かえらなかった妖精の卵

丸晴いむ

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かえらなかった妖精の卵

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むかし むかし、まだ世界ができた最初の頃

穏やかな木漏れ日からうまれた女神がいました。



ほわほわと陽気でお気楽な女神は、ある時森で真っ白な薔薇のつぼみを見つけ



「まるで卵みたいね」



と思い、自分の発想に楽しい気分になり

そのつぼみを"卵"にすることにしました。





情熱的な赤い光を散らす火の妖精に

揺らめく青の光を宿す神秘的な海の子に

蠱惑的な紫に輝く誇り高いアメジストの精に

包み込むような柔らかな黄色の光を灯す月の妖精に

穏やかな癒しの緑に煌めくこの森の守り人に

元気が溢れる橙色の光を放つ音の妖精に

優し気な水色の光を紡ぐ雨の妖精に





7色の力を少しずつ集めたら

空にかかる虹のような素敵な妖精がうまれるだろうなとわくわくしました。



しかし、無限の可能性を感じさせた真っ白な卵は

今では真っ黒に染まっています。



花の妖精は、蕾が花開く時にうまれるのですが

"それ"は一向に綻ぶ気配がありませんでした。



ならばと





炎が爆ぜる時にうまれる火の妖精のように

水泡が割れる時にうまれる海の子のように

心奪われる間にうまれる宝石の精のように

雲を透かした時うまれる月の妖精のように

種が芽吹いた時にうまれる守り人のように

胸が高鳴る時にうまれる音の妖精のように

跳ねた波紋からうまれる雨の妖精のように





色々試してみましたが

"それ"は一向にうまれませんでした。



話しかけても返事はありませんが、手のひらで包み込むと確かな命を感じます。



夜よりもなお暗い卵には、なにがはいっているのでしょう。

女神は、かたい殻を破る強い妖精がうまれるだろうなとどきどきしました。



「きっととっても凄い子がうまれるに違いないわ!」



毎日連れ歩き話しかけ、女神は卵をとてもかわいがりました

まだ見ぬ妖精に期待を膨らませ、みんなに自慢してまわります。



そんなある日 目を閉じていても眩しいほどの光が落ちてきました。



この世で最も明るい光が瞬き、太陽の子がうまれると

その足元にこの世で最も濃い影ができました。



これを見た女神がとっさに卵を放り込むと

影の底から何かが砕ける音がしましたが



ただ



それだけでした。





太陽の子は頭を下げて、はじめましてと言いました。





~おわり~
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