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第2話 辺境伯の恋人
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兄のヨーク卿に手紙を出してから数日後、マリーゼはヨーク卿と一緒にカフェでランチを楽しんでいた。
ヨーク卿が貴族女性に人気なのは、男爵家の嫡子で商才があり金持ちだからだ。
だが、それだけではない。
ヨーク卿は金髪に青い瞳、繊細な絵筆で描かれたような細い鼻筋。
そして男性にしては豊かな赤みを帯びた唇は、妹のマリーゼでさえ魅入ってしまう。
また学生でありながら商才のあるヨーク卿は、自分の価値を高める為に貴族のお坊っちゃんとは思えない鍛えぬかれた筋肉を常に維持していた。
「お兄様!今日はお会い出来て嬉しいわ」
「私もだよ。最近なかなか会えないから心配していたんだけど、何か楽しいことでもあったのかな?」
「そうですわ、ちょっとね。あ、そうだわ。これご覧になって!」
マリーゼは満面の笑みでカフェで頼んだ紅茶を口に含んだ。
「実は辺境伯の恋人が男なんですって。奥様がお怒りで離婚沙汰になりそうなのよ」
「また暴露記事にするのかい」
「そうですわ!お兄様はご存じ?辺境伯といえば、高位貴族ですよね」
マリーゼの兄は辺境伯について語り始めた。
しかし、マリーゼは退屈そうにヨーク卿の話を聞いている。
やっぱり、お兄様の話にはネタとしての価値はないわね。
マリーゼは「その浮気相手の方が気になるわ」と言って、話を元に戻した。
ヨーク卿は苦笑いしながらも、浮気相手について詳しく説明してくれた。
「それがね、ちょっと面白いんだよ」
「何ですの?」
マリーゼは興味津々でヨーク卿の話に耳を傾けた。
「辺境伯の浮気相手は、奥様の連れ子だそうだよ」
「え?まさか、そんなことってありますの?」
マリーゼは驚いて思わず立ち上がった。兄も驚いたと言って頷いている。
(まさか、辺境伯が奥方の連れ子と浮気だなんて。これは使えるわ)
マリーゼは記事にしようと即決した。
すぐにメモに取り始めると、兄が慌てて止めた。
「ま、待ってくれよ」
「どうして?これは絶対ネタになりますわ!」
「落ち着いて!その辺境伯は男爵家より上の高位貴族だぞ」
マリーゼは一気に興醒めした。
浮気相手が男で奥方の連れ子なら、どんな物語にするかと妄想しさらに面白くなりそうだったが、相手が高位貴族では悩んでしまう。
「それは駄目ね」
でも諦めきれない。
マリーゼが残念そうに項垂れると、ヨーク卿は浮気相手のことを話し始めた。
「面白いことにね、その連れ子も辺境伯に熱をあげているそうなんだ」
「は?連れ子ってまだ子供じゃございませんの?」
「うーん確か16歳じゃなかったかな。そして、その連れ子は奥方の連れ子だけど辺境伯に息子はいないから、次期領主になるべくして育てられた貴族男子なんだよ」
マリーゼは高位貴族同士の禁断の恋かとテンションが上がった。
しかも相手は男。ネタとしては申し分ない。
しかも相手が男だなんて。
高位貴族の醜聞ネタはウケそうだし、マリーゼも気になっていた。
しかし格上すぎて男爵家の存亡にも関わる。
(せっかく面白いネタだと思ったのに)
マリーゼはこのネタを封印して、他のネタを探す事にした。
◇◆◇
ところがある日、いつも掲載している暴露記事コレットに辺境伯の浮気相手が男だと掲載されてしまったのだ。
マリーゼは「どうしてよ!」と叫びながら、カフェで泣き喚いた。
浮気相手の記事を載せたのは、いつもネタを掲載してくれる先輩記者のセバスチャンだった。
「勝手に記事を掲載するなんてなんて酷いじゃありませんか」
セバスチャンを責め立てると、彼は情報提供者が辺境伯の奥方だと教えてくれた。
マリーゼのネタを奪った訳では、なかったようだ。
しかし浮気相手の正体については書かれていない。
記事にしたと言う事は、自分の息子が旦那の浮気相手だと気付いていないのだろう。
しかも辺境伯夫人がネタもとって事になる。
ならば、まだネタは使えるとマリーゼは考えた。
しかし、浮気相手が連れ子だと知られたら奥方が黙っていないだろう。
もしかすると辺境伯と辺境伯の連れ子の醜聞になるかもしれず、そんな記事は書けない。
どうするべきかしら?
そこで思いついたのが浮気相手の青年をモデルにして、ちょっといい恋愛小説を書けば、それは売れるだろうと確信したのだ。
そして、すぐに行動を開始した。
「ねえ、お兄様!私いい恋愛小説を書いたの読んで!」
「う~ん、まあ、ギリギリ匿名小説って感じだけど、内容は面白いな」
マリーゼはセバスチャンにネタを提供してもらったことを説明し、彼の情報を元に書いた恋愛物語だと説明した。
そして、辺境伯子息と騎士(男)の恋愛物語をでっち上げたのだ。
◇◆◇
辺境伯子息と騎士(男)の恋愛物語は、上手く書けていると思った。
しかし辺境伯夫人が乗り込んできたのだ。
「男爵家の娘ごときが貴族の恥を暴露するなんて、何て女なの」
「あの┅┅その」
マリーゼは泣きそうになったが、ここで引き下がるわけにはいかない。
私は他にもネタを手に入れているのだから!
「お怒りのところ申し訳ないのですが、奥方様の浮気相手はこの方ではありませんでしょうか?」
マリーゼは懐で温めていた暴露記事を辺境伯夫人に見せた。
すると、夫人は顔を真っ青にしてガタガタと震え出した。
「なぜそれを」
マリーゼは「私のネタです」と言ってニヤリと笑った。
そして、これが問題になるなら口外しないと約束すると言ったが、夫人は諦めるつもりがないようだ。
それならと、マリーゼは開き直って逆に脅し始めた。
「あなたのご主人の浮気相手はただの男ではありません。あなたの連れ子ですのよ。
私は、それを暴露するのは、はばかれるので、辺境伯子息と騎士の物語に作り替えたのです。
あなたの浮気相手は平民で現実ですが、辺境伯子息と騎士が結ばれるのはただの恋愛小説です。
どうですか?面白そうでしょう?」
すると夫人は怒りのあまり興奮しすぎて、その場で倒れてしまった。
後日、辺境伯子息と騎士の物語はフィクションだから構わないが、辺境伯夫人については一切物語にしないようにと手紙が送られてきた。
これで心配はなくなった。
マリーゼは夫人が倒れられたのにはショックを受けたが、すぐに次のネタを探し始めた。
早くいいネタを探さなきゃ!
◇◆◇
それから3ヵ月後、マリーゼはやっと探し当てた。この恋愛小説にぴったりなネタを。
それは美しき舞台女優と、彼女を支え続けたパトロンとの恋。
勿論、ただの恋愛じゃないわ。パトロンのカスタム卿には妻子がいるんだから。
さあて、どんな物語にしてあげようかしら?
ヨーク卿が貴族女性に人気なのは、男爵家の嫡子で商才があり金持ちだからだ。
だが、それだけではない。
ヨーク卿は金髪に青い瞳、繊細な絵筆で描かれたような細い鼻筋。
そして男性にしては豊かな赤みを帯びた唇は、妹のマリーゼでさえ魅入ってしまう。
また学生でありながら商才のあるヨーク卿は、自分の価値を高める為に貴族のお坊っちゃんとは思えない鍛えぬかれた筋肉を常に維持していた。
「お兄様!今日はお会い出来て嬉しいわ」
「私もだよ。最近なかなか会えないから心配していたんだけど、何か楽しいことでもあったのかな?」
「そうですわ、ちょっとね。あ、そうだわ。これご覧になって!」
マリーゼは満面の笑みでカフェで頼んだ紅茶を口に含んだ。
「実は辺境伯の恋人が男なんですって。奥様がお怒りで離婚沙汰になりそうなのよ」
「また暴露記事にするのかい」
「そうですわ!お兄様はご存じ?辺境伯といえば、高位貴族ですよね」
マリーゼの兄は辺境伯について語り始めた。
しかし、マリーゼは退屈そうにヨーク卿の話を聞いている。
やっぱり、お兄様の話にはネタとしての価値はないわね。
マリーゼは「その浮気相手の方が気になるわ」と言って、話を元に戻した。
ヨーク卿は苦笑いしながらも、浮気相手について詳しく説明してくれた。
「それがね、ちょっと面白いんだよ」
「何ですの?」
マリーゼは興味津々でヨーク卿の話に耳を傾けた。
「辺境伯の浮気相手は、奥様の連れ子だそうだよ」
「え?まさか、そんなことってありますの?」
マリーゼは驚いて思わず立ち上がった。兄も驚いたと言って頷いている。
(まさか、辺境伯が奥方の連れ子と浮気だなんて。これは使えるわ)
マリーゼは記事にしようと即決した。
すぐにメモに取り始めると、兄が慌てて止めた。
「ま、待ってくれよ」
「どうして?これは絶対ネタになりますわ!」
「落ち着いて!その辺境伯は男爵家より上の高位貴族だぞ」
マリーゼは一気に興醒めした。
浮気相手が男で奥方の連れ子なら、どんな物語にするかと妄想しさらに面白くなりそうだったが、相手が高位貴族では悩んでしまう。
「それは駄目ね」
でも諦めきれない。
マリーゼが残念そうに項垂れると、ヨーク卿は浮気相手のことを話し始めた。
「面白いことにね、その連れ子も辺境伯に熱をあげているそうなんだ」
「は?連れ子ってまだ子供じゃございませんの?」
「うーん確か16歳じゃなかったかな。そして、その連れ子は奥方の連れ子だけど辺境伯に息子はいないから、次期領主になるべくして育てられた貴族男子なんだよ」
マリーゼは高位貴族同士の禁断の恋かとテンションが上がった。
しかも相手は男。ネタとしては申し分ない。
しかも相手が男だなんて。
高位貴族の醜聞ネタはウケそうだし、マリーゼも気になっていた。
しかし格上すぎて男爵家の存亡にも関わる。
(せっかく面白いネタだと思ったのに)
マリーゼはこのネタを封印して、他のネタを探す事にした。
◇◆◇
ところがある日、いつも掲載している暴露記事コレットに辺境伯の浮気相手が男だと掲載されてしまったのだ。
マリーゼは「どうしてよ!」と叫びながら、カフェで泣き喚いた。
浮気相手の記事を載せたのは、いつもネタを掲載してくれる先輩記者のセバスチャンだった。
「勝手に記事を掲載するなんてなんて酷いじゃありませんか」
セバスチャンを責め立てると、彼は情報提供者が辺境伯の奥方だと教えてくれた。
マリーゼのネタを奪った訳では、なかったようだ。
しかし浮気相手の正体については書かれていない。
記事にしたと言う事は、自分の息子が旦那の浮気相手だと気付いていないのだろう。
しかも辺境伯夫人がネタもとって事になる。
ならば、まだネタは使えるとマリーゼは考えた。
しかし、浮気相手が連れ子だと知られたら奥方が黙っていないだろう。
もしかすると辺境伯と辺境伯の連れ子の醜聞になるかもしれず、そんな記事は書けない。
どうするべきかしら?
そこで思いついたのが浮気相手の青年をモデルにして、ちょっといい恋愛小説を書けば、それは売れるだろうと確信したのだ。
そして、すぐに行動を開始した。
「ねえ、お兄様!私いい恋愛小説を書いたの読んで!」
「う~ん、まあ、ギリギリ匿名小説って感じだけど、内容は面白いな」
マリーゼはセバスチャンにネタを提供してもらったことを説明し、彼の情報を元に書いた恋愛物語だと説明した。
そして、辺境伯子息と騎士(男)の恋愛物語をでっち上げたのだ。
◇◆◇
辺境伯子息と騎士(男)の恋愛物語は、上手く書けていると思った。
しかし辺境伯夫人が乗り込んできたのだ。
「男爵家の娘ごときが貴族の恥を暴露するなんて、何て女なの」
「あの┅┅その」
マリーゼは泣きそうになったが、ここで引き下がるわけにはいかない。
私は他にもネタを手に入れているのだから!
「お怒りのところ申し訳ないのですが、奥方様の浮気相手はこの方ではありませんでしょうか?」
マリーゼは懐で温めていた暴露記事を辺境伯夫人に見せた。
すると、夫人は顔を真っ青にしてガタガタと震え出した。
「なぜそれを」
マリーゼは「私のネタです」と言ってニヤリと笑った。
そして、これが問題になるなら口外しないと約束すると言ったが、夫人は諦めるつもりがないようだ。
それならと、マリーゼは開き直って逆に脅し始めた。
「あなたのご主人の浮気相手はただの男ではありません。あなたの連れ子ですのよ。
私は、それを暴露するのは、はばかれるので、辺境伯子息と騎士の物語に作り替えたのです。
あなたの浮気相手は平民で現実ですが、辺境伯子息と騎士が結ばれるのはただの恋愛小説です。
どうですか?面白そうでしょう?」
すると夫人は怒りのあまり興奮しすぎて、その場で倒れてしまった。
後日、辺境伯子息と騎士の物語はフィクションだから構わないが、辺境伯夫人については一切物語にしないようにと手紙が送られてきた。
これで心配はなくなった。
マリーゼは夫人が倒れられたのにはショックを受けたが、すぐに次のネタを探し始めた。
早くいいネタを探さなきゃ!
◇◆◇
それから3ヵ月後、マリーゼはやっと探し当てた。この恋愛小説にぴったりなネタを。
それは美しき舞台女優と、彼女を支え続けたパトロンとの恋。
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