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クラスメート
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今年の担任教師はクラスのみんなが偏りなく交流できるようにとの意図から、よく席替えをする。今回の席替えで、私は柚木君の右隣になった。
彼の横に座るとふと怪我のことを思い出した。あれから何日か経っているが、知らん顔するのも不自然なので、一応気遣ってみる。
「あの、怪我は……大丈夫?」
おう、と彼は笑って腕を指差した。
「四針、縫った」
怪我をした時には急用で職員室に呼ばれ中座していたサッカー部の顧問教師が自分より先に戻っていて、怪我をしたのが部員の口からばれて強制的に病院へ連れて行かれたのだそうだ。
「またあんた怪我したの?」
私の席の前の杉野さんが、振り返って顔をしかめた。
「馬鹿なことやったんじゃないでしょうね」
「名誉の負傷」
ガッツポーズをとる柚木君を、杉野さんは鼻で笑った。
「と、あんたが思ってるだけでしょ。今までまともな理由で怪我したことないくせに」
それで、と彼女は私の方に向き直った。
「何で久保田さんが柚木の怪我のこと、知ってるの」
私が答える前に、柚木君が彼女に答えた。
「あー、保健室の先生がいなくて、久保田さんがたまたま保健室の前にいたんで、薬つけてもらったんだ」
「薬でどうにかなるような怪我じゃないってことも分からなかったの」
「試合の途中だったんで、とりあえず応急措置でよかったんだよ」
彼はちらりと私を見て、笑う。
「久保田さんってな、おとなしいのかと思えば意外に思い切りいいんだぞ。大胆に消毒薬ぶっかけてくれたんで泣きそうだった」
「……あ……ごめんなさい」
やはり相当痛かったのだ。私は──人の痛みが分からないから。
「謝ることないわよ、久保田さん。どーせ、痛いの一言も言わなかったんでしょ。柚木も痛い時は痛いって言いなさいよ」
睨む彼女に、柚木君はきょとんとして言った。
「痛いと言っても、痛いのはなくならないじゃないか」
彼女は呆れたようにため息をつく。
「泣き言言わないのは立派だけどね、あんたそれで小六の時、左手の小指の骨折に三日も気づいてもらえなかったの忘れたの? いい加減学習しなさいよ。ホント、いつまでたっても馬鹿なんだから」
二人は家が近所で母親同士も仲のいい幼馴染みなのだそうだ。
気兼ねない言葉で何でも言い合える友人。私には一生持てないかもしれない。だって、私は本音を言うのが怖い。
異質な自分をさらけ出してしまうから。
「でも、柚木の言う通り、久保田さんって見かけほどか弱くないのね」
杉野さんが私に笑いかけた。
「四針縫った傷だと、血もすごかったんじゃない? あたしなら卒倒しちゃってたかも」
「あの、あの時は私、必死だったから」
後になって怖くなったと言い訳しておいた。血を美しいと思ったなんて言えない。
「そうか? 全然平気そうだったぞ」
振り返った私に、柚木君が独り言のように呟いた。
「言ってることとやってることが一致してないなあ。何でそんなに外と中が違いすぎてるかな」
私は人の心に欠けた者だから。
私の異質さは知らぬ間に滲み出していて、もう取り繕えないところまできているのかもしれない。
もしも、今までの体験や出会いなどを白紙に戻せて、新たに積み重ねることができたとしたら、私は今の私とは別な者になれただろうか。
今の私を構成しているそれらのものがなかったとしても、やっぱり根の部分で同じ自分になっていたんじゃないだろうか。
例えば──私は他人なんてどうでもいいという自分の思考がどこから来たのか分からない。
分からないということは、生まれつき持っていたということに他ならない。誰のせいでもなく、私は私の持って生まれたもののためにこんな自分になってしまった証拠だ。
持て余す自分を振り捨ててしまいたい。
でも、どこへ。どうやって。
捨て去った後、私に何が残るのだろう。
彼の横に座るとふと怪我のことを思い出した。あれから何日か経っているが、知らん顔するのも不自然なので、一応気遣ってみる。
「あの、怪我は……大丈夫?」
おう、と彼は笑って腕を指差した。
「四針、縫った」
怪我をした時には急用で職員室に呼ばれ中座していたサッカー部の顧問教師が自分より先に戻っていて、怪我をしたのが部員の口からばれて強制的に病院へ連れて行かれたのだそうだ。
「またあんた怪我したの?」
私の席の前の杉野さんが、振り返って顔をしかめた。
「馬鹿なことやったんじゃないでしょうね」
「名誉の負傷」
ガッツポーズをとる柚木君を、杉野さんは鼻で笑った。
「と、あんたが思ってるだけでしょ。今までまともな理由で怪我したことないくせに」
それで、と彼女は私の方に向き直った。
「何で久保田さんが柚木の怪我のこと、知ってるの」
私が答える前に、柚木君が彼女に答えた。
「あー、保健室の先生がいなくて、久保田さんがたまたま保健室の前にいたんで、薬つけてもらったんだ」
「薬でどうにかなるような怪我じゃないってことも分からなかったの」
「試合の途中だったんで、とりあえず応急措置でよかったんだよ」
彼はちらりと私を見て、笑う。
「久保田さんってな、おとなしいのかと思えば意外に思い切りいいんだぞ。大胆に消毒薬ぶっかけてくれたんで泣きそうだった」
「……あ……ごめんなさい」
やはり相当痛かったのだ。私は──人の痛みが分からないから。
「謝ることないわよ、久保田さん。どーせ、痛いの一言も言わなかったんでしょ。柚木も痛い時は痛いって言いなさいよ」
睨む彼女に、柚木君はきょとんとして言った。
「痛いと言っても、痛いのはなくならないじゃないか」
彼女は呆れたようにため息をつく。
「泣き言言わないのは立派だけどね、あんたそれで小六の時、左手の小指の骨折に三日も気づいてもらえなかったの忘れたの? いい加減学習しなさいよ。ホント、いつまでたっても馬鹿なんだから」
二人は家が近所で母親同士も仲のいい幼馴染みなのだそうだ。
気兼ねない言葉で何でも言い合える友人。私には一生持てないかもしれない。だって、私は本音を言うのが怖い。
異質な自分をさらけ出してしまうから。
「でも、柚木の言う通り、久保田さんって見かけほどか弱くないのね」
杉野さんが私に笑いかけた。
「四針縫った傷だと、血もすごかったんじゃない? あたしなら卒倒しちゃってたかも」
「あの、あの時は私、必死だったから」
後になって怖くなったと言い訳しておいた。血を美しいと思ったなんて言えない。
「そうか? 全然平気そうだったぞ」
振り返った私に、柚木君が独り言のように呟いた。
「言ってることとやってることが一致してないなあ。何でそんなに外と中が違いすぎてるかな」
私は人の心に欠けた者だから。
私の異質さは知らぬ間に滲み出していて、もう取り繕えないところまできているのかもしれない。
もしも、今までの体験や出会いなどを白紙に戻せて、新たに積み重ねることができたとしたら、私は今の私とは別な者になれただろうか。
今の私を構成しているそれらのものがなかったとしても、やっぱり根の部分で同じ自分になっていたんじゃないだろうか。
例えば──私は他人なんてどうでもいいという自分の思考がどこから来たのか分からない。
分からないということは、生まれつき持っていたということに他ならない。誰のせいでもなく、私は私の持って生まれたもののためにこんな自分になってしまった証拠だ。
持て余す自分を振り捨ててしまいたい。
でも、どこへ。どうやって。
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