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六章 金の神殿
107. マハラの孫娘
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「旦那様、少しよろしいでしょうか?」
「ん? どうしたんだいケーレブ」
それはちらほらと雪が舞い始めた年末近くの事だった。
深刻な顔のケーレブに、サロンにいる全員の視線が集まる。
「王都のカルバンさんから、連絡がありまして……マハラさんには、とある館でメイドとして働く孫娘が居ります。彼女が用事で買い物に出た際、馬車に轢かれそうな子供を庇って、大怪我をしたそうです」
「ああ、うちに連れてくるといい。もちろんマハラも一緒に」
「ありがとうございます」
エステラが手を挙げた。
「一緒に行った方がいい?」
「いえ、治療はここに来てからの方がいいので……直接治療院に向かいます」
「じゃあ怪我の状態が気になるところだけど、とりあえずこれ」
エステラは小さな薄い封筒を幾つか出すと、ケーレブに渡す。
「封筒を破くと魔法が発動する、使い切りの魔導具よ。軽い作用のものだから、状況を見て重ねて使って」
最近魔導具屋で売り出し始めた、お手軽魔法だった。
「浄化、浄水、ととのえる、熱冷まし、痛み止め、睡眠……助かります!」
ケーレブはエステラに礼を述べて、魔導具を大事に懐に仕舞う。
ケーレブはグレイと一緒に、マグダリーナ達を学園へ送って、一旦領へ戻る際にマハラとその孫娘を迎える手筈とのことだ。
「子供を庇うなんて勇気のある方だわ。酷い怪我じゃないといいのに……どうしてエステラが治しに行くのより、ここで治療する方が良いのかしら」
ケーレブが退出したあと、マグダリーナは気になって、ダーモットに聞いた。
ダーモットはやや逡巡したが、娘の疑問に答える事にした。
「リーナ、いや、皆んなも知っておくといい。貴族の使用人が『馬車に轢かれて怪我をした』というのを、言葉通りに受け取ってはいけないよ。ごく稀に言葉通りの場合もあるが、大抵は職務中の怪我を隠す為の言葉だ。危ない仕事をさせている……主人が暴力を振るう……など、どれも他所に知れれば外聞が悪く、使用人の成り手も居なくなる……そういう都合の悪い事を隠す為に使う言葉だ」
それを聞いて、シャロン以外の全員が、本当に驚いていた。
「もしかして王都で完治したら、またそのお邸で働かされるかもしれないから、うちに来てからなの?」
「多分カルバンがマハラの様子を見て、元の館に戻すのは良くない、そう判断したんだろうね」
「旦那様そのお孫様は、おいくつの方ですの?」
同僚になる予感がして、マーシャが尋ねた。
「んー、確か二十歳前後だったと思うよ」
「お元気になられたら、色々教えていただきたいわ」
「私達メイド初心者ですものね」
無邪気な双子の様子にほっこりしながら、マグダリーナ達は学園へ出かけた。
ケーレブが連れて来たマハラと、その孫娘のカレンの容態は、思った以上に悪かった。
「ああ……ダーモット様、カレンが……私のカレンが……」
ずっとカレンの看病をしていたのか、血の臭いのするマハラの老いた身体を、ダーモットは支えて、ソファに座らせた。
「大丈夫だよ。うちの治療師は優秀だ
からね」
ケーレブとグレイは、カレンをそっと治療院のベッドに乗せると、治療室から出ていく。
「これは……鞭の跡?! こんな肉が抉れる程……?!」
イラナが傷痕を見て、眉を顰める。
「イラナ、手はいる?」
治療室にエステラが入って来た。
「エステラ様、助かります」
エステラは傷口を見て、すぐヒラとハラにスライムコラーゲンシートを作らせる。
「魔法で一気に治しちゃいたいけど、それに耐えられる体力はなさそうね……」
カレンは全身の傷もさることながら、痛みで食事も出来なかったのかかなり衰弱していた。
「ええ、何度か回復薬を飲ませた形跡がありますが、あまり質の良い物ではないですね……飲み合わせもありますし、回復薬での治療もやめておいた方がいいでしょう。地道な応急処置を行なって、少し回復してからですね、魔法は」
エステラは思いっきり顰めっ面をして、患者の身体を魔法で浮かせると、そのまま深く眠らせる魔法をかける。
生きてるのが不思議な程酷い怪我だが、回復薬のお陰で一命をとりとめていたのだろう。その回復薬が「何のために」使われたのか分かるから、素直によかったとは思えない。
ヒラとハラとモモで血の滲んだ服や包帯を丁寧に剥ぎ取っていった。
「内臓は……胃腸は弱ってますが無事ですね。ただ左手足に骨折もあります」
イラナのコッコ(メス)型魔導人形、「コマコ」達が、イラナの見立てを治療メモに書き込んでいく。
「こっちは頭部に打撲の後、顔面に打撲と火傷、幸い脳に損傷はないわ。えい」
エステラは洗浄と浄化の魔法で、患者の全身を消毒し、傷口に入り込んでいる細かな塵も排除する。
「モモちゃん、浮遊魔法変わって来くれる? ダーモットさん達に話ししてくるから。ヒラとハラはそのままイラナの手伝いしてて。スライムコラーゲンシートが治療のキモだからね」
「「はーい」」
「ん? どうしたんだいケーレブ」
それはちらほらと雪が舞い始めた年末近くの事だった。
深刻な顔のケーレブに、サロンにいる全員の視線が集まる。
「王都のカルバンさんから、連絡がありまして……マハラさんには、とある館でメイドとして働く孫娘が居ります。彼女が用事で買い物に出た際、馬車に轢かれそうな子供を庇って、大怪我をしたそうです」
「ああ、うちに連れてくるといい。もちろんマハラも一緒に」
「ありがとうございます」
エステラが手を挙げた。
「一緒に行った方がいい?」
「いえ、治療はここに来てからの方がいいので……直接治療院に向かいます」
「じゃあ怪我の状態が気になるところだけど、とりあえずこれ」
エステラは小さな薄い封筒を幾つか出すと、ケーレブに渡す。
「封筒を破くと魔法が発動する、使い切りの魔導具よ。軽い作用のものだから、状況を見て重ねて使って」
最近魔導具屋で売り出し始めた、お手軽魔法だった。
「浄化、浄水、ととのえる、熱冷まし、痛み止め、睡眠……助かります!」
ケーレブはエステラに礼を述べて、魔導具を大事に懐に仕舞う。
ケーレブはグレイと一緒に、マグダリーナ達を学園へ送って、一旦領へ戻る際にマハラとその孫娘を迎える手筈とのことだ。
「子供を庇うなんて勇気のある方だわ。酷い怪我じゃないといいのに……どうしてエステラが治しに行くのより、ここで治療する方が良いのかしら」
ケーレブが退出したあと、マグダリーナは気になって、ダーモットに聞いた。
ダーモットはやや逡巡したが、娘の疑問に答える事にした。
「リーナ、いや、皆んなも知っておくといい。貴族の使用人が『馬車に轢かれて怪我をした』というのを、言葉通りに受け取ってはいけないよ。ごく稀に言葉通りの場合もあるが、大抵は職務中の怪我を隠す為の言葉だ。危ない仕事をさせている……主人が暴力を振るう……など、どれも他所に知れれば外聞が悪く、使用人の成り手も居なくなる……そういう都合の悪い事を隠す為に使う言葉だ」
それを聞いて、シャロン以外の全員が、本当に驚いていた。
「もしかして王都で完治したら、またそのお邸で働かされるかもしれないから、うちに来てからなの?」
「多分カルバンがマハラの様子を見て、元の館に戻すのは良くない、そう判断したんだろうね」
「旦那様そのお孫様は、おいくつの方ですの?」
同僚になる予感がして、マーシャが尋ねた。
「んー、確か二十歳前後だったと思うよ」
「お元気になられたら、色々教えていただきたいわ」
「私達メイド初心者ですものね」
無邪気な双子の様子にほっこりしながら、マグダリーナ達は学園へ出かけた。
ケーレブが連れて来たマハラと、その孫娘のカレンの容態は、思った以上に悪かった。
「ああ……ダーモット様、カレンが……私のカレンが……」
ずっとカレンの看病をしていたのか、血の臭いのするマハラの老いた身体を、ダーモットは支えて、ソファに座らせた。
「大丈夫だよ。うちの治療師は優秀だ
からね」
ケーレブとグレイは、カレンをそっと治療院のベッドに乗せると、治療室から出ていく。
「これは……鞭の跡?! こんな肉が抉れる程……?!」
イラナが傷痕を見て、眉を顰める。
「イラナ、手はいる?」
治療室にエステラが入って来た。
「エステラ様、助かります」
エステラは傷口を見て、すぐヒラとハラにスライムコラーゲンシートを作らせる。
「魔法で一気に治しちゃいたいけど、それに耐えられる体力はなさそうね……」
カレンは全身の傷もさることながら、痛みで食事も出来なかったのかかなり衰弱していた。
「ええ、何度か回復薬を飲ませた形跡がありますが、あまり質の良い物ではないですね……飲み合わせもありますし、回復薬での治療もやめておいた方がいいでしょう。地道な応急処置を行なって、少し回復してからですね、魔法は」
エステラは思いっきり顰めっ面をして、患者の身体を魔法で浮かせると、そのまま深く眠らせる魔法をかける。
生きてるのが不思議な程酷い怪我だが、回復薬のお陰で一命をとりとめていたのだろう。その回復薬が「何のために」使われたのか分かるから、素直によかったとは思えない。
ヒラとハラとモモで血の滲んだ服や包帯を丁寧に剥ぎ取っていった。
「内臓は……胃腸は弱ってますが無事ですね。ただ左手足に骨折もあります」
イラナのコッコ(メス)型魔導人形、「コマコ」達が、イラナの見立てを治療メモに書き込んでいく。
「こっちは頭部に打撲の後、顔面に打撲と火傷、幸い脳に損傷はないわ。えい」
エステラは洗浄と浄化の魔法で、患者の全身を消毒し、傷口に入り込んでいる細かな塵も排除する。
「モモちゃん、浮遊魔法変わって来くれる? ダーモットさん達に話ししてくるから。ヒラとハラはそのままイラナの手伝いしてて。スライムコラーゲンシートが治療のキモだからね」
「「はーい」」
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