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七章 腹黒妖精熊事件

148. 精霊の襲撃

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 エステラは元気を取り戻して、ヒラとモモ、そして何故かエステラを気に入って髪や腕に巻き付いている女神の闇花達と一緒に、マグダリーナ達と合流した。

 丁度その頃には、女神の神力の受け渡しが終わり、受け手を担っていたドロシー王女と騎士団長も、エデンの用意した机にうつ伏せになって、意識を失っていた。

「ドロシー姉上……」
 同じく合流を果たしたバーナードは、近くにあったクッションをそっとドロシーの顔の下に忍ばせる。

 バーナードも精魂尽き果てたような顔をしていた。レベッカは、三人に回復魔法をかけ、バーナードに飲み物を渡した。

 マグダリーナは毒で苦しむ討伐隊が、解毒は無理でも少しでも楽なようにと、ととのえるの魔法を数十分ごとにかけていた。
 女神の奇跡が降り立つようになってから、少しだけだが、ととのえるの魔法なら患者に負担なく効き目があるようになったのだ。少しでも彼らの苦痛が和らぐよう、マグダリーナは願った。

 ふとマグダリーナは、視線を感じて振り返る。周囲は各々やるべきことを行なっていて、視線の主らしき者はいない。

 エデンとエステラ、レベッカは解毒剤作りに必要な簡易調薬場……
 うん、どう見ても台所を設置しているし、ニレルは念入りに素材の最終確認をしている。

 ヨナスはドロシーと騎士団長を寝かせる為の新たな緑の結界を二つ作っていた。
 二人を同じ場所に寝かせるわけに行かないので。

 バーナードは休憩用のテーブルで水分補給中で、ゼラとモモはその近くで行李に詰められた妖精熊達を拾った枝でつついている。

 それでもなんだか息苦しくなるような視線を感じる気がして、マグダリーナは微かに身震いした。

「リーナ疲れた? 休憩する?」

 マグダリーナの異変に気づいたエステラが、声を掛ける。

「……そうするわ。思ってるより疲れてるのかも」

 エステラはマグダリーナの肩で寝ている、マグダリーナの腕輪の魔導具に付けた人工精霊……青い小さな小鳥の姿をしたエアの首をちょこちょこ掻いた。

「やっぱりエアも元気ないし、多分リーナかなり疲労してると思う。こっちも準備は終わったし、ササミ達がアルミラージの角を持ってくるまで、休憩しましょ」

 エステラはマグダリーナの手を取って、バーナードが休んでいるテーブルに向かった。その手の温もりは、マグダリーナをとても安心させた。


 ヴェリタスとチャーが戻って、とうとう最後の素材、アルミラージの角二本が揃った。

「はい、これ」
 エステラは、ニレルに自身の杖を渡した。

「ニィの杖はまだ素材を厳選してるところだからね! 今回はこれを使って」

 ニレルは、ふ、と微笑んでエステラから杖を受け取った。
「この杖を使うなら、万が一にも失敗はないだろう」

 解毒剤の素材を浄化し、細かく切ったりすりつぶしたりと、各々手分けして作業を始める。

 難しい素材はニレルとエステラが錬金術を使って処理しはじめた。

 マグダリーナは錬金術を使う所を初めて見る。

 エステラとニレルの目の前に、薄い膜で隔てられた空間があった。あの空間が《錬成空間》とエステラ達が呼んでいる、不思議な魔法の作業場なのだろう。

 エステラの錬成空間は、素材量に合わせてとにかく大きく、更に内部が部屋のように仕切りで分けられていた。

 そこで大量の妖精キノコと数種類の薬香草が、それぞれの部屋で細かく刻まれたり蒸気で蒸されたりしている。
 そうして取り出されたエキスが、一番下の空間で数滴ずつゆっくり加えられながら撹拌されていた。

 ニレルの錬成空間では女神の光花と闇花が光りながらぐるぐる回っている。
 その空間と管で繋いだもう一つの空間では、風霊の緑柱玉が息をするように瞬きを放っていた。

 アルミラージの角をはじめとする硬い素材は、ゼラが粉末にしてから、ヒラとモモが混ざらないように素材別の容器に入れていく。

 お馴染みのサトウマンドラゴラの葉を煮詰めるのはレベッカの役目だ。
 ただし、それに使う火は浄化の炎でなくてはいけなく、マグダリーナは浄火魔法でレベッカのかき混ぜる鍋を熱していた。

 ――マグダリーナはまた視線を感じた。

 なんだか嫌な予感がする……そう思った瞬間、マグダリーナの手の先の浄化の炎が消えた。

 その時、エステラが慌てた声を上げた。

「ヒラ! こっちを代わってちょうだい!!」
「わかったぁ」

 急いでヒラはエステラの錬成空間を引き継いだ。

 ざわ、ざわ、と、空気が騒めいているのを感じた。

「エデン、ヨナス、精霊が協力してくれない! 気をつけて!」

 エステラの掛け声に、エデンも何か感じとったのか、咄嗟にヴェリタスとバーナードを緑の結界を強化しているヨナスの所に転移させる。

 エデンはチッと舌打ちをした。

「上位精霊を操っているイケナイヤツがいるな」
「それは……」

 そんな事ができるのは、ハイエルフくらいなのでは、とマグダリーナは思いつつも言葉を飲みこんだ。
 いつでもショウネシーの為に協力してくれるハイエルフ達の中に、こんな事をする人が居るとは思えない。

 調薬場を結界で包んでいたエステラが、何かに気づいたように、咄嗟に上空を見上げた。

「タラ!!」
 同じ何かに気づいたエデンは、エステラの仮の名を叫んだ。
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