ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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五章 白の神官の輪廻

86.襲撃者

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「おお! 随分と便利な魔法だな」

 チャーとヴェリタスの収納魔法を見て、ブレア老は興奮した。

「鑑定と収納、どれも商人なら皆欲しがる魔法だ。素晴らしい!」

「でもじいちゃんは、そんな魔法が無くても成功したんだろう? すげぇじゃん」
「ヴェリタスお前また、そんな言葉使いして」
「構わんよ。もう爵位は返上して、ただの平民の爺いになったんだからな」

 念の為チャーの魔法収納とヴェリタスの魔法収納に仕舞った物を、マグダリーナの指示で他のマゴー達が書き留めていく。

「ドーラ伯母様とブレアおじ様の資産の内容はこれで間違いありませんか?」

 マグダリーナはマゴー達の書類を見せて、確認を取る。
 ブレアは元商人らしく、しっかりと確認した。

「うむ、間違いない」

 衣類や本、食器類やリネン類に関しては、片っ端から収納に仕舞っていく。どれも最高級品なので、本当に必要がない場合はショウネシー家で買取か、機会を作って売りに出せば良い。

「この邸宅はドーラ伯母様の資産になっているのでしたわね。売却はどうしますの?」

 レベッカの確認に、マグダリーナは即答した。
「それは後で、シャロン伯母様にでもお願いしましょう。今は安全に引っ越すことを優先で」

「では小精霊達に、この邸宅を守護してもらうよう頼みますわ。この邸宅にあるのは、家具もカーテンも高級品ばかりですもの。無人にしておくのは良くないと思いますの」
「出来るの?」

「ここにいる全員でお願いすれば可能ですわ。ね、トニー」
「はい、小精霊を呼ぶ方法も習いました」

「この中ではリーナお姉様が一番魔力量が多いので、精霊に守護のイメージを伝える役をお願いしますわ」
「ええ、わかったわ」

 レベッカがポシェットから蜂蜜の小瓶と女神の光花の花水を取り出して、テーブルに置いた。それからアンソニーもボディバッグから謎の液体の入った小瓶と黄金の小鉢を取り出す。

 いかにも高価そうな黄金の輝きに、マグダリーナとヴェリタスの視線が釘付けになった。

「それは?」
 マグダリーナは、透明だけどトロリとした質感の液体を不思議そうに見つめた。

「スライムコラーゲン液です。ヒラに貰ったので、よく効きます」
「何に?」
「色々です。飲んでよし、塗ってよしって言ってました」

「その黄金の小鉢は?」
「ササミが錬金術で純金を精錬する練習に作ったものを、くれました」
「ササミ作か! あいつらどこで金を集めて来るんだか」

 ヴェリタスが力の抜けた笑い方をする横で、レベッカが黄金の小鉢に花水と蜂蜜、そしてスライムコラーゲン液を入れて、ローズマリーの小枝を使って魔力を込めて混ぜ合わせていた。

「さ、皆んな、同じようにこの邸を守って欲しいって願いと魔力を込めて、馴染むように混ぜていって」

 ライアンがレベッカから受け取り、蜂蜜水を混ぜる。彼は魔力量はそんなに多くないが、制御は上手い。素早く魔力が馴染んでいくのがわかる。

 次にヴェリタスが混ぜる。
「いい香りだな」

 女神の光花とローズマリーの良い香りがどんどん広がっていく。

 ブレアも好奇心が刺激されたようで、アンソニーと一緒に混ぜ混ぜに参加する。

 最後にマグダリーナがレベッカに言われたように具体的な守護のイメージを伝えるように魔力を込めて混ぜる頃には、すでに小精霊が集まって、邸宅中をふわふわしていた。

 マグダリーナが混ぜ終わった小鉢を受け取って、レベッカが呪文を唱える。

「精霊よ、我ら創世の女神を慕いし物達の願いを聞き届け給え。この貢ぎを糧に、この邸宅の主人と邸宅をあらゆる災難から遠ざけ給え」

『任されよう』

 声が聞こえたかと思うと、小鉢の中身は空になり、周囲がキラキラと光に包まれた。

 ふっと、レベッカの身体の力が抜け、テーブルに手をついた。

「大丈夫?」

 マグダリーナは心配になって、側に寄り添った。
 レベッカはふるふる震え、涙目でマグダリーナを見た。

「成功したのですわ……」
「ええそうね、頑張ったわね。大したものよ!」
「皆んなのおかげですわ。だから尚更緊張しましたの」

 ヨシヨシとマグダリーナはレベッカの頭を撫でた。

『小精霊じゃなくて、中位精霊が応えてくれたぴゅん。心配ないぴゅん』
「じゃあただの成功じゃなくて、大成功ですね!」
 アンソニーが小鉢を仕舞いながら、にこっと笑った。


 衛兵を呼んでメイドを連れて行ってもらい、マゴーの魔法収納に念の為入っていたお弁当を食べながら、ブレアと談笑をして過ごした。

「魔力か……家門を繋いできた貴族達と違って、私はもともと平民だったから、魔法は使えんもんだと思っていたが」
「ショウネシーじゃあ、農夫のおっさん達も魔法を使うようになってきてるよ。でないとうるさいもんな」

 ヴェリタスが小さく言った最後の一言を拾って、マグダリーナ達は揃って思った。

(収穫物がね)

 やつらは魔獣なので、春夏秋とーう生やせる。今は夏の陣が始まっていた。

 しかもサトウマンドラゴラが生えた後の土は、他の農産物も順調に育つようになるので、農夫達はサトウマンドラゴラの要求に応えるしか無かった。


 リーン王国の王宮主催の夜会は十九時から始まり、二十三時に終わる。

 ダーモット達は二時間位で退出する予定だと聞いている。
 領民カードで時間を確認して、いつ帰りの連絡が来ても良いように、片付けを始めた。

 ふいにチャーの頭の実がピカピカ点滅し始めると、他のマゴーの実も光り始めた。

『急いで帰るぴゅん、敵が近づいてきてるぴゅん』
「敵?!」

 マゴー達が各人の側に寄る。

「転移、開始します」

 気がつけば、既に飛行中のコッコ車の中にいた。

「ブレア様!」
 ドーラ伯母様がブレアおじ様の側に行くと、ダーモットとハンフリーがブレアのその細い身体を支え、車内のソファへ座らせる。

「ここは……」
「ショウネシーのコッコ車の中ですわ」
「これがコッコ車か! こんなに中が広いのか!」

 初めての転移でぼんやりしていたブレアだが、無事覚醒したらしい。

「皆んな落ち着いて、攻撃が来たら躱すのと、ショウネシー領へ帰ることに集中して!」

 アンソニーが必死にコッコ達に言い聞かせている。

コッブー コッブー コケットブー

「ブーブー言ってますわね」
 レベッカが不思議そうにした。

「竜種が近づいて来るので、戦闘モードに入りたがって居るのです」

 アッシが答えた。

「「竜種?!」」

 マグダリーナとライアンが珍しくハモった。

「竜種は魔獣の頂点だろう? なんでそんなものが……どのくらいの数向かって来るんだ?」

「魔獣の頂点はヒラよ?」
「そうです」
冷静に返すレベッカに、アッシも同意した。

 マグダリーナは流す事にした。

「それで、相手の数はどのくらいなの?」
「二匹です。それぞれ人を乗せています」

「偶然野生の竜が迷い込んだとかではないのね」
「誰かが送り込んだ刺客です。鑑定結果ではエルロンド王国の奴隷と出ております」

「エルロンド……」

 ドーラ伯母様達の刺客じゃ無いわよね? うちが狙われてるの?

「冗談じゃないわ。マゴーすぐにコッコ車ごとショウネシー領に転移して!」
 振り向いたマグダリーナの視界に、爛々と瞳と実を輝かせ、『活け締めくん』を手にしたマゴー達がいた。

「貴重な素材は二体しかない! 我らに回って来るのは一体だけです! 気を引き締めて解体しましょう!!」
「「「おおおおおぉぉぉ!!!!」」」

 マゴー達は転移する気が無いらしい。いいけど、先に人を安全なところに避難させてくれないかな!!!!

「どーなってるの?!」
 マグダリーナの叫びに、アッシが車内の壁面に大型映像装置を展開した。

「こうなっています」

 目を凝らしても、夜の深い闇で何も見えない。ただバサバサと風の音が聞こえる。

 そこに。

 きゅううと地上から流星が流れてくる。

「ヒラだよぉ」

 花びらのように光を撒き散らしながら現れた、見知ったスライムの後ろ姿を見て、ほっとすると同時に、ヒラの輝きで敵の姿が照らし出される。

「ワイバーン……」

 ダーモットが呟いた。


「ス、スライム……?!」
 敵も、訳がわからず呟いた。
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