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うそつきと言われるのは心外です

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蔓をチーズに刺して炙るという技を編み出し、お昼はパンにチーズとレタスを挟んだサンドイッチになった。 
体力勝負なので肉をかじるのは外せない。

「1日ノルマ何本かな。これ、無理じゃない?」

まだ今から二本目を抜くところだ。簪として使えるように10本ぐらい形を整えていたら、結構時間をくってしまった。 
まきでいこう、と思いながら、力一杯茎を引っこ抜いた。
二本目が抜けて、みるみるうちに硬化していく。

黒くなった二本目に巻き付いている蔓は、鮮やかな緑でよく目立つ。 

「んん?」 

全部はずさないと抜けないんじゃなかったっけ? 
あ、これ騙されたわ。地味で面倒な無駄な作業をさせられたんだわ。

試しに、絡み合いまくっている茎を抜いてみた。

蔓が引っ張られて抵抗があったものの、普通に抜ける。何てこった…。
硬くなった蔓を、後からパキパキと折る方が何十倍早い。
真直ぐに伸びた黒く硬い茎は、そのまま槍として使えそうだ。
絶対にやらないけど、気分的には刺すぞコラァって感じだわ。

無駄なことさせられるのが一番嫌いなの!って文句を言いに行ってやる!


***


「こんにちは、…アンリちゃんだね!レトラ抜きやらされてるんだって?お疲れ様~」 

詰め所に行くと、怒りをぶつけたかったキースさんは居なかった。
そういえば赤毛のクロードがって言ってたっけ。

「お疲れ様です。もうお聞きかもしれませんが、記憶喪失で困っていた所を拾っていただいた杏理です。クロードさんですかね?記憶がなくてご迷惑おかけしますがどうぞよろしくお願いします!」 

大事な所なので強調しといた!
赤毛がツンツンはねてるクロードさんは、若そうで可愛い感じ。
グレイさんが昨日着てた軍服みたいなやつよりも飾り毛羽がないから、新人くんかもしれない。

「うん、よろしくね。クローアルドです。そのままクロードでいいよ。…アンリちゃんは記憶喪失なんだね!」
「はいはい!そうなんですよ!だからすぐ騙されますから、意地悪しないで下さいね」

目の前でうんうんと頷いて了解してくれるクロードさんは、天使じゃなかろうか!?
ここにきてようやく記憶喪失を信じてくれたよ…!

「昨日預かったマントはサーチにかけてるとこなんだけど、自分のものじゃないって言ったんだって?どうしてそれは覚えてたの?」

笑顔を浮かべたまま首をこてんと傾げられたら。 
あざと可愛いなコイツ。痛いとこ付いてくるけど。

「見覚えがなかったから、私のじゃないな~と思いまして…。んー、まぁこの街自体見覚えがないんですけど、とにかく何か違和感があって、違うなと」
「キース先輩は、君はどこかのお嬢様で、攫われて来たんじゃないかって言ってたけど…」
「それはないですね、多分。お嬢なんて縁がない一般人ですよきっと。自炊も身支度もちゃんとできますから!」
「それはよかった。食べ方や言葉まで忘れてたら、大変だったもんね。はいこれ追加の食料。これを取りに来たんだよね」

渡された紙袋の中をチェックしてみる。
瓶に入った赤いもの。ジャムかな?と、パンと肉と玉ねぎとトマト2つ。後はまた果物っぽいものと、白い粉。

「この粉なんですか?」
「ミルクだよ。…水に溶かすとミルクになるやつ」

粉ミルクか。もらっても使いどころがないけど、まぁ置いとこう。
コーヒーがGETできたらいっぱい使うし。

「そういえば包丁とかフライパンってないですか?料理できたら助かるんですけど」
「あ、ないのか!ごめんね気がつかなくて…後で持っていくよ。って、朝ご飯とかどうしてたの?」
「パンはちぎって食べれたし、肉は齧りましたね」
「そっか、逞しいね」

…褒められてる、のか?

「休憩がてらお茶でもどう?甘いものは好きかな」
「好きですいただきます!」
「これね、近所のルミカさんが差し入れにくれたクッキー。美味しいよ」

兵士大人気だな!昨日も差し入れ貰ってなかったっけ。
街を護ってくれてるからだけじゃなさそう、おモテになりますなぁ。

昨日と同じく椅子にお邪魔すると、今日はオレンジジュースを出してもらえた。
ありがとうございます。

「アンリちゃんが来る前に、おれもレトラ抜きさせられたんだ。凄い疲れたよ…外でモンスター退治してた方が楽だよあれは」

いるのか、モンスター。ルンファクだったか。

「1日で最高20本も抜いたよ、凄くない?」
「凄いですね、私なんて普通にやってたらまだ4本ぐらいですよ。クロードさんまじめなんですね。私、裏技で一気に全部抜いちゃいましたよ」
「ん?」
「あ、あと半分残ってますけどね。明日で終わります。畑仕事が終わっても住んでていいんでしょうか?」

「………」
「……あ、食べすぎですか?」

さくさくクッキーを遠慮なく貪っている私を、急に笑顔を消して真顔になったクロードさんがガン見してくる。
そんなに見られると恥ずかしいのですがー!

「あははは、何それ冗談?…おれさ、嘘つきと金持ちには敏感なんだけど、アンリちゃんは全然読めないや!」
「……私嘘なんか言いませんけど」

うそ。嘘ついてる。
本当は記憶喪失じゃないってやつ。
でもさ、これ、私って無許可で勝手に一方的に召喚された被害者なのに、何で私が気ぃつかって嘘をつく立場にならなきゃいけないの?おかしくない?
また腹立つ案件増えたわー。

「そういえば何歳?」
「あー、16歳でーす」
「ふ~ん、へー。おれ19だから年下だねぇ」

うーそーだーよ~!

「アンリちゃん学校は行ってたの?読み書きできる?」
「できるできる。できるけど、あのさ、16歳うそだから。おねーさん21だから」
「うん、まぁ嘘なのは分かってたけどさ。アンリちゃんって素直だよね。表情出すぎ」

あ、コイツむかつく。
友達の弟と同じ、なめた態度だ。

「とにかく、私もマントの持ち主が気になってるから、分かったら教えてくださいね!」

片手に食糧の紙袋。反対にクッキーを掴めるだけ掴んで、私はキレ気味に詰め所を後にした。
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