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2話 コールステリア冒険者養成学園

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「ええっと……、ここ、かな?大きい門だなー」
 ヒイロは今、とある建物の前にいる。

 縦格子の鉄柵で作られた門。
 その門を支えるのは人の背丈の3倍は高いレンガの柱。左右に広がっていくのはそれと同じ高さの石造りの壁。

 数十分その壁を伝って歩き、ヒイロはこの門に辿り着いた。

 中に見えるのは、大きな庭。
 噴水に、花壇に。その奥には5階建ての建物、いやもっと高く横幅も見えないくらいに広く大きな建物。そしてさらにその奥にはどこまでも広がっていそうな森、外界。

「なんだっけ……、コール、コース……えーっと」
 名称を覚えるのが苦手なヒイロは、どうしても思いだせず、門の横に設けられた名称看板を見に行く。

「コールステリア冒険者養成学園」
 門の横に設けられている学園名が書かれた鉄板、それを見てようやくヒイロは自分が通う学園の名前を思いだした。

 広大な敷地に建てられた巨大な建物は学園。この国最大、いや3国合わせても最大と言われる学園。
 コールステリア冒険者養成学園のような、国の中でも上位に位置する学校は、冒険者養成を主の目的としながらも、それ以外の仕事も学ぶことができる。例えば薬学士や鍛冶師などに仕事、技術についても学ぶことができ、様々な分野を目指す者が通う。

「……冒険者か、嫌だなあ。でも薬売りになるには行かないと駄目だって言われたし……」
 ゆえに、ヒイロのように薬売りを目指す者なども数多く在籍しており、学園でその授業を専攻、ギルドで学び、技術を得て単位を取得し、資格を取る。

 もちろん一番人気は、冒険者。
 学園に通う半分以上の者が、冒険者の単位を取得しようと勉学と実技に励んでいる。

 尤も、大きな学校ほど冒険者専門で志す者や、将来冒険者の仕事に就く者の割合が減る傾向にあるため、ヒイロのように冒険者の授業を受講しない者も珍しくはない。

 今回ヒイロがコールステリア冒険者養成学園に通うことになった理由は、熱意が行き過ぎ軽微な犯罪を犯してしまった子供の受け入れを、この学園が行っているからだ。
 2年の間薬売りとして熱心に活動し、薬の作り方も材料も正しく用いていたヒイロに悪意は認めらなかった。よって、来春から、あと1週間と少ししか無いものの、来春からの入学が決定した。
 今日はその手続き。

「お、お邪魔しまーす」
 特に言う必要はないのだが、ヒイロはビクビクしながら、半分開いていた門の内へと入って行く。

 ワイワイガヤガヤ、と、学園の中は驚くほど人が蠢いていた。
 忙しそうに何かを持って走り回っている人。ゆったりと花壇に水をあげている人。ベンチで座って喋りこんでいる人。
 ボロ雑巾のように倒れ伏している人。空を飛んでいる人。噴水でシャンプーをしている人。

 門に入ってから、校舎入り口までは300m以上。
 しかしその300mちょっとの空間には、これでもかと言うほど奇人変人が勢ぞろい。もちろん彼等は特別おかしいわけではない。この学園では日常茶飯事だ。
 ヒイロも来月辺りには慣れていることだろう、それが良い事が悪いことかは置いておいて。
 ヒイロは門から校舎までへと続く道を歩く。

 歩く通路は色とりどりのレンガで、まるでアートのような美しさ。両脇にはたくさんの花が咲く花壇があり、通路中央には大きな噴水。
 噴水の脇を半円を描くように通り抜ければ、築数百年は経過した荘厳な建物。

 ひび割れた箇所も、植物が蔦や根を張った箇所も、明らかに後から増設されたような場所も、見ていて飽きない威圧感のある学園。

 校舎本体建築以外は、全て学園の生徒が単位のために製作し、建設し、補修し、増築している。庭や内装で言うならば全て。それを知っていればヒイロもこんなことができるようになるのか、と、学園での自分の未来に思いを馳せたかもしれない。
 しかしやはり、今はそこらかしこに散りばめられた奇人変人にしか目が行かず、不安にしか傾かない。

「案内の人とかいるのかな」
 ヒイロは校舎の中へと入って行く。ヒイロ自身、それなりに度胸があり、良くも悪くも鈍感だが、あまり初対面の人と話すのは得意ではない。むしろ気後れするタイプ
 さきほどもたくさんの人を横目に、誰にも話しかけることなく300mを歩ききってしまった。確かに奇人変人が多かったが、よく見ればまともな者もいた。しかし話しかけることなく、ヒイロは通り過ぎてしまっている。

「……誰もいないな。職員室、職員室はどこだろう」
 さきほどの喧騒とうって変わって、人のいなくなった学園内。それなりに珍しい瞬間だ、今日がまだ春休みということも理由の1つだろうか。

「受付とかは……、あ、あれかな?すみませーん」
 ヒイロは辺りをキョロキョロと見回し、窓口を発見する。そこは確かに受付窓口。しかし残念だが休みのようで、生徒や職員はいるが窓口には誰もいない。

「すみませーん」
 誰もいないことを分かっていたが、頼れる唯一の場所に縋ろうと、一生懸命大きな声を出す。もしかしたらそれで向こうから話しかけてくれるかもしれないという淡い期待も込めて。

「すみま――」
「よー、てめーどこのもんだー」
 と、その時誰かがヒイロへ話しかけた。かなり喧嘩腰だが、声はどこか幼く威圧感はゼロ。助かった、そう思ってヒイロは振り向く。
 しかし。
「あ、あれ?」

 振り向いた方向には誰もいない。確かに声はしたと言うのに。
「上だ上ー」
 そう言われ、今度は上を向く。
 そこには20cmもないような小さな人が浮かんでいた。羽の生えた、人型の生き物。
「せ、精霊……」
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