ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

文字の大きさ
上 下
131 / 241
七章 腹黒妖精熊事件

131. 塩釜焼き

しおりを挟む
 ドリーことドロシー王女は、ハイエルフ達が気になるようなので、マグダリーナもそっと水を向けてみた。

「そういえばエステラ達はさっき、シーラさんを見て何か言ってたけど、何かあったの?」

 エステラが答えた。
「今までなら、エルフの女性として寿命が来てそうなご年齢なのに、とても健康で長生きの相が見えたので、おめでたいなと」

「ほ……本当ですの?!」
 ドロシー王女は驚いてエステラを見た。
 エステラはにこやかに頷く。
 シーラとキースも信じられないと顔を見合わせた。

「実はシーラは昨年末から体調を崩して、ずっと寝たきりだったんですの……ところが、あの決闘後から体調が回復してきて、嬉しいけど不思議で少し不安でしたの」

「大丈夫よ。理由はこれから説明するけど、シーラさんの身体は健康を取り戻して、長命と云われるエルフの寿命の長さを得ているわ。ドリーさんもキースさんも、これからもシーラさんと一緒にいられるわ」
「よかっ……良かった……」

 手を合わせて喜ぶドロシーの頬を、涙が伝った。

 マグダリーナがそっとハンカチを渡すと、ドロシー王女はありがとうと受け取って、そっと涙を拭う。その姿さえ、彼女は優雅で美しかった。

(王妃様は色々とおっしゃってたけど、きっとドロシー王女の一番の心配事が、シーラさんのことだったんだわ)

 何が起こって寿命まで延びたか知らないが、とにかくドロシー王女の心労が軽くなるならそれでいい。マグダリーナはレベッカに視線で合図を送った。
 既にケーレブやフェリックス、アンソニーと、準備万端のレベッカが、お茶とお菓子を用意していた。

 レベッカは頷くと、すっとドロシー王女の前にお茶とお菓子を置いた。
「どうぞドリー様、今年ショウネシーで育てた果物と蜂蜜を使った、冷たい紅茶ですわ。それと果物とクリームのお菓子です。紅茶は私が、お菓子はアンソニーが作りましたの」

 その言葉で、完全に涙が止まったようで、ドロシーはレベッカとアンソニーを見て、目を瞬かせた。

「まあ、二人はお料理が出来ますの?」
「はい、まだまだ勉強中ですが、お茶や簡単なお菓子でしたら作れますわ。魔法の練習も兼ねてエステラお姉様に教わってますの」

 アンソニーも笑顔で頷いた。
「今はメイドの皆さんが赤ちゃんのお世話をしているので、お茶の時間限定でケーレブから給仕の仕方も習っています!」

 ドロシーは再度目を瞬かせた。

「まあ……伯爵家の跡取りでいらっしゃるのに、何故給仕まで……?」

 アンソニーは頬と耳を朱に染める。
「実は以前、ニレルが食事を作ってエステラに給仕してる所を見て、なんかかっこいいなと思って……」

 あの顔と姿だと何をやってもかっこよく見えるだろう……

 ニレルなら許すが、エデンとルシンの真似はしないよう気を引き締めないと! とマグダリーナは強く思った。

 そしてそっとドロシー王女に補足……というか、言い訳をする。
「弟はまだこのショウネシー領に居ることが多いので、身近な大人の中でも、師であるニレルをとても慕って憧れているのです」
「ええ、そのようですわね。それに憧れの人と同じ事をしてみたい気持ちは、わかりますわ。アンソニー、素敵な給仕姿でしたわ」

 ドロシー王女に褒められて、アンソニーはとても可愛くにこっと笑った。嬉しさが溢れていた。

「それで、シャロン。夜会での他国の要人達はどんな様子だった?」
 エデンが聞く。
 ダーモットでなくシャロンに聞くあたり、ちゃんとした情報が欲しいという事だ。

「予想通りエルロンドのことを聞きたそうでしたわ。それから塩の流通についても。塩の方は直接商団と取引したそうでしたけど、リオローラ商団は知る人ぞ知る、でしょう? きっと殆どの方が手ぶらで帰ることになりましてよ。ああ、塩釜焼きもとても好評で王様も満足していましたわ」

 エステラとニレルが頷いた。
「肉質によっては、塩を練り込んだパン生地で包んで焼いた方がいい場合もあるんだ。あの調理法に合う肉を厳選した甲斐があったよ」

 その肉のために、ニレルはアーベルとヨナス、そしてチャドを連れて、「辺境伯領」にわざわざ狩りに行っていた。
 ヨナスの訓練も兼ねてとのことだったが、ハイエルフブートキャンプを見て、チャドと相棒の更生妖精熊は、世界の果てでも見たような、形容し難い顔をしていたらしい。

「昨日はこっちでも、急遽公園で塩釜焼き肉の大量安売り販売をしたのよ。今年の夏は暑いから、体力つけないとね」
「あ、もしかして王都の館にも送ってくれた?」
 マグダリーナは昨晩出された、美味しい肉料理を思い出した。マグダリーナとアンソニー、レベッカとライアンの四人は、まだ成人前なので王宮の夜会には参加してない。王都のアスティン邸で過ごしていた。

 エステラはニヤリと笑う。

「ふふふ、フェリックスが作った分をね」
「え?! フェリックスも料理始めたの? すごく美味しかったわ」

「ありがとうございます。皆さんがいらっしゃらない時は、うっかりハンフリー様がお食事を忘れてこちらのお邸にいないこともありますので、料理を覚えておけば便利な時もあるかと思いまして」

 マグダリーナは真顔になった。

「すごい助かるわ」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

スライムばかり食べてた俺は、今日から少し優雅な冒険者生活を始めます。

いけお
ファンタジー
人違いで異世界に飛ばされてしまった佐藤 始(さとう はじめ)は、女神システィナからとりあえず悪い物を食べて死ななければ大丈夫だろうと【丈夫な胃袋】と【共通言語】を与えられ放り出されてしまう。 出身地不明で一銭も持たずに現れた彼を怪しんだ村の住人達は簡単な仕事の紹介すら断る有様で餓死が目の前に迫った時、始は空腹のあまり右手で掴んだ物を思わず口に入れてしまった。 「何だこれ?結構美味いぞ」 知らずに食べていた物は何とスライム、弱って死ぬ寸前だった始を捕食しようと集まっていたのだった。食べられると分かった瞬間スライム達がごちそうに早代わり、始のスライムを食べる生活が始まった。 それから数年後、農作物を荒らすスライムを食べて退治してくれる始をいつの間にか村人達は受け入れていた。しかし、この頃になると始は普通のスライムだけの食生活に飽きてしまい誰も口にしない様な物まで陰でこっそり食べていた・・・。数え切れない程のスライムを胃袋に収めてきたそんなある日の事、彼は食べたスライム達からとんでもない能力を幾つも手に入れていた事に気が付いた。 始はこの力を活かす為に町に移住すると、悪徳領主や商人達が不当に得た金品を奪う冒険者生活を始めるのだった・・・。 仕事中の空いている時間に物語を考えているので、更新は不定期です。また、感想や質問にも出来る限り答えるつもりでいますが回答出来ない場合も有ります。多少の強引な設定や進行も有るかもしれませんが、そこは笑って許してください。 この作品は 小説家になろう ツギクル でも投稿しております。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

処理中です...