8 / 8
序章 とち狂った人々
第七話 「事件の顛末 とあるルポライターの手記」
しおりを挟む
<事件より一か月後>
結局、あの日の清水 十三氏と、少年Bに対する放火犯疑惑捏造事件は、そもそも全くの捏造で、少年Aによる狂言であったと、警察は結論づけた。
あの日の浜松アリーナにおける人的被害は、浜松市市制以来最悪の犯罪で、想像を絶すると言っていいだろう。
死者83名、行方不明者13名、重軽傷者735名、そのうち、中学生以下の被害が大きく、
死者13名、行方不明者3名、重軽傷者217名、
当日は、ファミリー層が多く、特にマイルドヤンキー層と呼ばれる比較的若く、裕福ではない子供づれが、特別価格に引かれ、また、TVで放映されたお涙頂戴が彼らの琴線に触れたことで、多く入場していた。
それら、彼らの善意と楽しみが、入場を煽るためのステマであり、狂言であったと知らされた彼らの怒りは凄まじいの一言であった。
結局、当初主犯と断罪された、清水 十三氏が、早々に身柄を警察が押さえられ、会場より連れ出されたことで、彼らの怒りのはけ口が居なくなったということが、混乱に拍車をかける結果となったのだ。
サーカス団の団員に、詰め寄り、襲い掛かる者。
浜松アリーナの係員に詰め寄り、襲いかかる者。
浜松アリーナの備え付け座席に火を付ける者。
屋内では、更に、観客同志による傷害事件が多発。
早々に屋外に退避した者の中には、今度は屋外に出てサーカス団の車両に火を付けるなど、器物損壊が多数。その中に浜松アリーナの入り口付近で売店への略奪や火付けなど、おこなう者まで出る始末。
収集のつかない大混乱の中、少年Aに付いて護衛していた警官が、当の少年Aに襲われ殉職。拳銃を奪われ、その拳銃によって、クラスメイト七人を殺害。こと、ここに至って、真犯人がこの少年Aでは? との疑惑が生まれたが、時既に遅し。既に暴動は収まる気配なく、警官隊突入により、更に被害を拡大する結果となった。
そして、混乱のさなか、突如起こった激しい爆発!
爆発によって、リンク内で争っていた少年A並びに少年Bを中心として、アリーナ席付近を含む半径20m近辺が完全に消失。爆風で飛ばされてアリーナ近辺で暴動を起こしていた者たちはほぼ無力化されたものの、中心部分にいた中学生三名と、サーカスの道具や、備品のパイプ椅子など、計数千点の物品が跡形も無く消失したのだ。不思議なことに、消失したものの近辺にいた者たちは、例えば熱風などによる被害も無く、爆発そのものが、まるで最初から無かったような見事な消失ぶりであった。
当然、被疑者行方不明のまま事件は幕引きとなったが、衆人環視の上で見事なまでの消失劇に、
サーカス団のマジックによる逃亡説。
痕跡を残さずすべて警察が持ち去ったという陰謀説。
マイクロ核兵器による証拠隠滅説。
など、どれも決定打に欠ける理由説明でお茶を濁し、早々に幕引きとしたい警察側の本音が透けて見えるのも、主犯の少年の身柄を確保出来なかった失態ゆえであろうか?
何しろ、死傷者計800人超えの大事件である。しかも、主犯が13歳の少年でありながら、身柄の確保という大前提となる結果を出せなかった警察には、無数の非難が寄せられている。
最後に、少年Aを知るある人物の証言を聞いてほしい。プロレスラーのF氏だ。プロレスラーを志し、この事件のひと月前に入団試験を受けた時の試験官だそうだ。
「なにしろ、出会って最初に思ってしまったのは、〝華が無い〟ってことだったんだ。父親からは、そもそも落とすよう頼まれていたが、あれなら頼まれるまでもなく失格だったな。まあ、こちらとしては、年に数百人いる入団希望者の一人位にしか思ってなかったんだよ。その時までは。ただ、俺自身は、こんな事件を起こしたからと言って一角の人物だった、とは言えないんだよなぁ。むしろ、普通の人間が狂気をもったら、ここまでやるだろうかなぁ、という印象だった。動機としては、やはり、俺が落としたことが、父親絡みだったからかもしれないが、受かったとて、何ができるってもんでも無い。華の無い俺が一番良く知ってることだからなぁ」
筆者に一つ分かったことは、彼はただ普通の子供であったということだ。
狂気は、普通の人にこそ宿る。
これは、筆者が世界を放浪して発見した真理の一つである。
~ジョー=コッカー記す~
結局、あの日の清水 十三氏と、少年Bに対する放火犯疑惑捏造事件は、そもそも全くの捏造で、少年Aによる狂言であったと、警察は結論づけた。
あの日の浜松アリーナにおける人的被害は、浜松市市制以来最悪の犯罪で、想像を絶すると言っていいだろう。
死者83名、行方不明者13名、重軽傷者735名、そのうち、中学生以下の被害が大きく、
死者13名、行方不明者3名、重軽傷者217名、
当日は、ファミリー層が多く、特にマイルドヤンキー層と呼ばれる比較的若く、裕福ではない子供づれが、特別価格に引かれ、また、TVで放映されたお涙頂戴が彼らの琴線に触れたことで、多く入場していた。
それら、彼らの善意と楽しみが、入場を煽るためのステマであり、狂言であったと知らされた彼らの怒りは凄まじいの一言であった。
結局、当初主犯と断罪された、清水 十三氏が、早々に身柄を警察が押さえられ、会場より連れ出されたことで、彼らの怒りのはけ口が居なくなったということが、混乱に拍車をかける結果となったのだ。
サーカス団の団員に、詰め寄り、襲い掛かる者。
浜松アリーナの係員に詰め寄り、襲いかかる者。
浜松アリーナの備え付け座席に火を付ける者。
屋内では、更に、観客同志による傷害事件が多発。
早々に屋外に退避した者の中には、今度は屋外に出てサーカス団の車両に火を付けるなど、器物損壊が多数。その中に浜松アリーナの入り口付近で売店への略奪や火付けなど、おこなう者まで出る始末。
収集のつかない大混乱の中、少年Aに付いて護衛していた警官が、当の少年Aに襲われ殉職。拳銃を奪われ、その拳銃によって、クラスメイト七人を殺害。こと、ここに至って、真犯人がこの少年Aでは? との疑惑が生まれたが、時既に遅し。既に暴動は収まる気配なく、警官隊突入により、更に被害を拡大する結果となった。
そして、混乱のさなか、突如起こった激しい爆発!
爆発によって、リンク内で争っていた少年A並びに少年Bを中心として、アリーナ席付近を含む半径20m近辺が完全に消失。爆風で飛ばされてアリーナ近辺で暴動を起こしていた者たちはほぼ無力化されたものの、中心部分にいた中学生三名と、サーカスの道具や、備品のパイプ椅子など、計数千点の物品が跡形も無く消失したのだ。不思議なことに、消失したものの近辺にいた者たちは、例えば熱風などによる被害も無く、爆発そのものが、まるで最初から無かったような見事な消失ぶりであった。
当然、被疑者行方不明のまま事件は幕引きとなったが、衆人環視の上で見事なまでの消失劇に、
サーカス団のマジックによる逃亡説。
痕跡を残さずすべて警察が持ち去ったという陰謀説。
マイクロ核兵器による証拠隠滅説。
など、どれも決定打に欠ける理由説明でお茶を濁し、早々に幕引きとしたい警察側の本音が透けて見えるのも、主犯の少年の身柄を確保出来なかった失態ゆえであろうか?
何しろ、死傷者計800人超えの大事件である。しかも、主犯が13歳の少年でありながら、身柄の確保という大前提となる結果を出せなかった警察には、無数の非難が寄せられている。
最後に、少年Aを知るある人物の証言を聞いてほしい。プロレスラーのF氏だ。プロレスラーを志し、この事件のひと月前に入団試験を受けた時の試験官だそうだ。
「なにしろ、出会って最初に思ってしまったのは、〝華が無い〟ってことだったんだ。父親からは、そもそも落とすよう頼まれていたが、あれなら頼まれるまでもなく失格だったな。まあ、こちらとしては、年に数百人いる入団希望者の一人位にしか思ってなかったんだよ。その時までは。ただ、俺自身は、こんな事件を起こしたからと言って一角の人物だった、とは言えないんだよなぁ。むしろ、普通の人間が狂気をもったら、ここまでやるだろうかなぁ、という印象だった。動機としては、やはり、俺が落としたことが、父親絡みだったからかもしれないが、受かったとて、何ができるってもんでも無い。華の無い俺が一番良く知ってることだからなぁ」
筆者に一つ分かったことは、彼はただ普通の子供であったということだ。
狂気は、普通の人にこそ宿る。
これは、筆者が世界を放浪して発見した真理の一つである。
~ジョー=コッカー記す~
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
ちびりゅうの すごろくあそび
関谷俊博
児童書・童話
ちびりゅうは ぴゃっと とびあがると くちから ぼっと ひを ふきました。ぼっぼっぼっぼっ ぼっぼっぼっぼっ。ちびりゅうの ひは なかなか おさまりません。
荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~
釈 余白(しやく)
ライト文芸
今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。
そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。
そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。
今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。
かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。
はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる