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8話 銃をつきつける精霊カグラ
しおりを挟む「ん。……手、どけてくれない?」
サラは静かに、自分の胸を手と指の形に凹ませているものを指し、ヒイロに言った。
ヒイロの顔から一気に血の気が引いていく。
「ご、ごめんなさ――」
そして慌てて立ち上がり手をどけた、その瞬間。
「おい貴様っ」
「死ぬ覚悟はできているんでしょうね」
まるで囲むように突如として現れた1組の男女。
男はヒイロのすぐ右に、女はヒイロのすぐ左に。
一切の気配なくなにもないところからの登場、それはつまり、その男女が人ではなく精霊であることを示す。
「我等が娘に卑猥な行為、生きて帰れると思うなよ」
「抵抗は許しません」
男の精霊はその手の平から熱い炎を、ゴゥ、と瞬かせ、女の精霊はヒイロのこめかみに何かを押し付ける。
その2柱の精霊はサラのために怒っている。
サラと共にいた。
だからヒイロにも分かる。
その精霊がただの精霊でないことを。
契約精霊。
人と契約を交わした精霊のことを、人も精霊もそう呼んでいる。
契約とは、書面でするのではなく、細かな取り決めでもないただの口約束のようなもので、本来の契約の意味とは違う。
しかし、精霊は契約を交わした人の一生に寄り添い苦楽を共にし、人もまた契約を交わした精霊と家族以上に濃く長い時間を過ごす。
約束事などなくとも、お互い助け続け同じ生を歩む。
例えどれほど変わり果てても。
そんな一心同体とも言える関係になるのが契約、そして契約精霊。
精霊は自然と共に存在しているが、人と関わる場合は例外を除き契約精霊となる。
例外とは、ヴィイリニーやティトリニア。人と関わっていても契約をかわしていない彼女達は少々特殊だ。変わり者、という意味で。
普通はこの2柱のように、契約しその人と共に在る。
だからこそ今2柱は我が事のように怒っている。
ヒイロに向けられた確かな怒気と殺意、そして銃型の武器がその証拠だ。
「オルヴリッド、カグラ、やめなさい」
身の丈180cm以上はある男性型のオルヴリッド、60cmほどだが顔立ちも体の輪郭も妙齢の女性型であるカグラ。
自身の契約精霊に、そんな声をかけながらサラは立ち上がる。
若干顔が蒸気しているようにも見えるが、それはオルヴリッドが出している火でそう見えるだけだろうか。
「だがサラの胸を触ったぞ」
「顔を埋めて揉みましたよ、両手を合わせて4回も」
「今のは私が急に振り向いたせいだから。ほら、やめなさい」
そんな火をまた手の平から吹き出させるオルヴリッドと、銃をつきつけるのを止めないカグラに、サラはほんの少しの呆れを込めて再度言う。
その態度からは過保護すぎる両親に対しての反応のような、そんなものが伺える。
精霊も人も生き方はまるで違う。
だから大事にする方法もまたそれぞれ、2柱はサラを大事にしているが今回のようにサラの考えとは違うことも多いのだろう。
いや、今回は怒るのも当然かもしれないが。
なお当人のヒイロは、苦手な精霊とそこから発せられる殺意と、胸の感触と触ってしまった罪悪感とこれからに、何が何だかよく分からないくらいにパニックに陥っている。
「別に気にしてないから。もう、早く還りなさいって」
しぶしぶ、といった様子でオルヴリットは消え、カグラも構えていた銃を下ろし消えていく。
「命拾いしたな餓鬼」
「次は許しませんよ」
恐ろしい捨て台詞を残して。
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