上 下
22 / 26

私の常識は通じない

しおりを挟む
「あら、聞いたわよ王都に行ってたんですってね。おかえりなさい」
「そうそう、ついでに視察も頼まれちゃってねー。ただいま、ようやくラピュレさんの料理が食べられるよ」

ディエドに帰り着いて、寮に向かう前にラピュレさんの食堂に寄った。
ちょっと豪華な食事をリクエストして、私達の帰還祝いパーティー&キースさんの誕生日を祝うのだ!

「まさかアンリちゃんも一緒だったの?」
「はい、王都行ったことなかったんで連れてってもらってきました!これお土産です」

確か、フェニーラって町で買った謎の果物で作られたジャム。
すっぱめでラズベリーっぽいけど、聞きなれない名前過ぎて覚えてない。
気に入ったから2瓶買ってたんだけど、渡すのにちょうどよかったな。

「まぁ嬉しいわ、ありがとね!」
「キースさんも大勢の食事久々だし、豪勢にいきたいんだけどお願いできる?」
「いいわね、任せてちょうだい。ちょうど牛を一頭仕入れた所だから、どーんと厚切りにしましょ」
「やったステーキ!」

異世界レベルの厚切りに期待値半端ない…!
漫画みたいな凄いのくるかな?やばい楽しみ過ぎる!

「じゃあアンリちゃんはケーキ買ってきてくれる?」
「うん!…って、一人で?」
「この街なら、迷子にならないから大丈夫だよね」

旅してる間、ずっと離れずに行動してきた。
お金の単位は一応覚えたけど、一人で買い物したことはない。
この世界、値札がないから不安なんだよねー。
これ欲しいですって言ったら、向こうが後出しで値段言ってくるの。
比較的お金持ちだからいいんだけどさ、日本じゃ値段と性能を秤にかけて悩み抜いて買い物してたからひやひやしちゃう。

「リクエストある?」
「ん?協会へ行く途中で、お菓子屋さんの場所確認してたじゃないか」
「あぁうん、道は分かるよ大丈夫!クロードはどういうケーキがいい?」

時々、言葉が通じない。
前後の話で察したり雰囲気でカバーしてくれてることが多いから、どれが翻訳されてないワードなのかはっきりしないけどね。
リクエストは通じないみたい。線引きがよく分かんないなぁ。

「アンリちゃんが気に入ったやつでいいよ」
「おっけー任された!」

まぁ何があるか分かんないもんね。
確か甘いのが好きらしいから、生クリームたっぷりなのを選んであげよう。

さっき言われた通り、協会へ行った日に気になるお店はチェックしてある。
お菓子屋さんは3軒見たけど、一つはゼリーとかプリン系統ラインナップだった気がするから候補から外す。
とりあえず近い方のお店に行くことにした。


「いらっしゃいませ」

店内に入ると、甘い香り。
パティシエはお菓子を食べなくても、空気感染で虫歯になるとか聞いたことがあるけど本当かな?
この世界の医療水準謎だけど、協会が病院兼業だし不安だわー。
虫歯には気を付けよう。

「……」

ショーケースのケーキを吟味していると、熱い視線を感じた。
顔を上げると、案の定店員さんと目が合う。

「…決まったら呼びます」

何も買わずに出ていける雰囲気じゃないな。
ケーキは2種類しかでてないけど、どっちもめっちゃ美味しそうなので
ここで決める気だったからいいけど!

2、1で買うか、全部一緒にするか…。悩むわぁ。どっちも味見したいけど、どうしよっかな。
私が選んだのとクロードが選ぶのが別だったらベストなんだけど、キースさんに一口頂戴はいいにくいな。

「………」

艶が魅惑のチョコレートタルトには、ベリーがふんだんに乗ってて美味しそうだし、
ぽってり生クリームなスポンジケーキには、桃とトマトみたいなのが飾られてて美味しそう。(多分トマトじゃないだろうけど)
って視線を動かしまくって吟味中なんだけど、ガラス越しに見えるぞ…まだじっと見つめられてる。

「えーっと、私優柔不断なんで…」
「お姉さん、キース先生が拾った人?」

おっと?

「そう、アンリっていいます。…貴女は私が倒れてるのを見つけてくれた生徒さん?」
「わたしはリルム。行き倒れの人なんて初めて見たから、びっくりしちゃった。この街の人だったのね」
「それは…申し訳ない。ホント困ってたから、見つけてくれてよかったよ」

バイトかな?いや、この世界そういうシステムっぽくないな…
お土産を買うのに立ち寄った場所でも、売り子は若い子が多かった。小・中学生ぐらいね。

「ここリルムちゃんのお家?」
「そうだよ、ディエドでケーキといえば、うち!」
「お家の手伝いしてて、偉いね」

やっぱり当たってた!
ってなると、人を雇うってのはあんまりないのかな?
毒さえ飲んどけば私は自由らしいけど、ニートは肩身が狭いから何か仕事したいんだけどなぁ。
クロードに確認しとかないとね。

「じゃあ、こっち2つとこれ1つください」

結局、チョコ2で生クリーム1にした。
キースさんなら、残ったのでいいっていう気がしてきたからね。
甘いのが好きなクロードに選ばせてあげて、違う方を私が食べて、残りキースさん。完璧!

「えぇっ、2つ?…予約じゃなくて、今?」
「え、っと…んん?」
「材料はあると思うけど、生地を焼くのに時間が…お父さんに聞いてくるね」

何かおかしい!
そして、この違和感の正体を速攻察した私は偉い。

「あーっ間違えたごめんごめん!冗談だよ~これ1つもらえるかな!?」

このケーキ、ピース売りしてないんだな!?
ちょいちょい日本と勝手が違うからなー、まったくこれだから…。

「やだもー、びっくりしちゃった」
「は、はは…。ケーキってホール売りだけなの?3人で食べる予定だからちょっと多いような…切り分けとかは…してないよね」
「ほおる?」
「何でもないでーす。いくら?」

選ばれたのは、チョコレートタルトでした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

隠された第四皇女

山田ランチ
ファンタジー
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

ドラゴン王の妃~異世界に王妃として召喚されてしまいました~

夢呼
ファンタジー
異世界へ「王妃」として召喚されてしまった一般OLのさくら。 自分の過去はすべて奪われ、この異世界で王妃として生きることを余儀なくされてしまったが、肝心な国王陛下はまさかの長期不在?! 「私の旦那様って一体どんな人なの??いつ会えるの??」 いつまで経っても帰ってくることのない陛下を待ちながらも、何もすることがなく、一人宮殿内をフラフラして過ごす日々。 ある日、敷地内にひっそりと住んでいるドラゴンと出会う・・・。 怖がりで泣き虫なくせに妙に気の強いヒロインの物語です。 この作品は他サイトにも掲載したものをアルファポリス用に修正を加えたものです。 ご都合主義のゆるい世界観です。そこは何卒×2、大目に見てやってくださいませ。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

叶えられた前世の願い

レクフル
ファンタジー
 「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー

処理中です...