ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

文字の大きさ
上 下
44 / 246
三章 女神教

44. ショウネシーの朝練

しおりを挟む
 いかに令嬢がお淑やかであるものだとしても、体力はあるに越したことはないだろう。

 目に見えて強くなっている、アンソニーやヴェリタスを見て、マグダリーナは段々そう考えるようになっていた。

 その頃ショウネシー邸周辺では、早朝、館の周囲を走り、魔法の訓練をする通称「朝練」がいつの間にか発生していた。
 マグダリーナもこれに参加する事にする。

 朝練のメンバーは、エステラとニレル、アーベル、グレイ、アンソニー、ヴェリタスの他に、なんとハンフリーもいた。机仕事ばかりじゃ身体に良くないとニレルに連れ出されているらしい。


 やり過ぎると日中の仕事や学業に支障が出るので、朝練は軽いものだそうだ。

 まずはラジオ体操の後、ショウネシー邸の周囲を一周普通に走り、その後身体強化魔法に風魔法をかけながら二周目を走る。

 普通は複数の魔法を同時に使わないらしい。
 真っさらな状態でやれると言われれば素直に信じてやってしまうアンソニー以外の人達はかなり苦戦した。

 今は普段あまり魔法を使わないハンフリーまで、なんとかできるようになっていた。

 その後は、それぞれ魔法や剣術などの訓練をする。

 この時点で朝練って軽いものじゃなかったっけ? と、マグダリーナは少し遠い目をした。


 魔法の訓練の時に、エステラに昨日思った、大人数に回復魔法を掛るやり方を相談する。

「それは対象を点じゃなくて面や空間で考えればいいのよ。こんな感じ。エリアヒール」

 エステラはわかりやすく朝練メンバー全員に回復魔法をかけて見せてくれる。

「他の魔法も一緒よ。マゴーの防汚魔法とか集まってる人に一気にかけてたじゃない」

 バーベキューの時を思い出す。イメージが掴めて来た。

「ととのえるを家全体にかける、みたいな感じにすればいいのね」
「そうそう」

「練習したいんだけど、軽いヒールくらいなら、特に何もなくても毎日掛けて大丈夫?」
「大丈夫よ。おススメは夜寝る前ね。ぐっすり寝れるから」

 よし、日課にしよう。



 学園三日目もテストだ。

 前日が国語、算数、国学、社会、魔法……

 国学というのは、お金の単位や種類、他国のことや、生活の常識や宗教について習ったりする。

 社会は貴族の序列や役割などの貴族社会についてだった。

 どれもテストは初等部では簡単な範囲だけだ。

 今日は理科だけがテストで後は普通の授業だった。

 毎日午後の二時間は魔法学の授業と決まっているが、マグダリーナは魔法学の合格証ではなく修了証を貰ってしまったので、今後この時間をどの授業に充てるか考えないと行けない。

 朝のホームルームで、昨日のテスト結果が返ってきた。魔法学の以外の残り四教科、全部合格証がついていた。嬉しい。

「ショウネシーさん、午後の授業の時間に教員室に来てください」
「わかりました」

 アーロン先生の呼び出しなら、これからの午後の授業か昨日の件だろうと予想をつけた。

 理科のテストも問題ない出来だと思えた。

 しかし、その後の体育の授業がとても微妙だった。

 男子は外で走ったり球技をするのに、女子はドレスでダンスルームを歩いたり、マイムマイムみたいなダンスをする。

 あくまでお淑やかにだ。

 運動と体力の不足が気になったので、朝練は続けようとマグダリーナは決心した。

 前世では、若いうちにもっと体力つけておけば良かったと、よく後悔したのを思い出して。

 次の授業が芸術で、日によって音楽だったり図画だったりするようだ。

 午前の最後の時間はダンスだった。

 こちらは舞踏会で踊る男女ペアの踊りで、貴族の必須科目だが、最低限踊れれば良いので、飛び級には関係しない。


 午前の授業が終わると、食堂でヴェリタスと合流した。

「信じられないんだけど、魔法学で修了証貰ったんだよ」
 開口一番、彼はそう言った。

「おめでとう! 朝練の成果よね」
「ありがとう。そういえばリーナも昨日修了って言われたんだって? おめでとう! 順調に飛び級できそうか?」
「ありがとう。今日の理科の結果次第だけど、多分大丈夫だと思う」

 今日はマグダリーナも、うまみ屋の特製日替り弁当だ。

 彩りよく品数多く、量は程よく、ナイフがなくても食べやすいサイズ、そして絶対使い方が間違っている細やかな設定の結界魔法で、他のお菜と味が混ざらないよう配慮されていた。

「昼休みが終わったら、教員室に行かなきゃ行けないんだよなぁ」

 ぽつりとヴェリタスが言う。

「あら、私もよ」

 二人は顔を見合わせた。

「やっぱ昨日の件かな」
「魔法学の授業の代わりの事かも知れないじゃない」

「そっちはそっちで悩むよな。リーナは将来ショウネシー領の仕事するって決めてるんだろう? そこんとこ俺はまだふらふらしてるから」
「てっきり冒険者で生きていくんだと思ってた……」

「それはもしもの時の手に職だな。まずは母上を安心させたいから、何かしら考えないとな」

 ふとマグダリーナは昨日の第二王子を思い出して、笑みを噛み殺した。

「シャロン伯母様が王妃様のお話相手をされているんだから、王族の相談役ってどう?」
「なんだそれ、どっからそう言う発想出てくるんだよ」

 ヴェリタスは、愉快そうに笑った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

宝くじ当選を願って氏神様にお百度参りしていたら、異世界に行き来できるようになったので、交易してみた。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」と「カクヨム」にも投稿しています。 2020年11月15日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング91位 2020年11月20日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング84位

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...