裸の王様は困っているのだ

ニャロック

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裸の王様は困っているのだ

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 とある王国のとある王様のお話

 ある日王様はお忍びで街へでかけました。王様と気づかれないように、庶民と同じ服を着ています。

 民の生活が潤っているのか、城の中からは、うかがい知れない庶民の生活をのぞいてみたい。そんな思いを抱いて街へ出かけました。

 街は活気に満ちあふれていました。市場の呼び込みの声、行き交う多くの人々、王様は疲れ果ててしまいました。

 よっこいしょと、王様は道端に座り込んでしまいました。

 「おじいさん、どうしたの具合がわるいの? 今、水を持ってくるからまっててね」

 貧しい服を着た少女は、おじいさんが王様と気づくはずもありません。

 「はい、お水」
 
 王様はこれほどおいしい水を飲んだことがありません。

 「歩ける? あの木陰にベンチがあるからそこで休みましょう」

 王様はその少女の肩を借りてベンチまで行きました。

 「ありがとう、助かったよ」

 「ここでしばらく休んだ方がいいわ」

 「そうすることにするよ」

 王様はこんな良い少女がいることに、感動を覚えました。そこに少女を呼ぶ父親の声が飛び込んできました。

 「エミリー、何をしているんだ。そのジジィは何だ。お金にならないなら、かかわるな」

 「おじいさん、ごめんなさい。行くわね」

 あんなこと言う男の娘なのに、何ていい子なのだろう。王様はうれしさいっぱいで城へ帰りました。


 来月は建国記念のお祭りです。パレードには王様も参加します。それで今日はパレードに着る衣装の打ち合わせです。

 祭りを取り仕切りのは、祭司長のシューケンです。チョビヒゲを生やして、ちょっと気取った男です。

 この国のお祝い事は、シューケンよってとり行われます。

 「王様 パレードで着るお召し物を
お作りいたします」

 招き入れられたのは、なんと街で会った少女の父親でした。

 男はきらびやかな衣装を並べてゆきます。最後に洋服を持っているような仕草をして、並べられた洋服の横へ、あたかもそこに洋服があるかのように置いたのです。

 「王様 最後のは最高級のお洋服です。ただし、これは頭の悪い人には見えません。王様にはお見えになられますよね。このきらびやかさがお分かり頂けると思います」

 王様は心の中で思いました。シューケンめ、あの男にお金を握らされたな。こんな、うさんくさい男を連れてくるなんて。

 王様は男を見ました。この男を詐欺師として、引っ捕えることも考えましたが、あの優しい少女の顔が浮かびました。

 王様をだました罪は死刑と決められています。それほど重い罪です。この男があの少女の親でなければ、何のためらいもなく、衛兵を呼んで引っ捕えたでしょう。

 しかし、あの少女の父親を処刑するのはためらわれます。

 「王様 最後のお洋服が一番素晴らしいと存じます」

 シューケンの言葉に、王様は怒りで頭がクラクラします。シューケンめ、この男と計りおって。この男とシューケン共々罰してやりたい。

 でも、あの少女の顔を思い浮かべると、自分がだまされる以外にない、としか考えつきません。王様は大きくためいきをつきました。

 「すべて、まかせる」

  そう言って王様は出て行きました。二人の目くばせし合うのに気づいたのですが、怒りをおさえるしかなかったのです。

 おふれが出ました。

 [ 王様が着ているお召し物は、頭が悪い人には見えません。もし王様が裸に見えたら、それはあなたの頭が悪いのです]

 盛大な祭りになりました。そして祭りはクライマックスとなり、王様のパレードになりました。パンツ一枚で歩く王様。

 「何て素敵なんでしょう」

 沿道に並ぶ人々は口々に王様の服を賛美しました。王様は笑顔で手を振ります。そうするしかなかったのです。

 しばらく進むと、一人の少女が王様の前に立ちはだかりました。護衛の兵士のやりが、いっせいに少女に向けられます。

 王様はちょっと驚きましたが、その顔を見るなり、あの優しい少女だと気づきました。

 王様はやりを引くように命じます。

 「私に何か用があるのか?」

 少女は緊張のあまり顔が真っ青になり、口はふるえています。そんな彼女に王様はにっこり笑い、少女をうながしました。

 少女のふるえるくちびるから、王様に向けて語り始めます。

 「王様のお召し物には、ほころびがございます。新しくご用意したこちらの服へお召し替え下さい」

 少女は父親の悪だくみに気づき、仕事場にある、最高級の服を持ち出していたのです。

 少女は王様の前にひれ伏し、新しい服を差し出しました。

 「そうか、ほころびがあるのか、それでは着替えないといけないな」

 王様は服を脱ぐふりをして、見えない服を兵士に渡し、少女の差し出した服に着替えます。

 王様は少女の機転と勇気ある行いに感動しました。少女の取った行動は一つ間違えば、兵士に殺されるかも知れなかったからです。

 そして、少女の行いは父親をいさしめ、王様の権威を取り戻したからです。

 裸の王様は、もう裸の王様ではありません。

 それから祭りは更に盛り上がり、夜には盛大に花火が上がり、祭りの終わりをつげました。


 その後 王様は少女の行く末を案じました。あの父親と一緒では少女に良くないと考えました。

 王様は祭りの後しばらくして、王宮に呼びました。王様は色々考えた末に、あることを決めました。

 王様の前に二人はひれ伏し、特に父親はガタガタとふるえていました。処刑されるに違いないと思ったからです。

 あのシューケンが、王宮から追い出されたことを聞いて、父親は王様が怒っていることに気づいたのです。

 「今回の勇気ある行いに、ほうびを取らせようと思う」

 王様の言葉に二人はとまどいました。
罰せられることがあっても、ほうびをいただくようなことは何もしていないからです。

 父親は処刑のことをほうびと、皮肉を込めて言っているのかとあやぶみました。

 しかし、それは取り越し苦労でした。

 「娘の勇気ある行いを高く評価し、
王宮の侍女して召し抱える。まだ幼いゆえ王宮内で学問も学ばせる」

 王様の言葉に二人はびっくりしました。

 「父親は王宮の雑用係として召し抱える。以上だ」

 王様はひれ伏す二人を残して退席しました。二人は驚きと感謝でからだを動かすこともできません。

 王様は娘を父親から引き離すことは、かわいそうでできませんでした。母親は少女が幼い頃に亡くなっていると聞いて行くたからです。

 もちろん、父親には厳しい監視がつきましたが、親子は一緒に暮らすことになりました。
 
 でも王様の心は複雑です。一人の少女を助けたからと言って、国の中には、こんな親子はたくさんいることでしょう。

 王様は宮殿から、しみじみと街を見おろしました。
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