傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ

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七章 腹黒妖精熊事件

142. 神力の受け手

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「おおっと、間一髪だ。キミに大地との口付けはまだ早い」

 倒れかかったマグダリーナの胴に、大人の腕がまわされる。

「エデン……ありがとう」
「どうイタしまして」

「大丈夫かリーナ、日陰で休んで水分取った方がいいんじゃねぇの?」
 ヴェリタスがコップに水を入れて渡してくれる。
 落ち着いて見渡すと、マグダリーナがルシンに呼び出される前と、そう時間が経ってないような感じがする。

 彼とあんなに話すのは初めてだったのに。
 そしてルシンが腹が減ったと言って帰ったのを思い出す。

「ねぇ皆んな、これから長丁場になるんだし、まずは食事をしておかない?」

 マグダリーナは魔法収納からテーブルと椅子、そして何かあった時のために入れておいた、うまみ屋のお弁当と飲み物を取り出した。


「こんな時にお食事なんて、大丈夫かしら」

 ドリーが不安気にするが、マグダリーナは自信を持って頷いた。

「こんな時だからこそ、体力と気力を保持しておかなくっちゃ。この暑さだと、ただ居るだけでも体力消耗してるもの。それに皆んなに話しておかなくっちゃ行けないことも出来たので」
「ンああ、さっきのはやっぱり喚ばれてたんだなマグダリーナ。ルシンか」

 エデンは緑の結界の前にいるニレルとヨナスにも声をかける。
 揃って食事を始めながら、マグダリーナはルシンとの会話で話せる範囲を選んで話した。


「そっか……神力の受け手に命の心配は無いのか」
 ヴェリタスは心の底から安心した。

「あれが……討伐隊の皆さんを助けたいと思った、国民の祈りが目に見える形になった姿……」

 緑の結界の上空を見上げ、ドロシーはレベッカとライアンを見た。

「レベッカ、ライアン……女神様の神力の受け手を、私に譲ってくれないかしら」

「ドロシー様……」
 レベッカは心配を含んだ声で、ドロシーを見た。

「どうやってお役に立てるか……ずっと考えていましたけど、やはり魔法やその知識に関しては私はあなた方に遠く及ばないわ。でも国や国民を思う気持ちなら、レベッカとライアンの女神様への親愛の気持ちに劣らないと自負しておりますの。それにこの後も何が起こるかわからないのですもの、既に魔法学を修了してるお二人は、他にもお役目があるはずですわ」

 ニレルが頷いた。
「確かに。解毒薬作りにはレベッカやライアンの様な、細かな魔力操作が得意な者が手伝ってくれると、僕も助かる」

「でしたら私も」
 ずっと黙っていた騎士団長が、声を上げた。

「ここで苦しんでいるものの中には、私の部下達もいる。私も王女と共に、その……受け手とやらをさせて下さい」

「よっし、じゃあ受け手は二人休憩をとりながらやってもらえばイイ。生きてる人間だ、どうしたって休憩は必要だからな、んははは」

 そう言いながらエデンは、きっちり熊が詰められた大量の行李に近づくと、中身を確認しはじめる。

「コイツだな。悪い子め」

 エデンはそう言って、一匹の腹黒妖精熊を取り出すと、右手に持ったシャープペンシル型のエステラ製魔導具「活け締めくん」をくるりと回転させて、腹黒妖精熊の頭頂にぷすっと刺した。

「コイツは後で精査してから、問題なければ今回の犯人としてセドくんに贈ろう。マゴーこいつら全部、念の為活け締めしといてくれ。途中で起きだしたら五月蝿いからな」
「かしこまりました!」

 マゴーとチャーがいそいそと残りの小熊達を活け締めにしていく。

 ニレルがため息をついた。
「解毒薬作りが終わった後は、熊の収納改めか……リーナ悪いけど、僕は解毒薬作りのためになるべく魔力を温存したいんだ。今回の素材は扱いの難しいものが多いからね。君の収納でエデンの収納の荷を受け取って、収納リストをヨナスに確認してもらってくれるかい」
「任せてちょうだい」

 熊詰めの行李から離れると、エデンはヨナスの緑の結界を確認して、上空の女神の神力、それから受け手の為に用意していた、女神の光花で囲った場所を確認する。そこにある二人がけの椅子を撤去すると、豪華なソファと長机を代わりに据えた。

「これは王宮にあった……」
「んははは、こっちの方が絶対身体が楽だぞ。俺の見立てでは、キミタチの仕事はそう長くはかからない。その代わり意識を失う程には疲労する。だが寝ればスッキリ回復するから、とりあえずは心配せずにここにうつ伏せになって寝むといい」

 クッションも二つ、長机の上に置かれた。

「何から何まで、ハイエルフとショウネシーの皆様に感謝いたしますわ」

 ドロシーは王族なので頭を下げることは出来ないが、それでも精一杯の感謝の気持ちを込めて一同を見る。
 王族ともなると、眼差し一つで気持ちを表現できるものなのかと、マグダリーナも関心した。

「さて、心の準備が出来たようだから、ソファへドウゾ。僭越ながら俺がキミタチと女神の神力を繋ぐ手伝いをしよう」

 エデンが漆黒の杖を手にすると、ドロシー王女と騎士団長は頷いてソファに座る。

「神力の受け手になっている間は、目の前の対象の無事を一心に祈り、言葉は発しないこと。声と一緒に女神の神力が抜け出てしまうからな。休憩は自由に取っていい。ただし誰も受け手がいない状態になるのは避けること。休憩する時はただ手を挙げて《場》から離れるだけでいい。あの上空の輝きがなくなるまでそれを続ける。イイカナ?」

 二人は頷いて、それぞれ無言で祈りを捧げ始めた。


「いと貴く 慈愛深き 我らが女神よ」

 エデンの声が響く。

「今この人の子らが 奇跡の輝きを受け止めん 女神の輝きよ 降臨せよ」

 上空から、蜘蛛の糸のような細い輝きが降りてきて、ドロシー王女と騎士団長のいる《場》まで来ると、二人の身体が淡く輝き出した。
 《場》を囲んでいた女神の光花も淡く輝きを放ち、空気中に小さな星のような煌めきが溶けこむ。それは徐々に緑の結界内に流れて満たし始めた。

「これでこっちは大丈夫だな。マグダリーナ、収納を預けていいかな?」

 エデンに言われるまま、彼と手のひらを合わせる。少しピリッと感じたと思ったら、エアが『無事受け取り完了ぴゅん』と教えてくれた。

 収納リストをヨナスに確認してもらう。
 どうやらエデンはリオローラ商団やエルロンド、王宮も回って、各々集めた素材を受け取ってきたらしい。エデンが採取に行っていたという、風霊の緑柱玉もちゃんとあった。

「これで残る素材は、女神の闇花とアルミラージの角だけか……」
 エデンがそう言うと、聞き覚えのあるのんびりした声が聞こえてきた。

『女神の闇花、持って来たんよ~』
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