わたし"だけ"が魔法使い

丸晴いむ

文字の大きさ
上 下
5 / 17

05

しおりを挟む
 学園の敷地を出て、裏の森へ向かう。この奥には2階層だけの訓練用ダンジョンがあるので、そのうち授業でもお世話になるそうだ。

「剣術科も槍術科もこの森を体力づくりがてら走り回るし、弓術科は薬の材料を探しに来るわ。夏には湖でのイベントもあるし楽しみにしててね」
「水泳大会ですか?」
「まぁそんな感じよ、うふふ。シェリーちゃんは大変かもね~でも先生も頑張るからね!」

 なんだかよく分からないけど、楽しそうだからとりあえず頷いておいた。

「さて、どっちに進もうかし…ら、何どうしたの」

 学園をぐるりと囲う壁を抜けて、森へ出た。
先生は誰かと話してるみたいだけど、もしかして契約してる妖精さんかな。

 ぼそぼそと話し合いが続き、険しい顔でわたしを振り返る。

「面倒なことになったわ」
「…どうしたんですか」

 そんな前置きで話されると、正直聞きたくないんだけどなぁ。

「この辺りに妖精の木は3本あります」
「あれ、教えてくれたんですか?」

 何が面倒なのか、ただただラッキーでは?

「一々木を調べて探すから3日は覚悟してたんだけど…まぁ結果は同じか。あっちと、そっちとむこう。一つは川の近くで、後はダンジョンの傍と、丘の上。さてどこから攻める?川沿いに丘に向かって、丘でお昼食べて、ダンジョンの方はまた明日かしら」
「全部回らなくちゃだめなんですか?ひとつでいいんじゃ…」

「そこの妖精がお呼びだそうよ。どこも是非自分の木を使って欲しいって。どの木を使うか厳正な審査をして欲しいそうだから、ちゃんと実物を見て選んで欲しいんですって」

 嬉しいお誘いなはずだけど、スケジュールから察するにそれぞれ離れた場所にあるみたい。
それに、全部見て決めて欲しいということは、二週目があるわけで。

「好かれるのも問題ねー。まぁ最近魔法使いが少ないし、向こうも構って欲しくて仕方ないみたい」
「自分の家が切られちゃうのに、ですか?」
「妖精の住処なんて、お気に入りの休憩所みたいなものよ。ころころ変わるし、どこでもいいの。でも皆、シェリーとお気に入りを共有したいみたい」
「はぁ」

 でもどうせ"仮"だから、すぐ手放すことになるんじゃないのかな?

「仮杖だから、妖精と契約できたらすぐ使わなくなるんですよね。一目見て気に入った、とかしちゃ駄目でしょうか」
「そうね、大雑把に説明すると、仮杖は杖の元なの。仮杖を提供してくれた妖精がそのまま力を貸してくれる事が多いし、仮杖を苗床にして新しい杖を作るから、ずっと使うと取ることもできるわ」

 なるほど。仮杖は使い終わることなく、違う形で使うのね。

「だったら3つとも持って帰るのはどうですか?全部揃ってからじっくり見比べて選ぶ、みたいな」
「そんなことしたら選ばれなかった木の妖精が怒るわよ」
「贅沢に3本とも使うとか」

「…それはア



ね」

 こうまで粘ってでも、できれば回避したい仮杖探し。

 その心は、しんどいから!

 全魔法使い共通なのかどうかは知らないけど、大体の魔法使いは体力がないものなのよ…。
あんまり汗をかきたくないしね。

「ちゃんと歩きやすい靴、履いてきたわね?うん、じゃあ行きましょうか!」

 かくして、過酷な耐久ピクニックが開催されたのだった。

  



*** 

 


「それで筋肉痛なの?」

 歩いて、歩いて、登って、歩いた。先生が丘と称した場所は、山と何が違うのか分からない傾斜で、ふくらはぎが悲鳴を上げている。

「登りよりも下りの方が足にきてさー、もうへとへとだよ。戻ってこれたの、ついさっきだし」

 暗くなる前には学園に戻って来れたが、正直許容オーバーだ。
3つの木を今日中に回るには距離が離れていたので、また明日ダンジョンの傍まで歩くのだ。
ぐったりして、ベッドに倒れているなう。

「フィフィ達はね、身体能力のテストをしたの。ティティはね、クラスで一番足が速いの」
「へぇ、ちょっと意外」
「ユーグは体の軸がしっかりしてるって褒められていたの」
「子供の時から、稽古つけられてたからね。ユーグのお父さんも冒険者なんだよ。わたしのお父さんとチーム組んで冒険してたんだって」
「親同士も仲がいいなんて、素敵なの」

 まぁでも、お父さんはユーグのお母さんが苦手らしくって、家に遊びに行くと渋い顔してたけどね。
なんでも女性に優しく男に厳しい性格らしく(私は可愛がられた事しかないから知らないけど)、色々雑なわたしの父はビシバシ小言をくらっていたそうだ。 

「フィフィちゃんはどうだったの?」
「フィフィは一番、目が良いの!ギリギリの間合いを見切れるの」
「それ一番かっこいいじゃん!」
「そ、そう…?そうなの!」

 食い気味に褒めると、腰に手を当てて胸をそり、ちょっと偉そうなポーズをとった。可愛い。

「走って、投げて、振って、模擬戦して疲れたの。一緒にストレッチするの。使った筋肉はきちんとほぐさないとダメなの」
「はーい」

 フィフィちゃんの真似をして、しっかり体を伸ばす。
明日にそなえて、早めに休むことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

愛してしまって、ごめんなさい

oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」 初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。 けれど私は赦されない人間です。 最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。 ※全9話。 毎朝7時に更新致します。

旦那様は甘かった

松石 愛弓
恋愛
伯爵夫妻のフィリオとマリアは仲の良い夫婦。溺愛してくれていたはずの夫は、なぜかピンクブロンド美女と浮気?どうすればいいの?と悩むマリアに救世主が現れ?

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

処理中です...