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1話 ハッピーエンドを迎えるために

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『戦争はこれで本当に終わりを迎えた。
 復興はこれで本当に始まりを迎える。
 そう。
 絶望は今日この日本当の意味で終わり、希望は今日この日本当の意味で始まる。』

 だからこれは、絶望の物語のエピローグで、希望の物語のプロローグ。
 物語の結末は決まっている、希望に至るハッピーエンド。


「薬ー、薬はいりませんかー」
 灰色の髪の少年は、レンガで舗装された表通りを歩いていく。大きな木箱を背負い、まばらに通る人に声をかけながら。
「傷、風邪、頭痛に火傷、どんな薬も揃ってますよー」
 少年の名前はヒイロ。売れない薬売り。

「ああ薬、赤ぎれの薬を1つ、貰おうかねえ」
「ありがとうございます。はい、どうぞ」
 1日に売れる薬は2つ3つ。満足に暮らしていけるような額は到底稼げていない。それでもヒイロは嬉しそうに、楽しそうに、満足そうな毎日を送っている。

 畑を耕し森に入れば、自分が食べられる分の食べ物は確保できる。
 最低限度の生活を送れるだけの知識もある。
 薬の調合はまだまだ上手くなく、質の良い物こそ作れないが、その分安く売れる。そうやって人を助けて生きていけるのなら、それだけで十分だと、ヒイロは毎日を満足して送っていた。
「薬ー、薬はいりませんかー」

 レンガで舗装された道。
 修繕されることの少ない道は暦も長くガタガタで、隣を走り去った車やバイクは振動に揺られ激しい音を鳴らした。
 喧騒。とは言っても大体の時は静かな町。車もたまに通る程度しか見かけない。所持率が少ないことも時間帯が悪いこともあるが、それ以上に人口が少ない。ここは田舎。
 田舎特有のガランとした町、道を1本外れればすぐさま森や山が広がっている。

 そのため薬売りの数も少ないが、お客の数も少ない。薬が売れないのは当然。しかしヒイロはここで薬を売る。
「傷、風邪薬にー」
 ヒイロは満足した生活を送っている。
「あのー君」
「はい。どの薬ですか?」

 そんな閑散とした町だが、先ほどのお爺さんに続いてすぐさま2人目のお客さん。今日は良い日だと嬉しそうに、ヒイロは声の方に振り返った。
「これ、許可印押してないよね?資格は持ってる?」
「し、資格、ですか?」
「うん、資格」
 ヒイロは困惑している。
 声の主は、薬も必要なさそうな精悍な青年。キリっとした制服に身を包んだ青年。
 
「はい、私警察です」
「あ……」
「無許可で薬販売の現行犯で逮捕ね」
 7つの腕輪を身につけたヒイロの細腕に、さらに手錠が加わる。
「あ、あ、ああ……」
 ヒイロはそのまま警察へと連れて行かれた。

 そしてヒイロは、コールステリア冒険者養成学園に通うことになる。
 精霊と共に戦い外界で様々な物を採取する冒険者をメインに、しかしその他21の様々な職、ヒイロが専攻する薬学についても詳しく学べる3国最大の学園に。

 ヒイロはそこで様々な体験をすることになる。
 そして――。

 物語が希望を迎える時、ヒイロはそこにいない。なぜなら、ヒイロとヒイロにまつわる者達の死こそが、絶望を終わらせる唯一の手段なのだから。
 絶望の淵からもがいて苦しんで、償いと幸せを求めた少年の死をもって、この物語は希望の結末を迎える。
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