上 下
49 / 119
三章 女神教

49. 妖精の実

しおりを挟む
 全く色気の無い恋バナをした翌朝、バーナードとヴェリタスが木に成っていた。

 霧に包まれた拠点にいきなり生えた木に、十五センチ程の大きさで、頭にマンドラゴラのような葉と実をつけたバーナードが三つ、ヴェリタスが一つ、果実のように成っているのだ。

「気持ち悪い」

 至極当然な感想を、ヴェリタスが言う。

「何でこいつらは俺の姿をしてるんだ!? あっ、お前らそのハサミは何だ?! 収穫するのか、俺を!!」

 マゴーが枝切りハサミを持ち出して来たので、バーナードが慌てる。

「ほほー、随分と立派な妖精の実じゃあないか、んははは」

 マゴーがハサミで丁寧に収穫をしていく。
 マグダリーナはエステラに尋ねた。

「何? 妖精の実って」
「妖精が気に入った人間に与える、妖精のいたずらの一種よ。あの実を肌身離さず持っておくと、災厄から守ってくれるの」
「役に立たつ妖精のいたずらもあるのね」
「まあ、扱い方を間違え無ければ?」

 エステラの微妙な口調に、マグダリーナは何か察した。

「どうして王子様とルタの実の数が違うんでしょう?」
「それはね、あの実の数は一生の中で、妖精の実の守護が必要なくらいの災厄の数と云われているの。実がなかったトニーは喜んでいいわ」

 流石王族、災厄の数が違う。

 収穫されると、妖精の実は人間の形からどんどん縮み、二センチ程の曲玉の様な形になった。

 マゴーはそれを小さな布袋に入れ革紐で結んで首からかけれるようにすると、それぞれバーナードとヴェリタスに渡した。

「貴重なお守りですから、必ず肌身離さず、そしてなるべく人目につかないよう身につけていて下さい」

 ヴェリタスがマゴーに聞いた。

「人目についたら、お守りの効果が無くなるのか?」

 マゴーは首を横に振った。

「もしヴェリタス様の敵が、妖精の実の知識をお持ちなら、それに対抗するよう策を弄して来ますし、他の妖精がその実を見ると、災厄を与えていいと思うのです」

 二人は慌てて、妖精の実を服の中にしまった。

 やがて妖精の実の木は薄っすらと姿を消していったので、いつもの朝練を再開した。


 熊師匠も用心深く気配を消すが、索敵魔法のお陰でさくっと居場所を発見する事が出来るので、修行は順調に進んだ。

 昨日で大体のコツと手順を掴んだグレイとヴェリタスとアンソニーの三人は、無事熊師匠単独討伐を成し遂げた。

 他のメンバーが熊師匠と修行してる間、マグダリーナとバーナードは解体後の不要部分を火魔法で浄化する浄火魔法を、ササミ(メス)から習っていた。

 ハラが索敵魔法の時にバーナードに教えていたのを見て、対抗意識が沸いたらしい。

『もっと火の精霊と浄化を意識するのだ! 最小限の火力で最高の効果をあげぬと、合格はやれぬぞ』

 げしげしと短い片脚で地面を蹴りながら叱咤するササミ(メス)の側で、マグダリーナとバーナードは顔を真っ赤にして額に汗を垂らし、火魔法を操っていた。

 焚火で芋を焼くくらいの火の大きさで、熊師匠の骨まで焼失させろと言われる。

 マグダリーナは腕輪の魔導具に浄火魔法を仕込んで貰ったので、制御の練習だ。

「でも初めてにしては、まあまあいい焼き加減よ」

 エステラがいきなり火の中に手を入れて、骨の具合を確認する。

「わあああっ! 腕が、腕が燃えちゃうよエステラ!!」
「何をしておる! 火を! 火を消さぬか! はっ、俺が火元か?! 火よ消えよっ」

 マグダリーナとバーナードが揃ってパニックを起こすのを見て、エステラはてへっと笑った。

「ごめんごめん、びっくりさせちゃった。ちゃんと防御魔法かけてあるから大丈夫だよ。でも二人は真似しないでね? 危ないから」

「水分補給して下さーい」

 ぐったりとした二人のところに、マゴーが果実水を持って来てくれた。

「リーナは熊師匠はもういいの?」
「一回やればもう充分だわ……」

 とりあえず一回、単独討伐に成功した。別に騎士になるわけでも冒険者になるわけでもないので、それ以上はいっぱいいっぱいである。

 バーナードが残した骨を、ササミ(メス)が小さな火焔でジュッと消滅させた。

 マグダリーナはむむむと唸る。

「火力が足りないのかしら……?」
「だがササミは最小限の火力でと言ったぞ」
「そうね、理屈としては、強火で消炭にするんじゃなくて、火と浄化の力で、精霊に手伝って貰って世界に還すって魔法だから、小さな火力で効率よくできなくはないわね……」

 エステラが二人の前に手を出し、小さな浄火の焔を見せてくれる。

「綺麗ね、キラキラしてるわ」

 ふとショウネシー領にある噴水の女神像の煌めきを思い出した。

「なんだか女神様の光みたい」

 マグダリーナのつぶやきに、エステラは微笑む。

「そうよ。魔法は女神様が下さった力だからね。私達の使う原初魔法は、女神と精霊と自らの魔力を共鳴させて、世界に響かせる魔法よ」

「女神と精霊と自らの魔力……」
 バーナードが呟いた。

「俺は今まで魔法を使うのに、精霊のことなど考えたこともなかった。ハラはもっと精霊と仲良くなれと教えてくれた。あの時使った魔法は、今までと何かが違った……魔法を使うのもただ闇雲に使うだけではいかぬ、状況に応じてより良い選択を考えねばならぬことを、ここで俺はやっと学んだ……本当に何もわかってなかったのだな、俺は」

 そういえばこの子まだ十歳だったわよね、前世の自分がこの年頃の時はどうだったろうか。まあ、十歳でもあのはちゃめちゃな言動はダメダメだけど。

「今わかったからいいじゃないですか。これから勉強すれば良いのです」

 そっとマグダリーナは、そう言った。

「うむ……」

 くるりとバーナードはマグダリーナに向き合った。
 真っ直ぐな視線がぶつかってくる。

「な……」
「マグダリーナ・ショウネシーよ、今までの無礼の数々申し訳なかった」

 勢いよく頭を下げられて、今までの態度から全く想像していなかった状況に、マグダリーナはどうしたらいいかわからなくなった。

「母上からお前が兄上の恩人だとも聞いていた。だが子爵家の令嬢にそれほどの力があるわけ無いと、信じなかったのだ。今ようやく兄上と王家の恩人に対して、余りにも非礼であったと心から理解した。許してくれ」

 エステラに腕をつんつんつつかれて、ようやく正気にかえる。

「しゃ……謝罪を受け入れます。どうか顔を上げて下さい、王子!」
「バーナードで良い。俺もマグダリーナと呼ぶ。よければ今後は友として、よろしく頼む」

 まあいつまでもギクシャクしたくもないし、友人というのは妥当な落とし所だろう。

「はい、よろしくお願いします」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

愛されなかった私が転生して公爵家のお父様に愛されました

上野佐栁
ファンタジー
 前世では、愛されることなく死を迎える主人公。実の父親、皇帝陛下を殺害未遂の濡れ衣を着せられ死んでしまう。死を迎え、これで人生が終わりかと思ったら公爵家に転生をしてしまった主人公。前世で愛を知らずに育ったために人を信頼する事が出来なくなってしまい。しばらくは距離を置くが、だんだんと愛を受け入れるお話。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。 そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。 そして予告なしに転生。 ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。 そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、 赤い鳥を仲間にし、、、 冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!? スキルが何でも料理に没頭します! 超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。 合成語多いかも 話の単位は「食」 3月18日 投稿(一食目、二食目) 3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!

前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?

柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。 理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。 「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。 だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。 ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。 マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。 そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。 「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。 ──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。 その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。 けれど、それには思いも寄らない理由があって……? 信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。 ※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。

処理中です...