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七章 腹黒妖精熊事件

133. エデン詐欺

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「というわけで、この動画にある通り、エルフ女性の短命の原因は、エルフ族が世界の破滅の発端になったからなんだけど」

 カーテンが開かれ、室内に明るさがもどる。

 レベッカが手を挙げた。
「どうぞ、レベッカ」
「エステラお姉様、これではエデン詐欺が発生しますわ」
 レベッカはハンカチで目頭を押さえながら、発言する。

「エデン詐欺……?」

「動画上どう見ても、エデンさんは一途に恋する、永遠に素敵な男性……王国中の女性の憧れになってしまいます。それが乙女心ですもの」

「んははは! さすがレベッカ、賢い子だ。俺の魅力を、よぉくわかってる」
「実物、こうですのよ?」
「ふ……っ、く……」

 エステラがお腹を抱えて、震え出した。
 同じ症状のものが他にも数人いる。

 マグダリーナも、腹筋が苦しかったが、軌道修正に励む事にした。
「そ……それでどうして、シーラさんの寿命が延びたの……?」

 エステラはまだお腹の震えが止まらないらしく、ニレルに手を伸ばし、タッチした。

「うん、あの決闘でエルロンドはリーン王国の一部になっただろう? エルフ族の国が他種族の国の傘下に入るのは、歴史上初なんだ。リーン王国民になったエルフは、もう他種族から搾取することはできない。否応にも他種族と交流し、助けあって生きていかなければいけない。それで女神は、リーン王国民のエルフ限定でお赦しになったんだよ」

 それを聞いたドロシー王女は、きゅっと表情を引き締めた。
「逆に我が国が、今度はエルロンドのエルフだからと差別や搾取をするようになると、女神様は祈りを聞き届けて下さらなくなる可能性もあるという事ですわよね……」
「……そうかもね。僕はそうならない事を願っているよ」

 エステラは腹筋の震えから回復したらしく、シーラを見た。
「ねえ、シーラさん。リーン王国民のエルフ女性は通常のエルフの寿命になったこと、今の動画に付け足したいんだけど、出演してくれないかな? もちろん出演料はお支払いします。」

 シーラはドロシーの顔を見て、エステラに交渉した。
「リーン王国民になったからは、エルロンドのエルフも等しく民で、他の国民と同様の権利が認められるのでしたら」
「……なるほど。それはセドさんに確認しなきゃね。エデン、お願い」

 エステラは上目遣いにエデンを見て、可愛くお願いした。

「ンッフ、くふふふ。カワイイ娘のお願いは、俺の健康にいいなぁ! さっそく行ってこよう」

 エデンが姿を消した後、ルシンがボソッと言った。
「あれが、エデン詐欺」


 そして動画の内容を思い出して、ドロシー王女はエステラに聞いた。
「エステラさんがエデンさんの娘と言うことは、エデンさんはディオンヌさんと無事結ばれましたのね!」

 そこに居た全員が、一斉に首を横に振った。

「ち……違いましたの?」
「エデンと私、血は一滴も繋がってないわ。一滴も。ディオンヌお師匠は、私が母さんのお腹の中にいる頃から弟子として、家族として面倒みてくれたわ。だから今、エデンは私とルシンお兄ちゃんの父親をしてくれてるの。私達がディオンヌと縁が深かったから。変わった人だけど、頼りにしてるわ」

 エステラは少し照れたように笑った。

「そういえばルシンお兄様、エルフ女性のの寿命が戻ったのは、リーナお姉様の選択がどうとか言っていませんでした?」
 レベッカが新しい飲み物とお菓子を用意しながら、聞く。

 マグダリーナも自分の名前が出たので、ルシンとレベッカを見た。

「ああ、あの決闘、俺が出てたらどうなってたと思う?」
「カエルにしてました?」

 レベッカの答えに、ルシンは首を振った。
「相手はエルロンド最強の戦士だ。秒で骨も残さず燃やし尽くすつもりだった」
「え、ケンちゃんさん、そんなに凄い方でしたの?」

「「「ケンちゃんさん????」」」

 マグダリーナとライアン、ヴェリタスの声が重なる。

「ジョゼフさんが、ケンちゃんって呼んでますのよ」

 ケントが公爵だとルシンが言っていた気がするが……

「ジョゼフさんて、意外と度胸あるのね……」
 マグダリーナは感心して呟いた。

 そういえば、奥さんの実家を立て直し、エステラが関心を持つような偽書の魔法も使えたのだ。とんでもない人材かも知れない。

「つまりルシン兄さんが出てたら、ケンちゃんさんは王族を襲う隙もなく負けて、フランク子爵家はだだ慰謝料払うだけで済んだってことか……」
 ライアンも妹に釣られて、ケンちゃんさんになっていた。

「けど実際はエステラが決闘に出て、最終的にエルロンド王国はうちに占領される事になったってわけか……」

「まあそう云う可能性もあったかも知れないけど、ルシンお兄ちゃんが必ず瞬殺に成功してた保証もないんだし、成功したらしたで、後々自国の公爵を殺害されたとか云いががり付けて、全面戦争仕掛けて来る可能性もあったんじゃない? とりあえず、現状大惨事が起きてないことを喜びましょう」

 エステラはそう言うと、うーんと身体を延ばした。

「ところでドリーさんは、ショウネシーにいる間どんな事をしたい? とりあえず明日は役所に行ってから領内の見学からかしら」
「ええ、まずはこの素晴らしいショウネシー領を見て周りたいですわ」

「じゃあ私とニレルは、ルタの魔獣討伐準備の手伝いするから、お兄ちゃんはリーナ達と一緒にドリーさんの案内について行ってあげて」

 ルシンは無言で頷いた。

「そうだ、シーラさんとキースさんは魔法は使える?」

 二人は首を横に振った。

「わかった。キースさんはとりあえず明日から朝練参加ね。詳しくはライアンに聞いて」
「朝……練……?」
「ここにいる間に、徹底的に鍛えて貰うわ」

「「「え?」」」

 ドロシーとシーラとキースは目を丸くした。

「いい? シーラさんは貴重なエルフ女性よ。今後エルロンド領に行ったり、もしエルロンド領のエルフが普通に王都に来る未来が来たら、エルフの求婚者が殺到するわ。現状のエルフは品の良い脳筋だから、男同士だと挨拶代わりに軽~く攻撃仕掛けて来たりするし、鍛えておいた方が、絶対いい!」

 そう、ジョゼフの涙ぐましい啓蒙活動と、更に宰相にかけあって、作法の教師の派遣を頼んだりしたおかげで、彼らはかなり紳士的な態度が身について来た。

 だが陰で椎茸の原木担いで筋トレする、ケンちゃんとかいう元公爵エルフとかいるので油断は禁物だ。
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