あえない天使

ハルキ

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Day6

21.ふくしゅう

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 ピンポーン。
 ボクはその音で起こされました。重たい目を開けて時計を見ると、10時を指していました。ずいぶん眠ってしまっていたようです。とりあえず誰か来たようなので玄関を開けにいきます。
 寝室から出て、おぼつかない足取りで1階に下りていきます。リビングには誰もいませんでした。昨日のことはやはり現実なのだと思い知らされます。
 玄関の扉を開けると恵くんが立っていました。
 「師匠、おはようございます」
 「おはよう」
 空は相変わらず黒い雲が空一面に広がっています。たしか夕方から雨が降るそうです。
 「原さん、いますか?」
 「原くん?」
 ボクは思わず聞き返してしまいました。
 「はい、今日は姉さんの誕生日なので毎年、買い出しとか手伝ってもらっているんです」
 ボクは初耳でした。原くんはいつも殴られているからほんとは仲が悪いのかなと思ったりしたのですが、けんかするほど仲がいい、って言いますもんね。
 ボクは恵くんを家に上がらせて原くんの部屋の前に案内しました。原くんはおそらく昨日からこの部屋にこもりっきりです。ボクはもしかしたら葵ちゃんの誕生日なら出てきてくれるかもと期待していました。
 「おはようございます、恵です」
 恵くんは軽くドアに2回、ノックをしました。
 「あぁ、恵くんか。今日はちょっと体調が悪いんだ。葵の誕生会は休むよ」
 扉の奥から力のない原くんの声が聞こえました。恵くんは「そうですか」と言い、肩を落としました。でも、原くんはおそらく体調は大丈夫だと思います。ボクは別の要因があるのではないかと考えました。しかし、それは恵くんには言わないようにします。
 ボクと恵くんはリビングに移動し向き合って椅子に座りました。恵くんはまっすぐにこちらを見つめてきます。
 「師匠にお願いがあるのですが、原さんのかわりに姉さんの誕生会の手伝いをしてくれませんか?」
 「うん、いいよ」
 ボクはすぐに答えました。恵くんはボクが速く答えすぎたためか驚きの表情を見せましたが、すぐに歓喜の表情を浮かべました。
 「ありがとうございます」
 恵くんはボクの手を握りしめました。その手は暖かく、冷めきっていたボクの手に温もりを届けてくれました。
ボクは恵くんの後ろについていき、葵ちゃんの家に向かいました。昨日の夜のように冷たい風が吹き、木々が吹き飛ばされないように頑張っていました。空は少しずつ黒くなっていき、雨の予感をただよわせています。
ついた家は原くんの家とさほど変わりありませんでした。違うのは屋根や扉の色、窓の位置ぐらいでした。恵くんは持っていた鍵で玄関を開け、ボクを中に入れてくれました。
 中に入ると誰もいませんでした。ボクは靴を揃え、段差を上がりました。恵くんも段差を上がると、奥の部屋へ案内してくれました。中は原くんの家とは違い、リビングと台所が分けられていました。
 すると、恵くんはどこかからか様々な色の紙の輪っかがつなげられたものを持ってきました。それはボクのよりも長かったです。恵くんはその中のひとつを持ちあげました。
 「これをこうやって飾ってください」
 恵くんはそう言いながら部屋の壁に持ってきたものをテープで貼っていきます。ボクも恵くんを手本にして貼っていきました。
 しばらくして、すべてなくなると恵くんは、
 「次に買い出しに行きましょう」
 と言いました。ボクと恵くんは家を出て、一緒に歩いていきました。いつもは自転車で通っている道でした。
 住宅が少しずつ数を減らし、大きな橋が見えてきたとき、黒い車がボクらの横を通り向けました。そして、少し先でその車は止まり、中からふたりの人が出てきました。どちらもがたいがいい。マスクをつけ、サングラスを身に着けています。そのふたりがこちらに近づいてきました。
 ボクは前からも後ろからも車が来ていないのを確認すると、向こうからやってくるふたりを避けようとしました。しかし、そのふたりはボクらをさえぎるように寄ってきました。
 「なぁ、おかしあるんだけど、食べない?」
 ふたりとも恵くんのことは見ずに、ボクのことだけを見ていました。
 「ごめんなさい、急いでいるので」
 そう言ったのは恵くんでした。しかし、ふたりとも恵くんには反応しませんでした。
 「なぁ、坊や。おかし、いらないか?」
 ふたりはそうやってボクのほうに顔を近づけさせていきます。しかし、マスクのせいでどういった表情をしているのかわかりません。
 「師匠、行きま・・・」
 恵くんはそう言いながらボクの手を掴もうとしました。おそらく逃げようとしたのでしょう。しかし、ふたりはそれに気がつくと、軽く恵くんを吹き飛ばしてしまいました。
 「恵くん!」
 ボクは地面に倒れこんだ恵くんのもとへ駆け寄ろうとしました。しかし、何者かに体を押さえつけられ身動きが取れませんでした。
 「恵・・・」
 ボクがそう言おうとしたとき、口元に布か何かを当てられました。そのせいで意識が遠のいていきます。ボクが意識をなくす前に見たのはピクリとも動かない恵くんの姿でした。
 



 ボクが目を覚ましたのは強烈なにおいがする場所でした。ボクはそれを嗅いでしまいせき込んでしまいました。
 まわりは木材や機械などが置かれていておそらく工場だと思います。
 ボクは動こうとしましたが、椅子に座らされているようで、手と足が縛られていました。ほどこうとしましたが縄が太く、ボクの力ではできませんでした。
 すると、向こう側から誰かの足音が聞こえてきました。
 「おう、やっと目が覚めたか」
 やってきたのは3人でした。ボクはその姿にハッと息をのみます。その3人はボクがボウリング場へ行った日のコンビニで倒した3人組だったからです。
 「あっ、あのときの」
 「そうだ。おかげでこっちは散々な目に合わされてよ。お前みたいな小さな奴に負けたことを見られて周りから恥さらしとか言われ、さらにはもう少しで最高ランクだったのに最低ランクにまで落とされてしまった。おかげで俺らは奴隷同然、この気持ちがわかるか?」
 ボクは黙っていた。すると、「なぁ」と掛け声とともにボクのほうに足を飛ばしてきた。しかし、それは椅子に当たり、破片がばらばらと地面に落ちていきます。
 「だから、お前をいたぶらなきゃ、気が済まないわけ。あとついでに金もいただいていく」
 「お金?そんなのボク持ってないよ」
 ボクがそう言うと3人は高らかに笑いました。
 「お前、知らないの?お前が泊まっていたあの原って有名な会社の社長なんだぜ。そんなやつはたらふく金持ってるに決まってんだろ。俺らがお前にやられた日に偶然、お前を見つけてそしたら、あの原ん家に泊まってるんだぜ。こんな偶然あるんだなぁ。だから、お前をボコすついでに金も手に入る。一石二鳥ってやつよ」
 ボクのなかから言いようもないくやしさがこみあげてきました。あの時、この3人組が来たことを恵くんに知らせてれば、今日この3人組を見て引き返していたら、
 ボクにもっと力があれば。




 
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