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実技室の壁は衝撃を吸収する素材を使った二重構造で、窓がないので少し窮屈感じる。とはいってもいつも使う教室よりも一回りは広く、ガラス張りの天井からは十分に光が差し込んでいる。
机も椅子もない、シンプルな部屋。
「ではさっそくはじめましょう、杖を構えてちょうだいな」
「…これのことですか」
不満げに、双葉を摘まむ。茎の部分なんか、まだ1センチもない。
「機能的には、もう立派な杖よ。貴女と、貴女の妖精4人の魔力の結晶よ」
持ち上げられても、気分が上がらないものは仕方がない。杖を構えたくても、こちとら人差し指と親指で摘まんでいるポーズなのである。
「はーい、そこ。ぶさいくな顔しないでくださーい。まずは安全な光魔法を試したいと思います」
お手本として、まず先生が光魔法を発動する魔法陣を描く。
この一週間、何度も先生の魔法を見ているけど、わたしはまだ自分で発動させたことはない。
じわじわと、自分が初めて魔法を使うという実感が湧いてくる。…緊張しちゃうなぁ。
「…ぽ!」
「ぽ」って言ったのは、呪文の代わりだ。
先生が「ぽ」って言ったらぱっと光の玉が浮いていたから、中々分かりやすくて短くて、いい呪文だと思う。
「こんな感じで、小さな明かりをだしてみて」
わたしも、杖を摘まんで光魔法の陣を描く。描きにくいけど、なんとか綺麗に描きあがった。
「…ひかりを!」
光魔法の、定番の台詞。気持ちが高ぶって、ちょっと声が上擦った。
リナーは声に反応して、そわそわしている。リーグは、わたしの真正面で腕組をして眺めてくる。ルーフはバッテン姿で回転していて、ダナーはわたしの後ろに隠れている。
「…ちょっと、誰か力をかしてよ」
傍にいるのに、誰も協力してくれない。
「誰か、じゃだめよ。そうよね、シェリーには4人も妖精がいることを忘れてたわ」
先生が、杖を収めてしまう。光はそのままで宙を跳ねているので、先生の妖精が遊んでいるのかもしれない。
「魔法使う時は、どう力を発揮するかのイメージが大切なのはもう分かってるわよね。シェリーのことだから、そこは十分できてると思うの」
魔法が発動しなくてへこんだけど、そう思って貰えているのならちょっと嬉しいかな。
わたしが頑張ってきたことを、否定されないでよかった。
「ごめんね、最初から複数の妖精と契約してる子なんて居なかったから、説明するのを忘れてたみたい。誰に力を貸してもらいたいのか思い浮かべないと、妖精はどうしていいのか分からないのよ」
「誰でもいいんですけどね…」
「誰
・
で
・
も
・
い
・
い
・
、よりも貴
・
女
・
が
・
い
・
い
・
って指名された方が嬉しいし、やる気もでるでしょ?妖精だって一緒よ。それに、4人が一気に力を貸してしまったら魔法が暴走してしまうしね」
言われて、気付く。確かに、誰でもいいだなんて失礼な話だ。
「…ごめんね。えっと…光魔法が得意な子、いる?」
聞いてみると、リーグが偉そうな態度でドヤ顔を披露してくれた。どうやら自信があるらしい。
「妖精にも個性があるから、得意な属性もそうじゃない属性もあるわ。誰が何を得意なのか知る為にも、全員一通りの魔法を使ってもらった方がいいわよ。妖精が傍にいない時だってある訳だしね」
「傍にいないって、遊びに行ったりするってことですか」
「妖精は自由だわ。杖を住処にして基本的にいつも一緒に居てくれるけど、強制力があるわけじゃないの。遊びに行ったり、家出したり、散歩に行ったりもするわよ」
契約、だなんて堅苦しい言葉だから、意外な自由さに驚く。じゃあこの子達はいつでもどこにでも行けるのに、私と一緒に居てくれてるんだ…。
家出なんか絶対にされないように、もっと仲良くなりたいな。
「苦手な場所に行く時には、置いて行った方が良いこともあるしね。例えばダナーちゃんは闇属性が強そうな見た目をしているそうだから、聖域が苦手かもしれないわ」
「ダナー、聖域とか行ったことある?苦手?」
聞いてみたけど、聞いているのかいないのかな態度だ。まぁ聖域に対してわたしがピンときてないから、上手く伝わっている自信がないけど。
「離れていたら力を貸してもらえないから注意してね。さぁ気を取り直して、魔法の練習よ」
「はい。…リーグ、お願いね」
リーグと視線を合わせながら、光の魔法陣を描く。
「…ひかりを!」
ぱっと、小さい太陽のような眩しい光の玉が出現する。
「ぎゃーっ眩しい!」
「そうね、ちょっと強すぎるわ…杖を振って、解除して」
描いた魔法陣を切るように、横に払う。あ、双葉が短すぎて魔法陣を空振りしちゃった。
パンチするように魔法陣を壊して、光を消すことに成功する。
やっぱりまともな長さがないとやりにくいよー…。
「リーグは光と相性が良すぎるみたい。攻撃魔法だと威力に注意ね」
「肝に銘じておきます…」
ただの明かりの魔法が既に、立派な攻撃手段になってしまっている。あ、でもこれ目くらましに使えるわ。あり。
「おめでとうシェリー。魔法、ちゃんと発動できたわね」
「…はい!」
今のが、初めての魔法。ずっとずっと憧れてきた、魔法!
「わたし、今日からもう魔法使いですね!」
踊りだすような気分でそう言うと、まだ見習いよ、と釘を刺された。
机も椅子もない、シンプルな部屋。
「ではさっそくはじめましょう、杖を構えてちょうだいな」
「…これのことですか」
不満げに、双葉を摘まむ。茎の部分なんか、まだ1センチもない。
「機能的には、もう立派な杖よ。貴女と、貴女の妖精4人の魔力の結晶よ」
持ち上げられても、気分が上がらないものは仕方がない。杖を構えたくても、こちとら人差し指と親指で摘まんでいるポーズなのである。
「はーい、そこ。ぶさいくな顔しないでくださーい。まずは安全な光魔法を試したいと思います」
お手本として、まず先生が光魔法を発動する魔法陣を描く。
この一週間、何度も先生の魔法を見ているけど、わたしはまだ自分で発動させたことはない。
じわじわと、自分が初めて魔法を使うという実感が湧いてくる。…緊張しちゃうなぁ。
「…ぽ!」
「ぽ」って言ったのは、呪文の代わりだ。
先生が「ぽ」って言ったらぱっと光の玉が浮いていたから、中々分かりやすくて短くて、いい呪文だと思う。
「こんな感じで、小さな明かりをだしてみて」
わたしも、杖を摘まんで光魔法の陣を描く。描きにくいけど、なんとか綺麗に描きあがった。
「…ひかりを!」
光魔法の、定番の台詞。気持ちが高ぶって、ちょっと声が上擦った。
リナーは声に反応して、そわそわしている。リーグは、わたしの真正面で腕組をして眺めてくる。ルーフはバッテン姿で回転していて、ダナーはわたしの後ろに隠れている。
「…ちょっと、誰か力をかしてよ」
傍にいるのに、誰も協力してくれない。
「誰か、じゃだめよ。そうよね、シェリーには4人も妖精がいることを忘れてたわ」
先生が、杖を収めてしまう。光はそのままで宙を跳ねているので、先生の妖精が遊んでいるのかもしれない。
「魔法使う時は、どう力を発揮するかのイメージが大切なのはもう分かってるわよね。シェリーのことだから、そこは十分できてると思うの」
魔法が発動しなくてへこんだけど、そう思って貰えているのならちょっと嬉しいかな。
わたしが頑張ってきたことを、否定されないでよかった。
「ごめんね、最初から複数の妖精と契約してる子なんて居なかったから、説明するのを忘れてたみたい。誰に力を貸してもらいたいのか思い浮かべないと、妖精はどうしていいのか分からないのよ」
「誰でもいいんですけどね…」
「誰
・
で
・
も
・
い
・
い
・
、よりも貴
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女
・
が
・
い
・
い
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って指名された方が嬉しいし、やる気もでるでしょ?妖精だって一緒よ。それに、4人が一気に力を貸してしまったら魔法が暴走してしまうしね」
言われて、気付く。確かに、誰でもいいだなんて失礼な話だ。
「…ごめんね。えっと…光魔法が得意な子、いる?」
聞いてみると、リーグが偉そうな態度でドヤ顔を披露してくれた。どうやら自信があるらしい。
「妖精にも個性があるから、得意な属性もそうじゃない属性もあるわ。誰が何を得意なのか知る為にも、全員一通りの魔法を使ってもらった方がいいわよ。妖精が傍にいない時だってある訳だしね」
「傍にいないって、遊びに行ったりするってことですか」
「妖精は自由だわ。杖を住処にして基本的にいつも一緒に居てくれるけど、強制力があるわけじゃないの。遊びに行ったり、家出したり、散歩に行ったりもするわよ」
契約、だなんて堅苦しい言葉だから、意外な自由さに驚く。じゃあこの子達はいつでもどこにでも行けるのに、私と一緒に居てくれてるんだ…。
家出なんか絶対にされないように、もっと仲良くなりたいな。
「苦手な場所に行く時には、置いて行った方が良いこともあるしね。例えばダナーちゃんは闇属性が強そうな見た目をしているそうだから、聖域が苦手かもしれないわ」
「ダナー、聖域とか行ったことある?苦手?」
聞いてみたけど、聞いているのかいないのかな態度だ。まぁ聖域に対してわたしがピンときてないから、上手く伝わっている自信がないけど。
「離れていたら力を貸してもらえないから注意してね。さぁ気を取り直して、魔法の練習よ」
「はい。…リーグ、お願いね」
リーグと視線を合わせながら、光の魔法陣を描く。
「…ひかりを!」
ぱっと、小さい太陽のような眩しい光の玉が出現する。
「ぎゃーっ眩しい!」
「そうね、ちょっと強すぎるわ…杖を振って、解除して」
描いた魔法陣を切るように、横に払う。あ、双葉が短すぎて魔法陣を空振りしちゃった。
パンチするように魔法陣を壊して、光を消すことに成功する。
やっぱりまともな長さがないとやりにくいよー…。
「リーグは光と相性が良すぎるみたい。攻撃魔法だと威力に注意ね」
「肝に銘じておきます…」
ただの明かりの魔法が既に、立派な攻撃手段になってしまっている。あ、でもこれ目くらましに使えるわ。あり。
「おめでとうシェリー。魔法、ちゃんと発動できたわね」
「…はい!」
今のが、初めての魔法。ずっとずっと憧れてきた、魔法!
「わたし、今日からもう魔法使いですね!」
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