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五章 白の神官の輪廻
83. 精霊エルフェーラの契約者
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翌朝、マグダリーナ達は早い時間に神殿へ出発した。
昨日シャロン達が面会の帰りに神殿の近くを通ったら、外国の馬車で神殿の周囲が混雑していたからだ。
リーン王国の女神教と神殿は、外つ国の要人達にとって一番の関心ごとでもある。
思った通り早朝は、仕事前の平民がさっとお祈りに来る程度で、混雑とは無縁だった。
澄み渡る朝の空気の中、白く美しい神殿は荘厳且つ神秘を纏って人々を迎える。
「これが神殿か……美しい建物だね」
初めて神殿をみるダーモットとハンフリーは、とても興味深げだった。
コッコ車を牽いていたコッコ(メス)達も籠から降りてハンフリーの周りに続く。
神殿内に入ると、女神の像の前で膝を折り真摯に祈りを捧げる先客がいた。
彼が入ってきた人々に気づき、顔を上げる。
「マグダリーナとヴェリタス……それにライアンではないか!」
「バーナード!」
ヴェリタスが驚いて声を上げた。
ダーモット達が貴族の礼を取ろうとするのを、バーナードは手で制した。
「よい。友の前だ。私も楽にするから、貴方方もそうして欲しい」
「王子様……」
「こちらの令嬢は? いや、すまぬ。レベッカだな。事情は聞いている」
レベッカは頷いた。
「あの時、サロンで王子様がおっしゃったこと、今実感しながらショウネシーで勉強しておりますわ」
「そうか、どこか印象が変わった気がするのは姿形だけでないのだな」
バーナードは嬉しそうに笑った。
「この時間に来たのは正解だぞ。俺はそろそろ戻るが、皆はゆっくり女神と対話していくがいい」
そう言って、バーナードは神殿の奥に向かった。多分神官用の出入り口を使っているのだろう。
ほう、とため息を吐いてシャロンが言った。
「随分しっかりなさって……これで王妃様も一安心なさいますわ」
本当に、初めて会った時は酷かったなぁとマグダリーナも懐かしく思い出す。
その隣でダーモットとハンフリーは壁の細かい彫刻をじっくり鑑賞していた。
「ショウネシー領も神殿があった方がいいのか……?」
ハンフリーはポツリと呟く。
『いいえ、ショウネシーではあの公園のままの方が心地よいわ』
ココッ ココッ
ハンフリーの隣りで淡く輝くハイエルフの女性が微笑み、ハンフリー親衛隊のコッコ(メス)がわらわらと女性の足元に擦り寄っていく。
精霊エルフェーラの登場に、大人達は言葉を失った。
『わたくしは精霊エルフェーラ。神界にいらっしゃる創世の女神の忠実なるしもべにして、地上における代理人。ハイエルフ達を受け入れてくれてありがとう、ハンフリー・ショウネシー。貴方に祝福を』
エルフェーラの手のひらの上に、黄金の花が現れると、ふわりとハンフリーの胸元に吸い込まれていった。
『これはハイエルフであり精霊であるわたくし、エルフェーラと貴方との個人的な契約。もし貴方が大きな魔法を使う必要がある時には、わたくしが手伝いましょう』
「私には身に余る契約です」
ハンフリーは首を振る。
『いいえ、貴方はハイエルフの良き友。コッコカトリスの信頼も厚い。わたくしの契約者に相応しい』
そう言って、エルフェーラの姿が消えた。
(あ、これハンフリーさんがゴネ倒す前に撤退したんだわ)
色々察したマグダリーナは、王都流に水盆に硬貨を投げ入れ、何食わぬ顔で女神に感謝の祈りを捧げた。賢いアンソニーもそれに倣う。
それを見たレベッカが慌ててアンソニーの横に来て、水盆の縁に手作りのクッキーを置いて、ライアンと一緒に感謝の祈りを捧げる。
クッキーが光に溶けるように消えると、水盆から色とりどりの、光の花びらが舞い上がり、周囲に優しく降り注いだ。
「綺麗……」
花びらのシャワーを浴びて、昨日ヘンリーに会ってから何処か哀しげだったレベッカの顔に、輝きが戻る。
ダーモットは子供達の背中をそれぞれそっと触れてから、女神に祈りを捧げた。
「どうせ男爵が大きな魔法を使う機会なんてないでしょうから、気楽になさいませ」
シャロンのはそういうと、ヴェリタスと一緒に女神像に祈る。
ただただ呆然としていたハンフリーは、シャロンの一声で正気に帰り、創世の女神とエルフェーラに深い感謝の祈りを捧げた。
昨日シャロン達が面会の帰りに神殿の近くを通ったら、外国の馬車で神殿の周囲が混雑していたからだ。
リーン王国の女神教と神殿は、外つ国の要人達にとって一番の関心ごとでもある。
思った通り早朝は、仕事前の平民がさっとお祈りに来る程度で、混雑とは無縁だった。
澄み渡る朝の空気の中、白く美しい神殿は荘厳且つ神秘を纏って人々を迎える。
「これが神殿か……美しい建物だね」
初めて神殿をみるダーモットとハンフリーは、とても興味深げだった。
コッコ車を牽いていたコッコ(メス)達も籠から降りてハンフリーの周りに続く。
神殿内に入ると、女神の像の前で膝を折り真摯に祈りを捧げる先客がいた。
彼が入ってきた人々に気づき、顔を上げる。
「マグダリーナとヴェリタス……それにライアンではないか!」
「バーナード!」
ヴェリタスが驚いて声を上げた。
ダーモット達が貴族の礼を取ろうとするのを、バーナードは手で制した。
「よい。友の前だ。私も楽にするから、貴方方もそうして欲しい」
「王子様……」
「こちらの令嬢は? いや、すまぬ。レベッカだな。事情は聞いている」
レベッカは頷いた。
「あの時、サロンで王子様がおっしゃったこと、今実感しながらショウネシーで勉強しておりますわ」
「そうか、どこか印象が変わった気がするのは姿形だけでないのだな」
バーナードは嬉しそうに笑った。
「この時間に来たのは正解だぞ。俺はそろそろ戻るが、皆はゆっくり女神と対話していくがいい」
そう言って、バーナードは神殿の奥に向かった。多分神官用の出入り口を使っているのだろう。
ほう、とため息を吐いてシャロンが言った。
「随分しっかりなさって……これで王妃様も一安心なさいますわ」
本当に、初めて会った時は酷かったなぁとマグダリーナも懐かしく思い出す。
その隣でダーモットとハンフリーは壁の細かい彫刻をじっくり鑑賞していた。
「ショウネシー領も神殿があった方がいいのか……?」
ハンフリーはポツリと呟く。
『いいえ、ショウネシーではあの公園のままの方が心地よいわ』
ココッ ココッ
ハンフリーの隣りで淡く輝くハイエルフの女性が微笑み、ハンフリー親衛隊のコッコ(メス)がわらわらと女性の足元に擦り寄っていく。
精霊エルフェーラの登場に、大人達は言葉を失った。
『わたくしは精霊エルフェーラ。神界にいらっしゃる創世の女神の忠実なるしもべにして、地上における代理人。ハイエルフ達を受け入れてくれてありがとう、ハンフリー・ショウネシー。貴方に祝福を』
エルフェーラの手のひらの上に、黄金の花が現れると、ふわりとハンフリーの胸元に吸い込まれていった。
『これはハイエルフであり精霊であるわたくし、エルフェーラと貴方との個人的な契約。もし貴方が大きな魔法を使う必要がある時には、わたくしが手伝いましょう』
「私には身に余る契約です」
ハンフリーは首を振る。
『いいえ、貴方はハイエルフの良き友。コッコカトリスの信頼も厚い。わたくしの契約者に相応しい』
そう言って、エルフェーラの姿が消えた。
(あ、これハンフリーさんがゴネ倒す前に撤退したんだわ)
色々察したマグダリーナは、王都流に水盆に硬貨を投げ入れ、何食わぬ顔で女神に感謝の祈りを捧げた。賢いアンソニーもそれに倣う。
それを見たレベッカが慌ててアンソニーの横に来て、水盆の縁に手作りのクッキーを置いて、ライアンと一緒に感謝の祈りを捧げる。
クッキーが光に溶けるように消えると、水盆から色とりどりの、光の花びらが舞い上がり、周囲に優しく降り注いだ。
「綺麗……」
花びらのシャワーを浴びて、昨日ヘンリーに会ってから何処か哀しげだったレベッカの顔に、輝きが戻る。
ダーモットは子供達の背中をそれぞれそっと触れてから、女神に祈りを捧げた。
「どうせ男爵が大きな魔法を使う機会なんてないでしょうから、気楽になさいませ」
シャロンのはそういうと、ヴェリタスと一緒に女神像に祈る。
ただただ呆然としていたハンフリーは、シャロンの一声で正気に帰り、創世の女神とエルフェーラに深い感謝の祈りを捧げた。
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