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七章 腹黒妖精熊事件

127. ハズレ個体

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 中等部に上がったマグダリーナ達には、初等部の時のように午後から帰るなんて事は、全く出来なかった。

 しかもそれぞれの学科で課題があって、それをクリアしないと修了証が貰えない。

 既にエステラから下級回復薬作りを習っていたレベッカは、余裕で薬草学の修了証を獲得し、一足先に中級薬草学へと進んだ。学園で習うのは中級までで、それ以上は専門機関や大学で習う内容だ。

 家政科に進んだレベッカは、ナードがヴァイオレット服飾店のガラスにぺたっと貼付いて、ヴァイオレット氏の刺繍魔法や裁縫魔法を覚えてしまったので、一緒に刺繍をするという新しい趣味が増え、刺繍の課題はクリアした。
 次の中級刺繍学では、壁に飾る大物刺繍に挑戦しないといけない。逆に言うと、それが出来ないと卒業できない。

「ところがですわね……限られた授業時間を使ってコツコツと縫う、この数年がかりの大作を、完成目前にして破いてしまう嫌がらせが毎年あるらしくて、先生も悩んでいらっしゃるそうなの」

 進む学科が別々なので、学園内でマグダリーナ、ヴェリタス、ライアン、レベッカの四人が集まるのは、今では昼休みの食堂のみになる。

「ひでぇな。でも毎年ってことは犯人は複数なのか」

 ヴェリタスにレベッカは頷いた。

「ええ、大抵は個人的な事情……婚約者を奪われた腹いせとか、逆に卒業を遅らせてその間に相手の恋人を奪ってしまうとか、そういうあれらしいんですけど、そもそも制作中の作品が置いてある教室の警備を王宮並みにしろっていうのも酷ですもの……面倒でも毎回持ち帰って自衛しかないですわよね……ナード、収納頑張ってくれます?」

 レベッカがちゅっとナードの頭にキスすると、ナードは小さな手を握りしめて、くまくまぁー! と愛らしく意気込みを示した。

 マグダリーナはナードの頬をつつきながら、ちょっと心配した。

「なんだかこの子、他の更生妖精熊達よりおっとりしてるっていうか、……歩き方がちょっと違うっていうか……」


 正直どんくさい。

 新年でも、女神の奇跡の花を取れずに、レベッカに取ってもらっていたのだ。

 因みにリオやローラ、他の更生妖精熊達は、元「かっぱらい熊」の名に恥じぬ動きをみせていた。

 それに他の熊に比べて、ナードだけ完全に内股でちょこちょこ歩いている。
 逃げ足自慢の妖精熊だけあって、速いことは速いが、領内の更生妖精熊内では、一番走りが遅そうだった。

「リーナお姉様も気付きました? 一応エステラお姉様に診てもらいましたら、産まれた時から足の骨格に小難がある個体みたいでしたの。それでちょっと他の子より不器用みたいで……でも障害という程でもなく、健康上の問題はないそうですわ」
「そうなの? それならよかったわ」

 完全にハズレ個体を引き当ててるようだが、レベッカにとってはそんなことは関係ないと理解しているので、健康に問題ないなら、良しとする事にする。

 ライアンもナードを撫でる。

「お前たちが素材にならなくて済んだのは、レベッカのおかげなんだから、しっかりレベッカを護ってくれよ」

くっまー!!

 ナードは元気に手を挙げて答えた。

「魔法科はどう?」
 マグダリーナが聞くと、ヴェリタスは肩を竦めた。

「騎士科並に血の気の多い奴ばっかだよ。何かあったらすぐ、決闘紛いの試合に持ち込もうとするし。レベッカは魔法科に来なくて正解」
「あら、でも騎士科より女生徒も多いんですわよね?」

「一応ね。母上並に気の強い令嬢ばかりだよ。隙あらば俺にライアンを紹介しろって皆んな目を血走らせてさぁ」

 マグダリーナとレベッカは揃ってヴェリタスを見た。

「え?! ライアン兄さんモテモテ?」
「どう言うことですの? そのご令嬢達、人柄は確かですの?!」

 当のライアンは、苦笑いしながら妹達を宥めた。

「あの決闘騒ぎでショウネシーの名も知られてきたし、一応俺は分家してショウネシーの領貴族になるって決まってるから、条件的に悪くはないって認識じゃないかな?」
「そうそう、それな! うちももうショウネシーの領貴族になっても良いとは思うんだけどさー、一応拝名貴族とはいえ、母上の方が位が高いから、せめてショウネシーが侯爵家にならないと無理じゃん? やっぱり将来安定してる方がモテるんだなー」

(いや、多分ルタの場合は、そこらの令嬢顔負けの、シャロン叔母様似の美少女顔のせいだと思う)

 そう思っているのが、マグダリーナだけでないのか、皆んな微妙な顔をしていた。
 外見と話し易さで、女生徒間でのヴェリタスの立ち位置は、有望な男子生徒を紹介してくれそうな「女友達」である。

「ま、後は夏の魔獣討伐と秋の領地戦に向けて浮き足立ってるくらいかな」
 少し冷めた食堂のお茶を飲みながら、ヴェリタスが言う。

「領地戦ってなに?」

 聞き逃せない物騒なワードが出てきた。
 マグダリーナは聞き返さずにはいられなかった。
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