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タイミングを見計らって行き倒れてみた

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舗装されていない道に、電線が通っていない住宅街。
母方の田舎もこんな感じだったけど、何ていうか、ちょっと空気が違う。
言葉は同じなのに、同じ人種の気がしない。
何故ならそこ行く彼も彼女も、カラフルな目と髪をしているから。

「あれ何?」
「なにしてるんですか~?」
「誰?」
「先生ー!死んでる!!」
「ゆすっちゃだめなのよ、あの、だいじょーぶですか?」

街外れ、森へと続く道。
ここを子供達が通ることは、事前に確認済みだ。
5歳ぐらいの小さい子から中学生ぐらいの子が、集団で移動するのを昨日見ていたから。
森を少し進んだ花畑で花冠やリースを作ったりしていた。まぁそれは昨日の話で、今日何をする予定なのかは知らない。

重要なのは、子供達に見つけてもらうこと。
私は朝からこの子供達の通り道にスタンバっていた。

「先生早くはやく!」

そうだ、ナイス生徒!先生カモン!
優しそうな、生徒になめられてるっぽい男の先生。でも皆に慕われていて、笑顔が可愛い感じの先生。
昨日見た感じだと30歳にはいってなさそうだった。
私は思った。この人だったら、子供が騒いだら見なかったことにはしない程度には親切かなって。
自分から助けを求めにいくより、向こうから来てくれたほうが絶対スムーズに事が運ぶと見たね。
ここに気付いた私は自分を褒めてやりたい。

「…あぁ、どうしようかな。誰か呼んだ方がいいのかな」
「とーちゃん連れてくる!」
「待ってトニー、ウェルズさんは今仕事中だよ」
「ミィちゃん呼んでこようか?」

子供が私の周りをうろちょろするので、踏まれないかちょっとどきどきする。
ていうか誰かつっついてるよね!?ふくらはぎ辺りが触られてる気がする!くすぐったい。

「僕はこの人を連れて一回戻るから、先に行っててくれるかい?リルム、皆を頼んだ」
「はーい。ほら、出発~ついてきて」

はいきた!釣れた!ありがとうございます!
家に転がり込んで、そのまま居座ってやる。でもずっとじゃないから安心してね。
異世界に何の脈絡もなく放り出された私は、きっと元の世界に返れないパターンだろうし、早めに自立して生きていかなければならない。
とりあえず学校を拠点に勉強を教えさせてもらって、子供から街に溶け込んでいくのがいいかなって。
そして一緒にこの世界について学ばせてもらおうという魂胆だ。

こういうのって、出会いが大事。
昨日気がついたら森の中に倒れてて、この街についたはいいものの誰に何て声をかけてみていいものか思いつかず。
言葉は通じるみたいだけど、ただそれだけのただの不審者。お金もないから客でもない。そんな私は一瞬交番的なところへ向かいかけたけど、それっぽい建物なんて判断つかないし、多分なかった。
見知らぬ人にいきなり「気付いたらここにいたんですけど、ここはどこですか」から始まり「私はどうしたらいいんでしょうか?」で締めるようなドあつかましい事はする気にもなれない。
どうすればいいのか分からずうろうろして1日を無駄にし、何も食べれず今に至る。
あ、この作戦を考え付いたから無駄にしてないわ、必要な一日でした!
水は井戸水飲みました!

「君、気がついてるよね?具合悪いの?」

うつぶせに横たわって行き倒れ感をアピールしていたが、起きているのはバレていたらしい。
腕の力でのっそり起き上がって、できるだけそっと声を出す。
私の役は路頭に迷ったかわいそうな記憶喪失の女だ。

「…昨日から何も食べてなくて」
「そう、怪我はないかい?」
「多分大丈夫です」

あ、大丈夫って言っちゃった。
じゃあお大事に、でさよならされたらめっちゃ困るのに!

「いや…実はそんなに大丈夫じゃないです。あの……その、ここはどこですか?」
「ここは街外れだからね。このまま進むと噴水広場に出られるよ」
「……えっと…」

道に迷った的な軽い感じに見られてる?
これはしくじった感が…。

「どこから来たんだい?送っていくよ」

ありがとう、その言葉が聞きたかった。
獲物ロックオンで、この時の私の目はギラギラしていたことだろう。

「私、気付いたらその森に倒れてて…音を頼りに街まで出てきたんです!私がどこから来たのか、ここがどこなのかも全然分かりません。いつのまにかこの辺りにいまして…」
「名前は?」
「杏理」

あ、嘘間違えた。言っちゃった。
記憶喪失設定が早くも使えなくなっちゃった。

「アンリだね、僕はキース。見たところ荷物もないようだけど、盗られたわけではないんだね?」
「あ、はい。元々持ってなかったです…多分」

今の私の格好は、寝巻きにしているスウェットに、見慣れない皮のブーツと重たいマント。
マントを被るとか見るからに怪しい人と思うかもしれないけど、街でもよく見かけたのでメジャーな上着的ポジションっぽい。
要するに手ぶらで異世界にきている。せめて時計でも身に付けていれば、レアアイテムとして使いどころがあったかもしれないのに…。もちろんソーラー腕時計。

「一旦詰め所に行こう。クロードのおやつがあるはずだ」

というわけで、詰め所に案内してもらえることになった。
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