通の部屋。
凄い部屋を想像していたのか、ホッと胸を撫で下ろしたヒイロ。
「116号室、2人部屋。相方は1週間くらいしたら来る。仲良くしな」
「あ、2人部屋なんですね。」
「ベットは4つあるけどね、最近入寮者が少なくてね。だからまあ1人1部屋使えるくらい部屋は余ってるんだが、色んなやつが獲ってきたモンで改造しちまってるから人が住める状態じゃないんだよ」
「……」
今まで床から棘が生えていようが、廊下に煙突が横から刺さっていようが、天井までの高さが50cmくらいまでしかなかろうが、何も言わなかったスリットが初めて人が住める状態じゃないと言った事実に、ヒイロは引いた。
「この部屋をお前さんは改造したりすんじゃないよ。残ってんのはもう少ないんだからね」
「し、しませんよっ」
「なら良いのさ。寮の決まりだけど、風呂の掃除は昼間にするからね、昼に入ってたら叩きだすよ。飯は朝7時と夜7時。大体の奴はいないけど、いなかったら米粒1つもやらない、昼は自分で確保しな」
少しだけ笑った後、スリットは矢次早に寮の規則を伝えていく。
バンバン出てくる重要情報にヒイロは戸惑いながらも聞き逃さないよう頑張る。
「は、はい」
「食器は自分で洗うこと、汚かったら2度と食器は使わせないよ。それから部屋が汚いと思ったらそいつの顔面で掃除するのがあたしの信条さ、掃除はきちんとすることだね」
「は、はい」
「トイレ掃除は週番だ、サボったら楽しみにしてな。あとはそうだね、あたしが殺せと言ったやつは殺すこと。特に今はクレイヴだね」
「は、はい。えっ?」
「冗談だよ。それじゃあ、ヒイロ。これからよろしくね」
「あ、え、はい。よろしくお願いします。スキッタさん」
「スリットだよ」
全ての説明をし終えたスリットは、ヒイロの前に手を差し出した。ヒイロはその手を握り返す、名前は間違えたが。そして手は離れ、頑張りなよと一言の激励の後、スリットは元来た道を戻って行った。
「ああそうだ、1つ注意事項を忘れてた。風呂場のタイルが一箇所だけ滑りやすいんだよ。馬鹿が必ず滑る素材で補修してね、気をつけな。硬いから死ぬよ」
そんな忠告を残して。
今までのことは注意するにもあたらなかったのか、というここの暮らしの異常さと、ならどれだけ滑りやすいんだという不安、そしてそこを直さない異常さに、ヒイロは深く息を吐く。
「部屋は普通なんだけどなあ」
ギイイィーと音を立てて閉められたドア。
置かれたベットの間はヒイロ1人分くらいと狭いが、掃除の行き届いた綺麗な部屋で、変なオブジェクトもなければ罠としか言いようのない構造もない。拍子抜けするほど普通の部屋。
「どのベットとタンス使おうかな。……左下で良いか」
ヒイロがこの学園に来るまで住んでいた家は、あばら家とも言える家。隙間風も多く、家具もない、そんな家。
ヒイロはポーチから制服数着と、2着の服と1着のズボンを出し、タンスにいそいそと閉まった。
学校には制服でい行くためこの数でも問題ないのかもしれないが、あまりにも少ない服の数。裕福でないとしても普通はもう少しある。
そんな暮らしをしていたのだ。暮らしは随分上等なものになったと言えるだろう。
なんと言っても家賃も食費もかからないのだ。
ボフン、とヒイロはベットにダイブした。ほんの少しはねて、ヒイロは1人サイズのベットの真ん中に収まる。
その目の先にあるのは上のベットの裏側。
軽く目を瞑ると、暗闇が訪れる。
ヒイロは物事を考え込む際、目を瞑るクセがある。視覚情報をシャットアウトし、集中力で聴覚情報もシャットアウトし、ただただ考える。
内容は今日の学園での出来事。
過去の自分。
冒険者の学校には行きたくなかった。行くとも思っていなかったが、一生精霊と関わらないで生きていきたかった。
わずかばかりの薬を売って、その日を暮らして生きて行けるのならそれが一番幸せだった。
ヒイロはただただ考え込む。
随分時間が経った。
目を明けると既に陽は沈んでいた。部屋に備え付けられた時計の短針が7の少し前を示しており、ヒイロは晩ご飯の時間だと気付く。
「よいしょ」
ベットから立ち上がり、多少シワがついた服を伸ばしながら、ヒイロは歩き辛い廊下を通って食堂に向かった。
部屋の中を見て思わずヒイロはそう言った。
両脇に2段ベットがあり、部屋の奥には窓がついている。狭いがただただ普通の部屋。
凄い部屋を想像していたのか、ホッと胸を撫で下ろしたヒイロ。
「116号室、2人部屋。相方は1週間くらいしたら来る。仲良くしな」
「あ、2人部屋なんですね。」
「ベットは4つあるけどね、最近入寮者が少なくてね。だからまあ1人1部屋使えるくらい部屋は余ってるんだが、色んなやつが獲ってきたモンで改造しちまってるから人が住める状態じゃないんだよ」
「……」
今まで床から棘が生えていようが、廊下に煙突が横から刺さっていようが、天井までの高さが50cmくらいまでしかなかろうが、何も言わなかったスリットが初めて人が住める状態じゃないと言った事実に、ヒイロは引いた。
「この部屋をお前さんは改造したりすんじゃないよ。残ってんのはもう少ないんだからね」
「し、しませんよっ」
「なら良いのさ。寮の決まりだけど、風呂の掃除は昼間にするからね、昼に入ってたら叩きだすよ。飯は朝7時と夜7時。大体の奴はいないけど、いなかったら米粒1つもやらない、昼は自分で確保しな」
少しだけ笑った後、スリットは矢次早に寮の規則を伝えていく。
バンバン出てくる重要情報にヒイロは戸惑いながらも聞き逃さないよう頑張る。
「は、はい」
「食器は自分で洗うこと、汚かったら2度と食器は使わせないよ。それから部屋が汚いと思ったらそいつの顔面で掃除するのがあたしの信条さ、掃除はきちんとすることだね」
「は、はい」
「トイレ掃除は週番だ、サボったら楽しみにしてな。あとはそうだね、あたしが殺せと言ったやつは殺すこと。特に今はクレイヴだね」
「は、はい。えっ?」
「冗談だよ。それじゃあ、ヒイロ。これからよろしくね」
「あ、え、はい。よろしくお願いします。スキッタさん」
「スリットだよ」
全ての説明をし終えたスリットは、ヒイロの前に手を差し出した。ヒイロはその手を握り返す、名前は間違えたが。そして手は離れ、頑張りなよと一言の激励の後、スリットは元来た道を戻って行った。
「ああそうだ、1つ注意事項を忘れてた。風呂場のタイルが一箇所だけ滑りやすいんだよ。馬鹿が必ず滑る素材で補修してね、気をつけな。硬いから死ぬよ」
そんな忠告を残して。
今までのことは注意するにもあたらなかったのか、というここの暮らしの異常さと、ならどれだけ滑りやすいんだという不安、そしてそこを直さない異常さに、ヒイロは深く息を吐く。
「部屋は普通なんだけどなあ」
ギイイィーと音を立てて閉められたドア。
置かれたベットの間はヒイロ1人分くらいと狭いが、掃除の行き届いた綺麗な部屋で、変なオブジェクトもなければ罠としか言いようのない構造もない。拍子抜けするほど普通の部屋。
「どのベットとタンス使おうかな。……左下で良いか」
ヒイロがこの学園に来るまで住んでいた家は、あばら家とも言える家。隙間風も多く、家具もない、そんな家。
ヒイロはポーチから制服数着と、2着の服と1着のズボンを出し、タンスにいそいそと閉まった。
学校には制服でい行くためこの数でも問題ないのかもしれないが、あまりにも少ない服の数。裕福でないとしても普通はもう少しある。
そんな暮らしをしていたのだ。暮らしは随分上等なものになったと言えるだろう。
なんと言っても家賃も食費もかからないのだ。
ボフン、とヒイロはベットにダイブした。ほんの少しはねて、ヒイロは1人サイズのベットの真ん中に収まる。
その目の先にあるのは上のベットの裏側。
軽く目を瞑ると、暗闇が訪れる。
ヒイロは物事を考え込む際、目を瞑るクセがある。視覚情報をシャットアウトし、集中力で聴覚情報もシャットアウトし、ただただ考える。
内容は今日の学園での出来事。
過去の自分。
冒険者の学校には行きたくなかった。行くとも思っていなかったが、一生精霊と関わらないで生きていきたかった。
わずかばかりの薬を売って、その日を暮らして生きて行けるのならそれが一番幸せだった。
ヒイロはただただ考え込む。
随分時間が経った。
目を明けると既に陽は沈んでいた。部屋に備え付けられた時計の短針が7の少し前を示しており、ヒイロは晩ご飯の時間だと気付く。
「よいしょ」
ベットから立ち上がり、多少シワがついた服を伸ばしながら、ヒイロは歩き辛い廊下を通って食堂に向かった。
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