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九章 噂と理不尽

170. 王都の街へ

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 王都にある中央街と呼ばれる商業地区は、様々な店舗が並ぶ。ほかにも広場には露店があり、貴族街に近づく程、店舗の見た目も高級感が出ていた。

「前にコッコ車で通った時も思ったけど、やっぱり人が多いわね」

 マグダリーナは活気のある街の様子を好奇心のこもった目で眺める。行き交う人々の中には、学園の生徒だとわかるものもいた。

「馬車ってやっぱり時間かかるよな」
 馬車から降りて、ヴェリタスが身体を伸ばしながら言う。

「王都みたいに人が多いと、速度の出る乗り物は危ないんじゃないか? ショウネシーみたいに、歩行者と道が分けてあるわけじゃないしな」
 背の高いライアンは、自然とマグダリーナやレベッカを庇うように、馬車や荷車を気にして歩く。
 彼の頭の上では、やっぱりぶっぶーとカーバンクルが鳴いていた。

 従魔を連れて歩くのはやはり珍しいのか、マグダリーナは行き交う人々から視線を感じた。

(なんか……目立ってる? やっぱり妖精熊とカーバンクルを連れていたら注目されるのかしら)

 その時、割と声の大きな大人の男性の声が耳に入った。


「なあ、あれマゴーじゃないか?」
「いつもマゴマゴ放送に出てるやつと色が違うけど……でもマゴーだよな」


(お、ま、え、か……!!)

 マグダリーナ達の視線が、チャーことヴェリタスの相棒茶マゴーに注がれた。
 チャーは、わざとらしくヴェリタスに甘えるように、そっと寄り添う。頭の魔石がチカチカ光った。

「動いたぞ! マゴーがいる!! 本物だ!」
「映るのか? まさか俺たちがマゴマゴ放送に!?」
「ちょっと、よく見えないわ!!」
「ねぇ、あの髪! もしかしてショウネシーのご令嬢では?」

 あっという間に大人数に囲まれてしまった。

 チャーが防御結界を張り、チャーやマグダリーナの髪に触ろうとする人々から守られはしたが、完全に取り囲まれて身動きが取れなくなった。

「リーナお姉様に気づいたのに、こんな乱暴をしようとするの……?」
 レベッカが呆然としながら、マグダリーナの手を握る。

 防御結界を叩いていた人々は、どこからか、椅子やハンマーを持ってきて、結界を叩き始めた。

 そうして。

 マゴマゴ放送の音楽が流れた。


「緊急マゴマゴ放送です。王都からこんにちは。ショウネシー領の皆さん、エルロンド領の皆さん、そして王宮の皆さんに王都の騒動を生放送でお届けします。こちらは中央街。王都で一番大きな商業地区です。ご覧いただけますでしょうか? ただ歩いているだけの王立学園の学生を取り囲み、襲いかかるなんて、王都って恐ろしい所ですね。しかも爵位をいただいているお二人に危害を加えようとは。ここにいらっしゃる皆様は、一人残らず捉えますね」

 上空に大きな映像表示画面が展開され、人々の視線を集めた。放送に映っているマゴーが、のほほんとした顔で宣言すると、マグダリーナ達を取り囲んでいた人々の周囲に大量のマゴー包囲網が出来あがる。

 魔法の光を纏ってキメポーズを取りながら、絶妙な秒差で一体一体、効果音付きでマゴーが現れる。その様子は無駄に圧巻、無駄に胸熱。

 ――視線を釘付けにされて、動けるものは誰一人いなかった。

 そして暴徒と化した人々を、瞬く間に得意の捕縄術で捕縛すると、駆けつけた衛兵達にわたしていく。

 騒ぎに加わらず、遠巻きに見ていた人達はマグダリーナ達が無事でほっとしているようだった。そうした人々の中に、衛兵を呼んでくれた人もいたようで、衛兵に事情聴取されている。そしてマゴマゴ放送は続いていた。

「思いやりある善意の人々の働きで、素早く衛兵が対応することができたようです。では今後もこのような暴動が起きないよう、今日のマゴマゴ放送では、我々マゴーの謎を少しだけお見せしたいと思います。画面はこのまま、マゴーは移動しますね」

 そう言うと、目の前の大量のマゴーは一斉に消えた。その隙というか、流れで、チャーもマグダリーナ達を連れて一緒に転移した。

 どこへ。王都にある金と星の魔法工房へだ。
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