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八章 エステラの真珠
156. 拾ったエルフ
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「あ……」
不意にライアンが何か思い出して、声を上げ、エステラの顔を見る。
エステラも思い出して、頷いた。
ここで仕事の時間が来たからと、ハンフリーが席を立った。そしてドミニクに声をかける。
「ドミニクさん、貴方も一緒に来てください。領民カードを作って、住むところと仕事も決めないと」
「待った! それは明日にしよう、こんな面白い話し聞き逃せねぇ」
「待って! それは貴方、もう一晩ここに泊まるつもりですの!?」
レベッカが目くじらをたてた。
マグダリーナはチラリとルシンを見た。
彼はエデンと違ってディオンヌ商会の仕事にも携わってないし、必要が生じればたまに魔獣を狩るけど、ほぼ無職だ。
ルシンはエステラの家でエステラやニレルや従魔達が作ったご飯を食べ、エステラからお小遣いをもらって過ごしている。
エステラは偶に素材収集を手伝ってもらってるとは言うが。
マグダリーナはドミニクが第二のルシン(無職)になりそうな予感がして、手を打つことにした。
「役所に行くのは明日でも良いとして、仕事だけは決めておきましょう。ドミニクさんは一エルも持って無いんでしょう? ひとまず農夫と畑仕事と果樹園仕事、どれにしますか?」
ドミニクは大袈裟に肩を竦めた。
「なんてとんでもないことを言うご令嬢だよ。それ、農夫一択じゃん。私は魔法使いなんだけどな。それに働くなら、我が君の下がいい」
ニレルの眉間の皺が深まった。
領主のハンフリーと従者のフェリックスが出かけると、エステラはライアンが言いかけた話題に戻すことにした。
「昨日、拾ったエルフがいるんだけど」
「昨日拾ったエルフってなんだい? エステラ」
ニレルが眉間の皺もそのままに、エステラに尋ねる。
エステラはニレルの眉間に指を当てて揉みほぐした。
「拾ったのはライアンとササミだから。今はヒラが預かってくれてるけど」
「ライアン、どういことだ?」
ヴェリタスがライアンに尋ねる。
「森の中に銀色の光が走って行ったから、ササミと後を追ったんだ。そこにエルフが倒れてた。それでササミがとりあえず連れて帰ろうって」
エステラは頷いた。
「いつまでも収納にしまっておく訳にもいかないから、とりあえず出して良いかしら」
ヒラとハラが使っていないソファをずらして、御屋敷快適性能型魔導人形、アレクシリことアッシを簡易ベッド形状に広げる。
そこにヒラが、自分の魔法収納に仕舞っていたエルフの男性を寝かせた。
長い黒髪の整った顔立ちは、どことなくルシンに似ている。
「ケンちゃん、この人が貴方の云ってた、元エルロンド王国王弟で間違いない?」
エステラはケントに確認を求める。
ケントはアッシに近づくと、慎重に意識の無いエルフを確認する。
「ああ、我が友セレン・エルロンドに間違いない」
「ライアンが言った状況だと、この人が今回の真犯人かもってことになるんだけど」
ニレルは立ち上がって、エステラの元に行き、その手でエステラの口をそっと塞いだ。
「……いい、エステラ、ここから先は僕が確認するよ。エステラはエデンの側に」
「い・や・よ」
すぽんとニレルの手から擦り抜け、エステラはアッシの上で眠るエルフに近づいた。じっとその顔を見つめる。
「セレン・エルロンド……鑑定魔法の結果も、この人が私とルシンお兄ちゃんのお父さんだって云ってる……」
エステラがそう言ったとき、マグダリーナはエデンの膝の上で握られた拳が、微かに震えているのを見た。
エステラはさらに深く鑑定魔法をかける。
「この人がエヴァの番いで間違いないわ。でも魂の状態がすごく不安定……お師匠の攻撃対象でも無さそう……でもお師匠の魔法の残り香みたいなのも感じる。どうしてあんなところにいたのかしら」
空気を読まないドミニクが、セレンに近づいて、その首筋、脇へと顔を寄せる。
すん、すん、と。
「な……何をやってるんですの?!」
レベッカが引き気味に聞いた。
「何ってそりゃあニオイを嗅いでるんじゃねぇか。魔力のニオイだ」
当然だろうという顔でドミニクは言った。
「本体とは別のニオイが混ざってやがる。だがそっちのニオイは嗅ぎ覚えがあるぜ。クソ親父に薬やペットの斡旋をしたり、そりゃあそりゃあ親切だったからな」
その時、ゆっくりと黒髪のエルフの瞳が開いた。
セレン・エルロンドのその瞳は、エステラとルシンの左目と同じ、紫水晶の瞳をしていた。
◇◇◇
目覚めたセレンの目に一番に飛び込んだのは、エステラの姿だった。
「スーリヤ?!」
セレンは起き上がると、渾身の力でエステラを突き飛ばした。
「私に近寄るんじゃない、スーリヤ!!」
セレンに突き飛ばされたエステラを、ニレルは間一髪受け止める。
「怪我はないかい? エステラ」
「ふ……」
エステラの大きな瞳に、みるみる涙が盛り上がり、とめどなく流れ落ちた。
セレンのそれは、はっきりとした拒絶で。
理由はどうあれ、エステラの母スーリヤは、望まれてエルフの花嫁として迎えられたのだと思っていた。
それが違っていたのだったら……エステラさえ身籠らなければ。
スーリヤには別の幸せ、もっと長い寿命があった筈だ。
「……っあ、ああああああ」
それはいつも大人顔負けの余裕を見せているエステラの、年相応の泣き顔だった。
マグダリーナとアンソニー、それにレベッカは、エステラの元に駆け寄ろうと身体を動かすが、ニレルが大丈夫だと頷くので、座り直した。
ニレルは後ろ抱きにしていたエステラの脇に手を入れて方向を変えさせると、自分の胸の下にエステラの顔を埋めさせる。
そして慣れた手つきで、ぽん、ぽん、とエステラの背中を優しく。ぽん、ぽん、と。
エステラの嗚咽が止まり、呼吸がゆっくりになるのがわかる。
やがてエステラの両手がニレルの背中の下に周り、すぅぅぅとニレルを吸いはじめたので、マグダリーナ達はもう大丈夫だと安心した。
エステラの泣き声は、セレンの冷静さも取り戻した。
「すまない、人違いであった……」
突き飛ばした相手がまだ子供……しかもエルフである事に気づき、セレンはエステラに近づこうとする。よろめくその身体を、ケントが支えた。
「……ケント」
「久しぶりだなセレン、十五年以上も何処に行っておった」
「十五年……」
ケントの言葉に呆然としながら、セレンはエステラに近づくと、跪いて小さな背中に声をかけた。
「少女よすまない。勘違いで手荒な事をしてしまった。怪我は無いだろうか?」
「……」
ニレルに抱きついたまま答えないエステラの様子に、セレンはニレルを見た。
「貴方はこの少女の兄君だろうか? 妹君に無礼を働いたことを謝罪したい」
「兄ではないが、貴方に悪意が無いことは理解したよ」
ニレルにしがみついて、ちらりとエステラはセレンを見た。
「あなたは……どうしてスーリヤが嫌いなの?」
僅かに震える声で、セレンに問いかける。
「嫌いではない……嫌うはずがあろうか……エヴァも私もスーリヤが大好きで大切だった。だからこそ、私の側にいては」
「本当? 本当にスーリヤが大切だったの?」
縋るようなその声音に、セレンはその少女……エステラの顔をよく見た。
スーリヤに似た美貌、スーリヤの緑の瞳と、自分と同じ紫の瞳を持つ。
「まさか……そなた、私とスーリヤの、」
「違う!」
艶のある大人の男の声が、セレンを遮る。
エデンは立ち上がった。
「俺の娘だ! エステラは、俺の、娘!!」
不意にライアンが何か思い出して、声を上げ、エステラの顔を見る。
エステラも思い出して、頷いた。
ここで仕事の時間が来たからと、ハンフリーが席を立った。そしてドミニクに声をかける。
「ドミニクさん、貴方も一緒に来てください。領民カードを作って、住むところと仕事も決めないと」
「待った! それは明日にしよう、こんな面白い話し聞き逃せねぇ」
「待って! それは貴方、もう一晩ここに泊まるつもりですの!?」
レベッカが目くじらをたてた。
マグダリーナはチラリとルシンを見た。
彼はエデンと違ってディオンヌ商会の仕事にも携わってないし、必要が生じればたまに魔獣を狩るけど、ほぼ無職だ。
ルシンはエステラの家でエステラやニレルや従魔達が作ったご飯を食べ、エステラからお小遣いをもらって過ごしている。
エステラは偶に素材収集を手伝ってもらってるとは言うが。
マグダリーナはドミニクが第二のルシン(無職)になりそうな予感がして、手を打つことにした。
「役所に行くのは明日でも良いとして、仕事だけは決めておきましょう。ドミニクさんは一エルも持って無いんでしょう? ひとまず農夫と畑仕事と果樹園仕事、どれにしますか?」
ドミニクは大袈裟に肩を竦めた。
「なんてとんでもないことを言うご令嬢だよ。それ、農夫一択じゃん。私は魔法使いなんだけどな。それに働くなら、我が君の下がいい」
ニレルの眉間の皺が深まった。
領主のハンフリーと従者のフェリックスが出かけると、エステラはライアンが言いかけた話題に戻すことにした。
「昨日、拾ったエルフがいるんだけど」
「昨日拾ったエルフってなんだい? エステラ」
ニレルが眉間の皺もそのままに、エステラに尋ねる。
エステラはニレルの眉間に指を当てて揉みほぐした。
「拾ったのはライアンとササミだから。今はヒラが預かってくれてるけど」
「ライアン、どういことだ?」
ヴェリタスがライアンに尋ねる。
「森の中に銀色の光が走って行ったから、ササミと後を追ったんだ。そこにエルフが倒れてた。それでササミがとりあえず連れて帰ろうって」
エステラは頷いた。
「いつまでも収納にしまっておく訳にもいかないから、とりあえず出して良いかしら」
ヒラとハラが使っていないソファをずらして、御屋敷快適性能型魔導人形、アレクシリことアッシを簡易ベッド形状に広げる。
そこにヒラが、自分の魔法収納に仕舞っていたエルフの男性を寝かせた。
長い黒髪の整った顔立ちは、どことなくルシンに似ている。
「ケンちゃん、この人が貴方の云ってた、元エルロンド王国王弟で間違いない?」
エステラはケントに確認を求める。
ケントはアッシに近づくと、慎重に意識の無いエルフを確認する。
「ああ、我が友セレン・エルロンドに間違いない」
「ライアンが言った状況だと、この人が今回の真犯人かもってことになるんだけど」
ニレルは立ち上がって、エステラの元に行き、その手でエステラの口をそっと塞いだ。
「……いい、エステラ、ここから先は僕が確認するよ。エステラはエデンの側に」
「い・や・よ」
すぽんとニレルの手から擦り抜け、エステラはアッシの上で眠るエルフに近づいた。じっとその顔を見つめる。
「セレン・エルロンド……鑑定魔法の結果も、この人が私とルシンお兄ちゃんのお父さんだって云ってる……」
エステラがそう言ったとき、マグダリーナはエデンの膝の上で握られた拳が、微かに震えているのを見た。
エステラはさらに深く鑑定魔法をかける。
「この人がエヴァの番いで間違いないわ。でも魂の状態がすごく不安定……お師匠の攻撃対象でも無さそう……でもお師匠の魔法の残り香みたいなのも感じる。どうしてあんなところにいたのかしら」
空気を読まないドミニクが、セレンに近づいて、その首筋、脇へと顔を寄せる。
すん、すん、と。
「な……何をやってるんですの?!」
レベッカが引き気味に聞いた。
「何ってそりゃあニオイを嗅いでるんじゃねぇか。魔力のニオイだ」
当然だろうという顔でドミニクは言った。
「本体とは別のニオイが混ざってやがる。だがそっちのニオイは嗅ぎ覚えがあるぜ。クソ親父に薬やペットの斡旋をしたり、そりゃあそりゃあ親切だったからな」
その時、ゆっくりと黒髪のエルフの瞳が開いた。
セレン・エルロンドのその瞳は、エステラとルシンの左目と同じ、紫水晶の瞳をしていた。
◇◇◇
目覚めたセレンの目に一番に飛び込んだのは、エステラの姿だった。
「スーリヤ?!」
セレンは起き上がると、渾身の力でエステラを突き飛ばした。
「私に近寄るんじゃない、スーリヤ!!」
セレンに突き飛ばされたエステラを、ニレルは間一髪受け止める。
「怪我はないかい? エステラ」
「ふ……」
エステラの大きな瞳に、みるみる涙が盛り上がり、とめどなく流れ落ちた。
セレンのそれは、はっきりとした拒絶で。
理由はどうあれ、エステラの母スーリヤは、望まれてエルフの花嫁として迎えられたのだと思っていた。
それが違っていたのだったら……エステラさえ身籠らなければ。
スーリヤには別の幸せ、もっと長い寿命があった筈だ。
「……っあ、ああああああ」
それはいつも大人顔負けの余裕を見せているエステラの、年相応の泣き顔だった。
マグダリーナとアンソニー、それにレベッカは、エステラの元に駆け寄ろうと身体を動かすが、ニレルが大丈夫だと頷くので、座り直した。
ニレルは後ろ抱きにしていたエステラの脇に手を入れて方向を変えさせると、自分の胸の下にエステラの顔を埋めさせる。
そして慣れた手つきで、ぽん、ぽん、とエステラの背中を優しく。ぽん、ぽん、と。
エステラの嗚咽が止まり、呼吸がゆっくりになるのがわかる。
やがてエステラの両手がニレルの背中の下に周り、すぅぅぅとニレルを吸いはじめたので、マグダリーナ達はもう大丈夫だと安心した。
エステラの泣き声は、セレンの冷静さも取り戻した。
「すまない、人違いであった……」
突き飛ばした相手がまだ子供……しかもエルフである事に気づき、セレンはエステラに近づこうとする。よろめくその身体を、ケントが支えた。
「……ケント」
「久しぶりだなセレン、十五年以上も何処に行っておった」
「十五年……」
ケントの言葉に呆然としながら、セレンはエステラに近づくと、跪いて小さな背中に声をかけた。
「少女よすまない。勘違いで手荒な事をしてしまった。怪我は無いだろうか?」
「……」
ニレルに抱きついたまま答えないエステラの様子に、セレンはニレルを見た。
「貴方はこの少女の兄君だろうか? 妹君に無礼を働いたことを謝罪したい」
「兄ではないが、貴方に悪意が無いことは理解したよ」
ニレルにしがみついて、ちらりとエステラはセレンを見た。
「あなたは……どうしてスーリヤが嫌いなの?」
僅かに震える声で、セレンに問いかける。
「嫌いではない……嫌うはずがあろうか……エヴァも私もスーリヤが大好きで大切だった。だからこそ、私の側にいては」
「本当? 本当にスーリヤが大切だったの?」
縋るようなその声音に、セレンはその少女……エステラの顔をよく見た。
スーリヤに似た美貌、スーリヤの緑の瞳と、自分と同じ紫の瞳を持つ。
「まさか……そなた、私とスーリヤの、」
「違う!」
艶のある大人の男の声が、セレンを遮る。
エデンは立ち上がった。
「俺の娘だ! エステラは、俺の、娘!!」
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※とりあえず、一時完結いたしました。
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その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
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