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お嬢様のお部屋

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箒でささっと、ではなく。ガチで部屋全部拭き掃除を始めたらしいキースさんのことは置いといて、先にご飯を食べることにした。
馴染みのない味付けだったけど、全部すっごく美味しかった…!
あ、量が多かったから、もちろん我慢するまでもなくキースさんの分は残ってるよ。

にしても、食べ終わるまでには来ると思ってたけどいつまで掃除してくれてるのあの人。
なんて、私が言っちゃ悪いけどさー。

「アンリちゃんもコーヒーでいい?」
「カフェオレにしてくれたら飲める~砂糖もね」

これからルームシェアするわけですから、ちゃんと好みは言っておかないとね。
変に遠慮してる場合じゃないわ。

「アンリ嬢!お待たせしました。部屋の準備が整いましたので、どうぞおいでください」
「お疲れ様ですありがとうございます!クロード、キースさんにもコーヒー入れてあげて」
「はいよー、先輩こんな時間かけて何やってたんですか?料理冷めちゃいましたよ」
「すまない、食器は明日返しに行くよ」

なるほど、食べたら返しに行くシステムなのか。
それぐらいなら私の担当にしてもらおうかな!洗物もセットでね。
この寮には取り皿につかう小さいお皿とコップぐらいしかなかったから、全然自炊してないみたい。
寮で共同生活っていったら、掃除当番料理当番があるのかもーと思ってたけど、なさそうで安心したわ。

食後のコーヒー(カフェオレ)片手に、私の部屋に向かう。
リビングとかシャワー室とかの水周りは一階にあって、二階は全部個人の部屋になっている。
広めの廊下を挟んで、左右に4部屋ずつある。
私の部屋は右手側の奥で、キースさんの部屋はその向かいの左手側奥。クロードは左側の一番手前。

そ知らぬ顔で、キースさんの部屋を覗いてやろうとしたけど秒で止めに入られた。
さてはやらしい物があるな…。

「貴女の部屋はこちらです」

優雅に連行された。エスコートとは言わん!
さーて気合入れて綺麗にしてくれたみたいだし、ここは大げさに褒めておきますかね。

ガチャリとあけて、息を吸い込む。

「わー!随分キレ…ぃえ!?どうしたんですかコレすっげぇ!!」

素でびっくりしたっ!!
何ということでしょう、木でできた硬そうな椅子は一人がけの赤い布張りのソファに代わり、勉強机みたいだったヤツがオシャレなデザインのローテーブルになってる!
棚はそのままだけど、椅子と色合いがマッチしてる布が敷かれててかわいくなってる!
ベットも本体はそのままだけど、赤いクッションが増えてる!
お、おうおうキースさん何事!?
どうしたどうした…っていうか、この大改造をしたにしては早かったな!

「先輩、これどこから持ってきたんですか?」
「ラルドさんが、客室の家具模様替えするって言っていただろう?譲ってもらってきたんだ」
「…さすが仕事が早い」
「めっちゃいい感じじゃないですか、キースさんGJ!」

気に入りました!
譲ってもらったってことは中古なんだろうけど、全然綺麗で問題ない。
ありがとうラルドさん、誰か知らないけど。

「随分張り切りましたね、…これでアンリちゃんが貴族でも何でもなかったらどうしますか?がっかりして寝込むのは止めてくださいね」
「それな!私が貴族じゃなかったって、後から文句とか請求されても困りますからね!」
「しばらくこの寮からは出せないから、せめて部屋を居心地よくして差し上げたかったんだ」

待って。
何て?

「…え、監禁宣言した?」
「貴女は何も心配なさらず、ここでお寛ぎ下さい。来たるべくその時まで」
「キースさん、迎えは来ませんよ、待ちぼうけですからマジで。ごめんなさい。いやホント。っていうか私が貴族かもってどこ情報です?物知らずだったからですよね?ただの記憶喪失ですからホントこれ」

衣食住が保障されていても、先の見えない至れり尽くせりは怖い。
いつ手のひら返されて放り出されるかもしれないしね!
後から騙されたって色々請求されても困るし、誤解は早めにときたい。
…解きつつ、それでもここに置いてもらいたい。

「私は一回も自分の事お嬢様だ、なんて言ってませんからね?ここ重要なんで!テストにでますから!これを踏まえて、伝えたいことがあります」

ずずいっと、キースさんに近づくと、怯んだように一歩下がられた。
OK気迫で勝ってる、今だイケ私。 

「こちらの証拠をご覧下さい!貴族の娘がこんな荒れた肌してると思いますか?」
「学校の娘達と比べて、随分整った肌かと。いや、失礼。あまり見るものではありませんでした」

あああーー進んだ現代美容~~~!!
安物でさえ十分な効果を発揮して下さってるー!

「大事にされているのですね、…爪の先まで美しい」 
「ちょい、逆ぎゃく、爪の先だけって言って!うわー恥ずかしい!美しいとか言ったこの人うっわ」

真顔で言ってくるもんだから、私の乙女心に直撃したわ!
恥ずかしい、わー恥ずかしい!うぁあ…無理にやけて変な顔になる…!
よし落ち着こう、爪ね、爪。はい爪のことです。
土いじりにも負けず、ジェルネイルでコーティングされた爪はつややかな桜色を保っている。 
仕事上華美なネイルは禁止だから、薄い色なんだけど、これ模様とかラインストーン付けてたらどんな反応だったんだろ? 
地味に気になるわ…。 

うん落ち着いた。取り直して、再度畳み掛けるようキっと睨んで威嚇する。

「……っく」

キースさんの後ろで、笑いを堪えているクロードが目に入り、心が折れる。
また顔が熱くなるのが分かる。
やめろ、見るな、私こんなことでうろたえて馬鹿みたいじゃん…!

「…もうネタ思いつかないので、思いついたらいいますね…」

負けた。
今日はもう終わり!
明日に備えて一人脳内作戦会議するわ!

やってない、を証明するのも難しいって聞いたことあったけどマジそれな!
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