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しかしてその実体は

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リリリリリリン
たったったった、どん ばーんっ

「大変ですわ大変ですわよ!早く屋敷までいらして!」

キースさんへの質問攻め(未遂)は、美女の突進によって阻まれた。

「誰?何、事件?」

こんなに慌ててキースさんを呼びに来るなんて、よっぽどだろう。
緊急出動か…またこの前みたいに魔物だったら、どうしよう。私が使えちゃうよねー
怖いけど、私には被害がないならまぁ別に助けてあげたくないわけではない。
怖いけど。

「何があったんですか」
「キースさんも是非一緒に」
「えぇ、直ぐにでも。アンリ、行こう」

"も"ってことはこの人私を呼びに来たの?
結局、何があったの!?何で行かなきゃいけないの?
聞きたくてもお姉さんもうUターンして行っちゃったし!?

「待って待って心の準備ぐらいさせてー!」
「悪いが僕も何が何だか…しかし急いだほうが良いことだけは確かだよ」

引きずられるように手を引かれ、寮を出る。
土足の文化はもたつく暇もいらないな!

「馬車で来ましたの、乗ってくださいな…レック、出してちょうだい」
「えー!?ちょ、まだ乗ってない…!」

お姉さんは、既に馬車に乗り込んでいた。
私たちを迎え入れるように扉を開けて待っていたようだけど、乗り込むのは待ってくれないらしい。
既に業者にGOサインを出している。
このお姉さん慌ただし過ぎない!?

「はいよ奥様」
「アンリ、飛ぶよ」
「はぁーーっ!?…うぐっ」

つかんでいた手を離されたと思ったら、その腕で抱きかかえられていた。
がっ、と鳩尾を掴まれたから思わず呻いたわ…
何なの…コレなんなの…
展開がいきなりすぎてついていけない…
正直この世界に来た初日より意味が分からない…

キースさんに抱えられて馬車に転がり込む。
力いっぱい絞められたボディも痛いけど、投げ込まれた時に打った頭もかなり痛い。

「………ぅぅぅぅ…」
「あらあら、まぁ!キースさんは乱暴ねぇ、ねぇ大丈夫?」

わしゃわしゃと頭を撫でられ…これ撫でてるのか?
めっちゃぼさぼさにされてる!

「あ、大丈夫です…いいですいいです…やめて~」
「アンリ、この方はグレイの奥さんのファシーシャさん」

グレイさん結婚してたんだ!?

「屋敷に招かれたということは、国から通達があったんだと思う…悪い話じゃなければいいけれど」

キースさんの呟きに精神的に、
グレイさんの奥さんに体力的にぐったりさせられつつ
あれよこれよという間に屋敷とかいう場所へと連れていかれてしまった。

 



*** 





「ぉあーめっちゃ豪邸!グレイさんってお金持ちなんだね」
「そりゃあ彼、貴族だからね」
「マジでか!」

神戸の異人館みたいなオシャレで立派な屋敷だわ。
何か知らんが凄いなー貴族か~。
通された部屋もお高い喫茶店みたいでおしゃれ。
ごめん縁がなさ過ぎてオシャレとしか言えない。

「キースさんも貴族?お金持ちだよね」
「いや、僕の商家の出だよ」
「へー」

少ししたら、お茶とお菓子も運ばれてきた。
すかさず手を伸ばす私。
さくさくクッキーうっま!

「待たせたな」
「お邪魔してまーす」

イギリス紳士、みたいな恰好のグレイさんが入ってきた。
いやぁ着る服で印象変わるねー。

「何があった?」
「あぁ、アンリのマントなんだが…転移の魔法がかけられた魔法具だったらしい。王都から回収に来た」
「どういう事だ」

どういうことだ。
って思ったタイミングでキースさんが突っ込んでくれたから、ここは黙って聞いておこう。

「この街の近くに大きな魔力溜りがあっただろ。消すように要請してたんだがそれを利用して、大規模な召喚実験を行ったらしい」
「…3年に一度行われる」
「それそれ、この国に恵みをもたらす奇跡の召喚とか言われちゃいるが…実際は何が出てくるか分からない博打みたいな魔法だよ」

博打で来ちゃったのか私。
はずれなの?あたりなの?気になるわー

「ほらね、私気付いたらここに居たんだって言ったでしょ!信じてなかったみたいだけどさ!」
「おぅ、悪かったな」

軽っ!

「今回巫女が願ったのは、前回と同じく"魔物に対抗できるもの"だとよ。前に来たのがレトラ魔草だ」
「人でも草でも出てくるなんてマジ無差別…」

こういう召喚魔法って、術を使った人だけが元に返せるっていうのがよくある設定だけど
ランダム召喚でも元の世界に帰れるのかな…。
そう言えば、どうしようどうしようってずっと思ってただけで別に帰りたいとか考えてなかったな。
まぁ初っ端ぼっちで森に放置プレイだったからもう諦めてたってのが正しいんだけど…。
帰れるなら、帰るかなー けど勿体ない気もするな~

「それで…回収に来たって言ったけど、アンリはよかったのかい?その言い方だともう帰ったんだよね」
「ある事件を調査中だった騎士が、城に帰還がてら回収しに来たんだ。どうせアンリは魔法が効かないから、城まで歩いて行くしかねぇし」
「えっ歩きなの?」
「はっは、悪ぃ流石にねぇよな!街と街を繋ぐ転移の魔法陣があるんだが、それも使えねぇって言いたかったんだ。なに、馬を飛ばせば5日でつくさ」

この言い方だと、そんなには離れてないのかな?
馬って時速何キロ?
いやそもそもここから城まで何キロか聞いたらいいのか、まぁキロで言われても距離感分からないけど。

「飛ばせば、ね。アンリは馬には乗れるかい?」
「いや、無理むり。乗ったことすらないし」
「二人乗りだと倍はかかるな、俺の愛馬を貸してやろう。お前とクロードならそんなに重くないしな」

そういえば、クロードが居ない。
詰所で一人だけ仕事してんのかな。

「クロードが連れてってくれるの?」
「アイツ以外に居ないだろ」
「適任だね」

二人して太鼓判を押す。
そもそも私行くって言ってないんだけど、行くかどうか聞かれてないからまぁ強制なんだろーね。
お城見てみたいからいいんだけどさ。

その辺のモブじゃなくて、王様の命令で召喚されたんだとしたら
"魔王を倒せ"とか世界を救え"みたいなストーリーが始まっちゃうんだろうか?
なんせ、勇者として召喚されたわけじゃなくても"魔物に対抗できるもの"として召喚されたわけだからね。
ちょっとドキドキしてきた。

「準備できたら来るように言ってあるから、アンリも着替えて待っててくれ。…シーシャ、頼む」
「はぁい。さぁアンリさん、こっちへいらして」

正直不安もあるけど、わくわくしながら私も旅支度をする事になった。
…って、今誰も仕事してないじゃん!
平和なとこだから問題ないんだろうけどねー。
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