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六章 金の神殿

119. サトウマンドラゴラダンシング

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 フランク子爵家が、決闘の場所を自分の村にしてくることは予想済みだったので、マグダリーナは王宮のマゴーを通じて宰相に連絡をとり、今回の決闘は王都の決闘場を使用することと王命を取り付けた。

 持つべきものは、縁故とマゴーである。
最大限に利用させてもらう。

 これに慌てたのはフランク子爵家側で、抗議文を送ってきたのだが、マグダリーナやダーモットにとっては知ったこっちゃないことだった。

 決闘自体が大事なのに、今更である。

 王都の決闘場で行うのは名誉なことなのに、そこから上司にあたるカーティス侯爵家に、領地で色々やらかしてるのを気取られるのが困るのだろう。

 そんなことより今マグダリーナとダーモット、ハンフリーの頭を悩ませているのは、ショウネシーの紹介動画だ。
 長閑で風光明媚、交通の便がよく、主な収入元が農作物(ただし魔獣)で医療機関が発達している……悪くは無い悪くは無いが。

「なんだかご高齢の方向けって、感じなのよね……」
「まあ、うちは酒場みたいな娯楽施設もないしね」
 ダーモットも頷く。

 これに関しては、ラム酒が出来た時にエステラが「どんないい人でも酒で性格変わる事なんてザラにあるわ。飲んで倒れてマゴーに介抱されるまでがセットなんて人が多発すると面倒だから」と、すぱんと言い切ったので、ディオンヌ商会では酒場は運営しない方針だ。

 マグダリーナも前世で、社長のお気に入りの礼儀正しく仕事の出来るイケメン社員が、お酒が入った途端に喚き出したり、そこらじゅうにワインを撒き散らしたり、トイレで一晩明かしたりしてたのを知っているので反対はしないが、酒を飲んだら人が変わるというのを見抜く為にも、何処かで飲酒の場を設ける必要もあると思った。今後の課題である。

「ナレーションを若い人にして貰えば、まだ良くなるんじゃないか?」

 ハンフリーのその意見に、マグダリーナはポンと手を打った。

「そうね、カレンさんに協力してもらいましょう」



◇◇◇



 決闘当日、かなりの見物人が集まった。

 それもそうだ。この国に娯楽はさほど多くは無い。
 しかも今時決闘など、そうそうお目にかかれるものではないのだ。

 チケット制の座席はほぼ満席完売で、もちろんその殆どが貴族だった。これだけで、王宮には良い収入になったんじゃないかなーとか、ついマグダリーナは思ってしまう。

 マグダリーナが目配すると、ルシンは頷いて、会場中に見えるように大型表示画面を魔法で五つ展開させる。

 衆目の視線がそこに集まった途端。


とーう とーう さっとーう

 マグダリーナには見慣れた、サトウマンドラゴラが映し出された。
 収穫直後と思われる、五株のサトウマンドラゴラは、音楽に合わせて巧みなステップで踊り、歌い始めた。


マンドラゴラが苦いと誰が決めた (とーう)
それは君がまだ知らないだけ (さっとーう)
君のために生まれたサトウマンドラゴラ
今、甘く常識を覆す
春夏秋とーう 君に会いに
春夏秋とーう 繁殖する
農夫よ
採りどき逃すな 魔法の腕上げろ
旬を逃すな 我らを見事に出荷せいYO!
さっとーう!!!!


「な……に……?」

 無駄に良い歌唱力と、キレッキレの揃ったダンスが妙に悔しい……

「今領内一番人気の動画だ」
 ルシンは感情のない顔で答えた。

「見たことないし」
「今朝撮れたてらしいからな」

 今朝撮れたてなのに一番人気はないんじゃないかな……

 マグダリーナは、正気を取り戻した。

 まあ確かにいきなりショウネシー領の紹介動画を流すより相手の度肝を抜くにはよかったかも知れない。
 自分の度肝も抜かれたが。


『春のこの時期、ショウネシー領ではお馴染みのサトウマンドラゴラの収穫が始まります』

 カレンに頼んだナレーションが始まり、ショウネシー領の紹介動画が始まった。
 唯の紹介動画だと何の為に? と、訳がわからなくて観衆に拒絶される場合もあるだろうと思い、一見長閑なショウネシーの畑の収穫から、門番と争う男が現れ……と、領内の紹介をしつつ、今回の決闘の経緯を説明する流れになっている。
 某子爵令息が門番に掴み掛かろうとして弾かれた時には『我が領の門番達は全員、冒険者ギルドのギルドマスターに防御魔法を訓練されています』と解説を入れたりした。

 これは全て実際の映像を、時短且つ理解しやすく編集したものなので、疑書の結婚のくだりでは、どの貴族も真剣に動画を見ていた。


 動画が一旦終了した後、マグダリーナは拡声魔導具を使って、衆目にも聞こえるようフランク子爵令息に語りかけた。

「ことの顛末は、ここに示した通り、私は貴方の主張は不当なものだと思っています。勝手に喧嘩を売ってきて、武が悪くなったからって被害面して決闘など申し込んで来ないで下さい迷惑です」

 令息は冷たくマグダリーナを一瞥すると、吐き捨てるように言った。

「そう言うことは勝ってから言うんだな。もっとも誰も決闘代理人を雇えなかったから、こんな小細工やってるんだろう、クソガキ」

 令息はさっと手を上げて、「代理人を出せ」と言う。

 決闘場に、銀の鎧の剣士がやって来た。

 いかにも場慣れした風体の剣士は、悔しいが顔が非常に良く、会場を沸かせた。
 そしてその耳は、長く尖っている。

 ルシンの顔色が明らかに変わる。
「フェリックス! 見慣れたやつが居ないか、警戒してくれ」

「エルフ族……?!」
 マグダリーナも予想外の相手に面食らった。

「ふん、だからどうだと言うんだ。そっちにも居るんだろうエルフが」

 ルシンは冷たくフランク子爵令息を見た。
「愚か者め! マグダリーナ、決闘には俺が出る。いいな」

 マグダリーナは首を振った。
「ダメよ。相手を見てからの変更は許可されないわ。ルシンはいざという時、相手を逃がさないようにして!」

 マグダリーナがさっと手を挙げると、ショウネシー家の決闘代理人が決闘場に、ゆっくり入場してきた。


 漆黒の戦闘服にフード付きマントを羽織ったエステラが。

 そして、決闘の合図が鳴らされた。
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