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七章 腹黒妖精熊事件
140. 女神の奇跡
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黄金の髪と白き花の顔が顕になってしまったこの瞬間、ドリーことドロシー王女は後に父王のお咎めを受ける事が確実となったのだが、ドロシーは雨上がりに日差しの差し込む空の様な、厳かで清らかな表情をしていた。
一同はその様子に見惚れていたが、レベッカがいち早く異変に気づいた。
「ニィさん! リーナお姉様! あれは……」
《マンドラゴラの麻痺毒》に苦しむ討伐隊を保護する緑の結界……その上空をレベッカは指差した。
そこには無数の小精霊の輝きが高濃度で集まっている。
レベッカの目には、その小精霊の大群は、そわそわと何かを待っているように見えた。
「きっと女神様の奇跡だわ! でもなんだか様子が変……ニィさん、ヨナスどうしたらいいのかしら?!」
それは今まで見知ってきた、エステラやハイエルフを介して齎された奇跡と、何かが違うとマグダリーナも本能的に感じた。
(女神の奇跡であるはずなのに、エステラが側にいないのが、こんなにも心細いなんて)
空を見上げて、ニレルは険しい顔をした。
「創世の時代より、女神の奇跡は僕らハイエルフを介して齎されてきた。それはハイエルフという存在に女神の輝きを受け止め、奇跡に変える器が備え付けられているからだ。だがあれは違う。ハイエルフを介する輝きではない。女神はこの中から神力の受け手を求めている。なんて冒険をはじめるんだ……!!」
「……あんな量の神力、精石を持たない人が受けて無事でいられるか怪しいよ……」
ヨナスの声が震えていた。
その間にも、輝きはどんどん増えていく。
不意にヴェリタスがクスッと笑った。
「女神様もどこかの魔法使いに影響されて、冒険したくなったんじゃねーの?」
ヴェリタスに視線が集まった。
「なあ、あれ、俺が受け手になっていい?」
レベッカが慌てて止めた。
「だ……ダメですわ!! ハイエルフとショウネシーの魔法使い以外で初の女神様の神力の受け手になる栄誉は、女神様を深く敬愛する私がなります! 私は女神様を信じていますもの。全て捧げる覚悟は出来ていますわ」
「何言ってんだよ。こんな冒険、俺だってやりてーよ」
「いいえ、ヴェリタスは引っ込んでてよ! ここで女神様に応えないと、恥ずかしくて二度と女神様推しなんて言えないもの」
黙々と熊詰めをしていたライアンが、言い合う二人の間に割って入り、ヴェリタスの肩を掴んだ。
「お前はダメだ。わかるだろう?」
兄ライアンの隣でレベッカも頷く。
「何言ってんだよ、ハイエルフを除いたらこの中で俺が一番、体力と魔力を考えたら強いだろーが!」
ライアンは首を横に振った。
「違うよルタ、そういう問題じゃない。女神様が求めるのは、もっと別の強さだ。ニィさん、俺とレベッカ、二人で受け手をします」
ライアンはレベッカの肩を抱いた。
ニレルは苦いため息を吐くと頷いた。
「わかった。なるべく君たちの負担が少なくなるよう、準備しよう」
「お願いします。準備が終わったら声をかけて下さい」
「わかった」
ライアンは何事もなかったかのように、熊詰めに戻った。そのことに騎士団長は驚いた。レベッカも兄について熊詰めを手伝う。そのレベッカの脚に、ぎゅっとレベッカを慕う更生妖精熊の従魔ナードがしがみついていた。
これが……あの討伐隊の中にいる、《女神の子》の標を持つエリック王子の命を守る代償だろうか……
だとすると、自分達にとってあまりにも重すぎる。
マグダリーナとヴェリタスはお互い目が合ったものの、ただ黙り込む事しか出来なかった。
――不意にマグダリーナを呼ぶ声が聞こえた。
聞き覚えのある声だが、今ここに居ない人だ。緊張での錯覚だろう。何度も繰り返し呼ばれているが。
しかし何故よりによって、彼の声なのか。
『……ナ、マグダリーナ、いい加減反応しろ』
ぐらりと足元が揺れた気がして、マグダリーナは思わず膝をつく。
固い地面に膝を打つけると思ったが痛みはなく、真っ暗になった目の前に星の海が広がっていた。
「シャロンさんを宥めるだけで手一杯なのに、お前まで手を焼かせるな」
なんて言い草だ。人の気も知らないで。
マグダリーナはささくれだった気持ちを、目の前の人物にぶつけた。ちょっとだけ。
「こんな時に一体何の用事なの? ルシン」
それなりにトゲトゲしい思いを声音に込めて見たが、ある可能性を思いついて苛立ちが別の気持ちに変換された。
「まさか、シャロン伯母様に何かあったの?!」
「ない。茶マゴーを脅すだけで飽き足らず、イラナを呼びつけて情に訴えてそっちに行こうとしたから、邸に結界を張って睡眠魔法で寝かしつけた。ついでにダーモットさんの腹とシャロンさんの腕を魔法の縄で繋いできたから当分安全だ」
「は?!」
(お父さまとシャロン伯母様を縄で繋いだ?!)
なんて容赦のない仕打ちだろう。お父さまの胃に穴があいたらどうするのだ。
一同はその様子に見惚れていたが、レベッカがいち早く異変に気づいた。
「ニィさん! リーナお姉様! あれは……」
《マンドラゴラの麻痺毒》に苦しむ討伐隊を保護する緑の結界……その上空をレベッカは指差した。
そこには無数の小精霊の輝きが高濃度で集まっている。
レベッカの目には、その小精霊の大群は、そわそわと何かを待っているように見えた。
「きっと女神様の奇跡だわ! でもなんだか様子が変……ニィさん、ヨナスどうしたらいいのかしら?!」
それは今まで見知ってきた、エステラやハイエルフを介して齎された奇跡と、何かが違うとマグダリーナも本能的に感じた。
(女神の奇跡であるはずなのに、エステラが側にいないのが、こんなにも心細いなんて)
空を見上げて、ニレルは険しい顔をした。
「創世の時代より、女神の奇跡は僕らハイエルフを介して齎されてきた。それはハイエルフという存在に女神の輝きを受け止め、奇跡に変える器が備え付けられているからだ。だがあれは違う。ハイエルフを介する輝きではない。女神はこの中から神力の受け手を求めている。なんて冒険をはじめるんだ……!!」
「……あんな量の神力、精石を持たない人が受けて無事でいられるか怪しいよ……」
ヨナスの声が震えていた。
その間にも、輝きはどんどん増えていく。
不意にヴェリタスがクスッと笑った。
「女神様もどこかの魔法使いに影響されて、冒険したくなったんじゃねーの?」
ヴェリタスに視線が集まった。
「なあ、あれ、俺が受け手になっていい?」
レベッカが慌てて止めた。
「だ……ダメですわ!! ハイエルフとショウネシーの魔法使い以外で初の女神様の神力の受け手になる栄誉は、女神様を深く敬愛する私がなります! 私は女神様を信じていますもの。全て捧げる覚悟は出来ていますわ」
「何言ってんだよ。こんな冒険、俺だってやりてーよ」
「いいえ、ヴェリタスは引っ込んでてよ! ここで女神様に応えないと、恥ずかしくて二度と女神様推しなんて言えないもの」
黙々と熊詰めをしていたライアンが、言い合う二人の間に割って入り、ヴェリタスの肩を掴んだ。
「お前はダメだ。わかるだろう?」
兄ライアンの隣でレベッカも頷く。
「何言ってんだよ、ハイエルフを除いたらこの中で俺が一番、体力と魔力を考えたら強いだろーが!」
ライアンは首を横に振った。
「違うよルタ、そういう問題じゃない。女神様が求めるのは、もっと別の強さだ。ニィさん、俺とレベッカ、二人で受け手をします」
ライアンはレベッカの肩を抱いた。
ニレルは苦いため息を吐くと頷いた。
「わかった。なるべく君たちの負担が少なくなるよう、準備しよう」
「お願いします。準備が終わったら声をかけて下さい」
「わかった」
ライアンは何事もなかったかのように、熊詰めに戻った。そのことに騎士団長は驚いた。レベッカも兄について熊詰めを手伝う。そのレベッカの脚に、ぎゅっとレベッカを慕う更生妖精熊の従魔ナードがしがみついていた。
これが……あの討伐隊の中にいる、《女神の子》の標を持つエリック王子の命を守る代償だろうか……
だとすると、自分達にとってあまりにも重すぎる。
マグダリーナとヴェリタスはお互い目が合ったものの、ただ黙り込む事しか出来なかった。
――不意にマグダリーナを呼ぶ声が聞こえた。
聞き覚えのある声だが、今ここに居ない人だ。緊張での錯覚だろう。何度も繰り返し呼ばれているが。
しかし何故よりによって、彼の声なのか。
『……ナ、マグダリーナ、いい加減反応しろ』
ぐらりと足元が揺れた気がして、マグダリーナは思わず膝をつく。
固い地面に膝を打つけると思ったが痛みはなく、真っ暗になった目の前に星の海が広がっていた。
「シャロンさんを宥めるだけで手一杯なのに、お前まで手を焼かせるな」
なんて言い草だ。人の気も知らないで。
マグダリーナはささくれだった気持ちを、目の前の人物にぶつけた。ちょっとだけ。
「こんな時に一体何の用事なの? ルシン」
それなりにトゲトゲしい思いを声音に込めて見たが、ある可能性を思いついて苛立ちが別の気持ちに変換された。
「まさか、シャロン伯母様に何かあったの?!」
「ない。茶マゴーを脅すだけで飽き足らず、イラナを呼びつけて情に訴えてそっちに行こうとしたから、邸に結界を張って睡眠魔法で寝かしつけた。ついでにダーモットさんの腹とシャロンさんの腕を魔法の縄で繋いできたから当分安全だ」
「は?!」
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