上 下
71 / 185
四章 死の狼と神獣

71. スライムの飛翔

しおりを挟む
「……う……っ」

 凍えるような苦しい暗闇の中から、ダーモットは意識を取り戻した。

 自分でも絶対助からない自覚があった。
 どうして……? と思った時に、目の前にその解答があった。

「ヒラ……っ!!!」

 シャロンもイラナも、ダーモットの声で、ダーモットが何を代償に助かったのか気づき、声をなくした。

「ヒラ…! ヒラ…! しっかりしてくれ!!」
「ダ……モ……よか……」

 ダーモットは真っ黒になって、固く縮んでしまったヒラを抱き抱える。

「ダ……メ……うつ……穢……」
「うつらないよ。君の対応は完璧だ。流石出来るスライムだよ。だから、一緒に帰ってエステラに治してもらおう」

「ヒラ……タラ……会え……?」
「会えるよ! 一緒に帰ろう」

 がさりがさりと、ほんの少しずつヒラの身体が崩れていく。
 だがダーモットはそれに気づかないフリをした。

(タラに……会える……)

 微かな希望に目を開いたヒラの視界に入ったのは、封印を解かれて以前より強力に凶悪に穢毒を振り撒く死の狼と、苦戦するハラとササミ(オス)だ。

 帰れない……そうわかった。でもそれは。

 ヒラもハラもササミ(オス)もここにいて。
 エステラが寂しくなってしまう。ひとりぼっちにしてしまう。

(いやだよぅ……)

 皆んなでお家に帰ることが大事って、エステラが言ってた。皆んなで一緒にお家に帰るんだ。あったかいおうちに。

 ヒラがまだスライムベビーだった、小さな小さな時。
 森で逸れて、泣いてるヒラを迎えに来たエステラが言っていた。

『また迷子になったら困るからね。絶対一緒に帰って来れるおまじない、ヒラだけに教えるから、忘れちゃダメだよ』

 あの言葉、は、

「あ……」
 ヒラは最後の力を振り絞った。

 うまく言えなくても、心の中ではきちんと唱える。

「でぃ……め……さま」

 皆んなで一緒に帰りたい。

 ――目の前の、敵を、

 ――――倒して――――

 ヒラの身体がひび割れる。
 真っ黒なそれが、ぼろぼろ落ちて。

 ヒラは目を閉じた。



◇◇◇



 ヒラはいつのまにか、神殿に居た。
 エステラが造った美しい白亜の神殿だ。

 だがどこの神殿かわからない。女神像もない。

 そこはどこでもない空間だった。


『名を呼ばれては、女神も無視できぬ。故に、私がここに来た』

 そして目の前には、黄金の竜がいる。

『しかしまさか魔獣で、しかも最弱のスライムが女神の名を戴いていたとは』

「ヒラ弱くないよぉ」
『そうか』

「愛されて育ったのでぇ!」
『そうかそうか』

 黄金の竜は笑っていた。

『では其方の願いを叶えよう』
 黄金の竜は額の精石を、ヒラのそれに重ねた。

 黄金と虹の光が、ヒラの中に溢れた――――



◇◇◇



 ダーモットの腕の中で、ヒラだったものが崩れて落ちる。

 その手の中に、黄金と虹色に光る繭が残った。

 そして。

 中から黄金と虹色の光を纏った、元の美しく可愛らしい、薄青く輝くスライムが現れた。

「ヒラ!!」

 ヒラはダーモットの腕の中を飛び出して、翼を広げる。

 黄金と虹色に彩られた八枚羽根だ。

 ヒラとその翼から放たれた光は、一瞬で穢毒を浄化し、仲間達の傷を癒した。

 死の狼がみるみる弱体していく。

 ハラがササミ(オス)の頭の上に降りて、ササミ(オス)に強化魔法をかけた。

カッ――――

 ササミ(オス)が、ドラゴンブレスを吐き出すと、死の狼は骨も残らず消し飛んだ。


◇◇◇


「見ぃ~つけた~」

 エデンは王宮魔術師団長ドミニク・オーブリーを捕まえて、一発蹴りを入れた。

「ぐえっ」

 倒れ込んだドミニクの背中を、エデンはその長い足で踏みつける。

「悪いオモチャで悪い遊びをしちゃイケナイって、パパから教わらなかったのかい? まあそのパパの命令なんだろうけど、んははは」
「エデン、時間が惜しい。もっとスマートに尋問しろ」

 ニレルは抜身の切先をドミニクの首元に突きつけた。
「ベンソンを出せ」

「も……もういない」
「ではそのオモチャの中にいる人達を、今すぐ解放しろ」
「無理だ! 死の狼が、ん? んん?」

 ドミニクはズボンの股間から魔導具を取り出した。

「ない……綺麗さっぱり死の狼の気配が?!」


「ニレル様、エデン様!!」
 マゴーが転移魔法でやってきた。

「皆さん無事ショウネシー邸に帰還されました!!」

 ニレルとエデンは、ほっとして視線を交わす。

「わかった。僕たちは王宮の後始末をしてから帰るよ」
「了解しましたー」

 マゴーが消えると、ドミニクはニレルの足にしがみついた。

「い……今のは転移魔法か!? お前たちは転移の技術を持ってるのか! 教えてくれ!!!! なんでもするからっ!!!!」
「嫌だ」
 ニレルはドミニクを振り解く。

「待った待った! ベンソンの計画を全部話すから!!」

 エデンはドミニクの首根っこを掴んだ。

「まあとりあえず、こいつをセドくんところに連れていこう」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移の……説明なし!

サイカ
ファンタジー
 神木冬華(かみきとうか)28才OL。動物大好き、ネコ大好き。 仕事帰りいつもの道を歩いているといつの間にか周りが真っ暗闇。 しばらくすると突然視界が開け辺りを見渡すとそこはお城の屋根の上!? 無慈悲にも頭からまっ逆さまに落ちていく。 落ちていく途中で王子っぽいイケメンと目が合ったけれど落ちていく。そして………… 聞いたことのない国の名前に見たこともない草花。そして魔獣化してしまう動物達。 ここは異世界かな? 異世界だと思うけれど……どうやってここにきたのかわからない。 召喚されたわけでもないみたいだし、神様にも会っていない。元の世界で私がどうなっているのかもわからない。 私も異世界モノは好きでいろいろ読んできたから多少の知識はあると思い目立たないように慎重に行動していたつもりなのに……王族やら騎士団長やら関わらない方がよさそうな人達とばかりそうとは知らずに知り合ってしまう。 ピンチになったら大剣の勇者が現れ…………ない! 教会に行って祈ると神様と話せたり…………しない! 森で一緒になった相棒の三毛猫さんと共に、何の説明もなく異世界での生活を始めることになったお話。 ※小説家になろうでも投稿しています。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...