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三章 女神教
49. 妖精の実
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全く色気の無い恋バナをした翌朝、バーナードとヴェリタスが木に成っていた。
霧に包まれた拠点にいきなり生えた木に、十五センチ程の大きさで、頭にマンドラゴラのような葉と実をつけたバーナードが三つ、ヴェリタスが一つ、果実のように成っているのだ。
「気持ち悪い」
至極当然な感想を、ヴェリタスが言う。
「何でこいつらは俺の姿をしてるんだ!? あっ、お前らそのハサミは何だ?! 収穫するのか、俺を!!」
マゴーが枝切りハサミを持ち出して来たので、バーナードが慌てる。
「ほほー、随分と立派な妖精の実じゃあないか、んははは」
マゴーがハサミで丁寧に収穫をしていく。
マグダリーナはエステラに尋ねた。
「何? 妖精の実って」
「妖精が気に入った人間に与える、妖精のいたずらの一種よ。あの実を肌身離さず持っておくと、災厄から守ってくれるの」
「役に立たつ妖精のいたずらもあるのね」
「まあ、扱い方を間違え無ければ?」
エステラの微妙な口調に、マグダリーナは何か察した。
「どうして王子様とルタの実の数が違うんでしょう?」
「それはね、あの実の数は一生の中で、妖精の実の守護が必要なくらいの災厄の数と云われているの。実がなかったトニーは喜んでいいわ」
流石王族、災厄の数が違う。
収穫されると、妖精の実は人間の形からどんどん縮み、二センチ程の曲玉の様な形になった。
マゴーはそれを小さな布袋に入れ革紐で結んで首からかけれるようにすると、それぞれバーナードとヴェリタスに渡した。
「貴重なお守りですから、必ず肌身離さず、そしてなるべく人目につかないよう身につけていて下さい」
ヴェリタスがマゴーに聞いた。
「人目についたら、お守りの効果が無くなるのか?」
マゴーは首を横に振った。
「もしヴェリタス様の敵が、妖精の実の知識をお持ちなら、それに対抗するよう策を弄して来ますし、他の妖精がその実を見ると、災厄を与えていいと思うのです」
二人は慌てて、妖精の実を服の中にしまった。
やがて妖精の実の木は薄っすらと姿を消していったので、いつもの朝練を再開した。
熊師匠も用心深く気配を消すが、索敵魔法のお陰でさくっと居場所を発見する事が出来るので、修行は順調に進んだ。
昨日で大体のコツと手順を掴んだグレイとヴェリタスとアンソニーの三人は、無事熊師匠単独討伐を成し遂げた。
他のメンバーが熊師匠と修行してる間、マグダリーナとバーナードは解体後の不要部分を火魔法で浄化する浄火魔法を、ササミ(メス)から習っていた。
ハラが索敵魔法の時にバーナードに教えていたのを見て、対抗意識が沸いたらしい。
『もっと火の精霊と浄化を意識するのだ! 最小限の火力で最高の効果をあげぬと、合格はやれぬぞ』
げしげしと短い片脚で地面を蹴りながら叱咤するササミ(メス)の側で、マグダリーナとバーナードは顔を真っ赤にして額に汗を垂らし、火魔法を操っていた。
焚火で芋を焼くくらいの火の大きさで、熊師匠の骨まで焼失させろと言われる。
マグダリーナは腕輪の魔導具に浄火魔法を仕込んで貰ったので、制御の練習だ。
「でも初めてにしては、まあまあいい焼き加減よ」
エステラがいきなり火の中に手を入れて、骨の具合を確認する。
「わあああっ! 腕が、腕が燃えちゃうよエステラ!!」
「何をしておる! 火を! 火を消さぬか! はっ、俺が火元か?! 火よ消えよっ」
マグダリーナとバーナードが揃ってパニックを起こすのを見て、エステラはてへっと笑った。
「ごめんごめん、びっくりさせちゃった。ちゃんと防御魔法かけてあるから大丈夫だよ。でも二人は真似しないでね? 危ないから」
「水分補給して下さーい」
ぐったりとした二人のところに、マゴーが果実水を持って来てくれた。
「リーナは熊師匠はもういいの?」
「一回やればもう充分だわ……」
とりあえず一回、単独討伐に成功した。別に騎士になるわけでも冒険者になるわけでもないので、それ以上はいっぱいいっぱいである。
バーナードが残した骨を、ササミ(メス)が小さな火焔でジュッと消滅させた。
マグダリーナはむむむと唸る。
「火力が足りないのかしら……?」
「だがササミは最小限の火力でと言ったぞ」
「そうね、理屈としては、強火で消炭にするんじゃなくて、火と浄化の力で、精霊に手伝って貰って世界に還すって魔法だから、小さな火力で効率よくできなくはないわね……」
エステラが二人の前に手を出し、小さな浄火の焔を見せてくれる。
「綺麗ね、キラキラしてるわ」
ふとショウネシー領にある噴水の女神像の煌めきを思い出した。
「なんだか女神様の光みたい」
マグダリーナのつぶやきに、エステラは微笑む。
「そうよ。魔法は女神様が下さった力だからね。私達の使う原初魔法は、女神と精霊と自らの魔力を共鳴させて、世界に響かせる魔法よ」
「女神と精霊と自らの魔力……」
バーナードが呟いた。
「俺は今まで魔法を使うのに、精霊のことなど考えたこともなかった。ハラはもっと精霊と仲良くなれと教えてくれた。あの時使った魔法は、今までと何かが違った……魔法を使うのもただ闇雲に使うだけではいかぬ、状況に応じてより良い選択を考えねばならぬことを、ここで俺はやっと学んだ……本当に何もわかってなかったのだな、俺は」
そういえばこの子まだ十歳だったわよね、前世の自分がこの年頃の時はどうだったろうか。まあ、十歳でもあのはちゃめちゃな言動はダメダメだけど。
「今わかったからいいじゃないですか。これから勉強すれば良いのです」
そっとマグダリーナは、そう言った。
「うむ……」
くるりとバーナードはマグダリーナに向き合った。
真っ直ぐな視線がぶつかってくる。
「な……」
「マグダリーナ・ショウネシーよ、今までの無礼の数々申し訳なかった」
勢いよく頭を下げられて、今までの態度から全く想像していなかった状況に、マグダリーナはどうしたらいいかわからなくなった。
「母上からお前が兄上の恩人だとも聞いていた。だが子爵家の令嬢にそれほどの力があるわけ無いと、信じなかったのだ。今ようやく兄上と王家の恩人に対して、余りにも非礼であったと心から理解した。許してくれ」
エステラに腕をつんつんつつかれて、ようやく正気にかえる。
「しゃ……謝罪を受け入れます。どうか顔を上げて下さい、王子!」
「バーナードで良い。俺もマグダリーナと呼ぶ。よければ今後は友として、よろしく頼む」
まあいつまでもギクシャクしたくもないし、友人というのは妥当な落とし所だろう。
「はい、よろしくお願いします」
霧に包まれた拠点にいきなり生えた木に、十五センチ程の大きさで、頭にマンドラゴラのような葉と実をつけたバーナードが三つ、ヴェリタスが一つ、果実のように成っているのだ。
「気持ち悪い」
至極当然な感想を、ヴェリタスが言う。
「何でこいつらは俺の姿をしてるんだ!? あっ、お前らそのハサミは何だ?! 収穫するのか、俺を!!」
マゴーが枝切りハサミを持ち出して来たので、バーナードが慌てる。
「ほほー、随分と立派な妖精の実じゃあないか、んははは」
マゴーがハサミで丁寧に収穫をしていく。
マグダリーナはエステラに尋ねた。
「何? 妖精の実って」
「妖精が気に入った人間に与える、妖精のいたずらの一種よ。あの実を肌身離さず持っておくと、災厄から守ってくれるの」
「役に立たつ妖精のいたずらもあるのね」
「まあ、扱い方を間違え無ければ?」
エステラの微妙な口調に、マグダリーナは何か察した。
「どうして王子様とルタの実の数が違うんでしょう?」
「それはね、あの実の数は一生の中で、妖精の実の守護が必要なくらいの災厄の数と云われているの。実がなかったトニーは喜んでいいわ」
流石王族、災厄の数が違う。
収穫されると、妖精の実は人間の形からどんどん縮み、二センチ程の曲玉の様な形になった。
マゴーはそれを小さな布袋に入れ革紐で結んで首からかけれるようにすると、それぞれバーナードとヴェリタスに渡した。
「貴重なお守りですから、必ず肌身離さず、そしてなるべく人目につかないよう身につけていて下さい」
ヴェリタスがマゴーに聞いた。
「人目についたら、お守りの効果が無くなるのか?」
マゴーは首を横に振った。
「もしヴェリタス様の敵が、妖精の実の知識をお持ちなら、それに対抗するよう策を弄して来ますし、他の妖精がその実を見ると、災厄を与えていいと思うのです」
二人は慌てて、妖精の実を服の中にしまった。
やがて妖精の実の木は薄っすらと姿を消していったので、いつもの朝練を再開した。
熊師匠も用心深く気配を消すが、索敵魔法のお陰でさくっと居場所を発見する事が出来るので、修行は順調に進んだ。
昨日で大体のコツと手順を掴んだグレイとヴェリタスとアンソニーの三人は、無事熊師匠単独討伐を成し遂げた。
他のメンバーが熊師匠と修行してる間、マグダリーナとバーナードは解体後の不要部分を火魔法で浄化する浄火魔法を、ササミ(メス)から習っていた。
ハラが索敵魔法の時にバーナードに教えていたのを見て、対抗意識が沸いたらしい。
『もっと火の精霊と浄化を意識するのだ! 最小限の火力で最高の効果をあげぬと、合格はやれぬぞ』
げしげしと短い片脚で地面を蹴りながら叱咤するササミ(メス)の側で、マグダリーナとバーナードは顔を真っ赤にして額に汗を垂らし、火魔法を操っていた。
焚火で芋を焼くくらいの火の大きさで、熊師匠の骨まで焼失させろと言われる。
マグダリーナは腕輪の魔導具に浄火魔法を仕込んで貰ったので、制御の練習だ。
「でも初めてにしては、まあまあいい焼き加減よ」
エステラがいきなり火の中に手を入れて、骨の具合を確認する。
「わあああっ! 腕が、腕が燃えちゃうよエステラ!!」
「何をしておる! 火を! 火を消さぬか! はっ、俺が火元か?! 火よ消えよっ」
マグダリーナとバーナードが揃ってパニックを起こすのを見て、エステラはてへっと笑った。
「ごめんごめん、びっくりさせちゃった。ちゃんと防御魔法かけてあるから大丈夫だよ。でも二人は真似しないでね? 危ないから」
「水分補給して下さーい」
ぐったりとした二人のところに、マゴーが果実水を持って来てくれた。
「リーナは熊師匠はもういいの?」
「一回やればもう充分だわ……」
とりあえず一回、単独討伐に成功した。別に騎士になるわけでも冒険者になるわけでもないので、それ以上はいっぱいいっぱいである。
バーナードが残した骨を、ササミ(メス)が小さな火焔でジュッと消滅させた。
マグダリーナはむむむと唸る。
「火力が足りないのかしら……?」
「だがササミは最小限の火力でと言ったぞ」
「そうね、理屈としては、強火で消炭にするんじゃなくて、火と浄化の力で、精霊に手伝って貰って世界に還すって魔法だから、小さな火力で効率よくできなくはないわね……」
エステラが二人の前に手を出し、小さな浄火の焔を見せてくれる。
「綺麗ね、キラキラしてるわ」
ふとショウネシー領にある噴水の女神像の煌めきを思い出した。
「なんだか女神様の光みたい」
マグダリーナのつぶやきに、エステラは微笑む。
「そうよ。魔法は女神様が下さった力だからね。私達の使う原初魔法は、女神と精霊と自らの魔力を共鳴させて、世界に響かせる魔法よ」
「女神と精霊と自らの魔力……」
バーナードが呟いた。
「俺は今まで魔法を使うのに、精霊のことなど考えたこともなかった。ハラはもっと精霊と仲良くなれと教えてくれた。あの時使った魔法は、今までと何かが違った……魔法を使うのもただ闇雲に使うだけではいかぬ、状況に応じてより良い選択を考えねばならぬことを、ここで俺はやっと学んだ……本当に何もわかってなかったのだな、俺は」
そういえばこの子まだ十歳だったわよね、前世の自分がこの年頃の時はどうだったろうか。まあ、十歳でもあのはちゃめちゃな言動はダメダメだけど。
「今わかったからいいじゃないですか。これから勉強すれば良いのです」
そっとマグダリーナは、そう言った。
「うむ……」
くるりとバーナードはマグダリーナに向き合った。
真っ直ぐな視線がぶつかってくる。
「な……」
「マグダリーナ・ショウネシーよ、今までの無礼の数々申し訳なかった」
勢いよく頭を下げられて、今までの態度から全く想像していなかった状況に、マグダリーナはどうしたらいいかわからなくなった。
「母上からお前が兄上の恩人だとも聞いていた。だが子爵家の令嬢にそれほどの力があるわけ無いと、信じなかったのだ。今ようやく兄上と王家の恩人に対して、余りにも非礼であったと心から理解した。許してくれ」
エステラに腕をつんつんつつかれて、ようやく正気にかえる。
「しゃ……謝罪を受け入れます。どうか顔を上げて下さい、王子!」
「バーナードで良い。俺もマグダリーナと呼ぶ。よければ今後は友として、よろしく頼む」
まあいつまでもギクシャクしたくもないし、友人というのは妥当な落とし所だろう。
「はい、よろしくお願いします」
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