ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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六章 金の神殿

106. 進路

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 エステラの家から帰った後、入れ違いでシャロンとヴェリタスがやってきた。

 マグダリーナは、お茶会の土産に貰ったハーブティーをマーシャとメルシャに入れてもらう。

「あら、懐かしい味と香りね」
「本当だ。小さい時に冬が近づくと、よく母上が入れてくれたハーブの香りがする」

 シャロンとヴェリタスはハーブティーの甘い香りを楽しんだ。

「美味しいこと……優しい味がするわ」

 シャロンの言葉に、マグダリーナは頷いた。ハーブティーをくれたミネットのふんわりした人柄が、ブレンドしたお茶にも出ていると思ったから。


 そしてエステラの家であったことを、皆んなに共有すると進路の話題になった。

「来年、領地経営科に進むと、ますます女の子の友達を作る機会が減っちゃうわ……レベッカは家政科に行くの?」

 ため息をついて、マグダリーナはレベッカに尋ねた。ライアンはマグダリーナと同じ領地経営科志望だった。

「私、魔法科に進もうかと考えていますの。薬草学に興味がありますし」

 ヴェリタスが大慌てで止めた。

「魔法科と騎士科は夏と冬に強制魔物討伐があるからやめとけよ。エステラ達とのキャンプほど快適じゃないからな」
「そうですの? でしたら家政科にして、薬草学は別に選択しようかしら……」

 中等部からは、各科の必須科目以外は、好きな授業を選べる選択制になる。

「ルタは騎士科?」
 マグダリーナが尋ねると、ヴェリタスは首を横に振った。

「魔法科にする。騎士科ほど時間の拘束強くねぇし、さっさと修了証取れるだけとって、エステラ師匠やアーベル師匠に習った方がいい」

 なるほど。それは確かに効率的だった。




◇◇◇




「おかしいと思わない?」

 エステラは《種族:ハイエルフ》になってしまって、すっかり体調も良くなったとき、いつものショウネシー邸サロンでそう言った。

「誰も私がハイエルフになったことについて、驚かないのよ、ここの領民達!!」

 長い耳をぴこぴこ上下に動かして、エステラは納得いかない顔をしている。

 元々綺麗な顔をしていたエステラだったが、ハイエルフになってからは光輝くようなという枕言葉が付く幻想的な美しさになった。
 極淡い金色の半透明な白金髪は、光を透かし真珠のような不思議な光沢を纏い、金以外の色も反射している。

 どの角度から見ても麗しい神秘の美少女だったが、ハイエルフ全員がそんな感じなので、ショウネシーの領民はもう慣れていた。
 エステラが美少女なのは前からだし、エステラの耳が伸びたのも、(父エデン、兄ルシンだから)そんなもんかくらいの反応だった。

 そしてエステラがハイエルフにグレードアップした影響だろうか、ヒラ、ハラ、モモ、ササミ(メス)達の色艶も増していた。

「エステラお姉様、不思議で綺麗な髪ですわ……」

 レベッカがうっとりと言った。

「ありがとう。でもねー今までのハイエルフの中でも、こんな髪の人は居なかったみたいなのよね……お師匠の記憶の情報にも該当するような事例はないし、本当に自分がちゃんとしたハイエルフなのか今ひとつ自信ないのよ……まあ、元々は人だったんだから、ラッキーくらいに思っておけばいいんだろうけど。ただ精石の色がちょっと変わっちゃったのが……お師匠の形見だったのに……」
 ディオンヌの精石じゃなくて、本当のエステラの精石になったんだ。きっとディオンヌも喜んでいるさとエデンは笑っていたが、それならにょきにょき本物が生えてきて、お師匠の精石は宝物として取っておきたかったのがエステラ本音だ。

「体調は? 具合が悪いとことか出てない?」
 マグダリーナは心配になって聞いた。

「ううん、大丈夫。むしろ前より元気かな。耳の長さにはまだ慣れないけど。動くのよこれ」

 エステラは長く尖った耳を、ぴこぴこ動かした。

「かわいいわ!」
 マグダリーナは微笑んだ。
 それからエステラは、真顔になってマグダリーナに礼を言った。

「ありがとう。あの時助けてくれて」
「役に立てれて良かったわ。いつも助けて貰ってるもの」

 マグダリーナには言わないが、エステラはあの時、女神の庭の入り口を覗いていた。嵐のような、逆らえない大きな力に流されて。あの荒波をマグダリーナが鎮めなかったら、おそらく今ここに居なかっただろう。

 エステラは、にこっと笑った。

「そんなの、私が楽しいからと、皆んなが大好きだからよ」
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