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三章 女神教
42. 熊と王子と
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ゲインズ領の奥にランバート領があり、この二領と辺境伯領が、リーン王国三大魔獣ヨクデル領地だと、エステラは言った。
今回はランバート領の森に転移して、熊師匠を探す。
道中、第二王子の件を話すと、アーベル以外は皆驚いた。
アーベルは特に興味がないだけだ。
「第二王子って、どんな子なの?」
エステラがヴェリタスに聞く。
「どうって言われても……公式の場で挨拶くらいしかしたことないしな……俺もよくわかんね」
「リーナはどう思った?」
「え? まあ向こうも混乱してたかも知れないけど、かなり気が強くて傲慢だなって」
ズバリと言ったマグダリーナに、ヴェリタスは苦笑いした。
「まあ、混乱するだろうな。普通はお茶会だのなんだので、まず顔合わせくらいはするもんだからなー」
「そうなの? てっきりシャロン伯母様みたいに家の繋がりで相手は決まってて、結婚するものだと思ってた」
「それにしても、実際の婚約までに何度かお茶会や晩餐なんかで、一応親交するのが普通だよ。母上みたいに問答無用なのは、余程相手に問題があったりするんだよ」
めちゃくちゃ実感のこもった、お言葉だった。
がさりと音がすると、ゲインズ領でよく見る灰色狼が現れた。グレイが素早く討伐する。
そして、熊居ないなあーと思った途端に、現れた。
「よし、まず腕を切り落とせ!」
アーベルの指示に、アンソニーとヴェリタスが風魔法でそれぞれ四つ手熊の左右の前足を二本一気に落とした。
「グレイ、心臓を狙えるか?」
グレイは黙って、剣を構えた。
前足が無くなっても熊は牙を剥き出して、襲ってくる。
グレイが蛇行しながら走りこみ、熊に近づくと、一つ目の心臓に剣を突き刺す。
だが心臓に達する前に熊の腹筋で、剣が動かせなくなった。
「あぶない! ギロチン!!」
熊の牙がグレイを襲おうとするところを、マグダリーナは熊の首ごと切り落とした。
「くっ」
剣を押し込もうと力を込めるグレイに、アーベルは「力ではなく魔力を使え」と指導する。
グレイの身体から、淡く魔力の輝きが立ち上る。
グレイは元々身体強化の魔法を使っていたが、今は冒険者ギルドでアーベルの指導を受けて他の魔法の使い方も会得し始めていた。
「せいっ」
剣を媒体に熊の心臓に魔法を叩き込み、剣を抜くと素早く、そのままもう一つの心臓も突き潰した。
動かなくなった熊の胴体を、アーベルがガンガン叩く。
――本当にガンガンと音がした。
「四つ手熊は、心臓のある腹部周りの胴体が一番硬い。それを考えて対応しないと、一人で討伐はまず無理だ。あとこいつらは火属性の魔獣だから、半端な火魔法で攻撃すると逆に強化する。秒で消炭にする自信がないなら、火魔法は使わない方がいい」
今回は一人ずつ、皆んなのサポートを受けながら、熊の心臓潰し体験で終わる。
犠牲になってくれた熊師匠達に感謝し、残さず素材としてマゴーが解体し、一部はコッコ(オス)達のお腹にも収まった。
「マグダリーナなら、冒険者の研修を受ければ直ぐにFランクになれるが、どうする?」
ショウネシー領に戻ると、アーベルに聞かれたが、とりあえず令嬢としては今のところ必要がない資格なので、遠慮した。
因みにアンソニーとヴェリタスは、今回Eランクに昇格した。
ショウネシー家に帰ると、ダーモットから「第二王子との婚約の話が来たけど、断っておいたから」と何でもなかったかのように言われた。
◇◇◇
学園二日目のクラスの様子に、マグダリーナは少しウンザリした。
まず朝一に、第二王子に捕まった。
「俺はお前に、わきまえろと言わなかったか!」
第一声がこれだ。
「ええ、そうおっしゃいましたが何か?」
「それなのに、お前の方から婚約の申し込みを断るとはどういうことだ! 王族に恥をかかせて良いと思っているのか」
(はあ?)
「承諾いたしましたら、お話しが進んでしまうではありませんか。昨日王子が私と婚約する気はないとおっしゃったので、その意にそったまでです」
「お前は馬鹿か? 俺はわきまえろとも言った。ここはお前は婚約を承諾し、俺がお前を認めぬのが筋だろう!」
(はあ????)
なんだその筋とやらは、である。
「その筋は現実的なものですか?」
「なんだと?」
「バーナード王子は、実際に陛下の意に逆らって、その筋通りにすることができるのですか? 私はお互い状況を考えて、最善と思われる方法を取っただけです。それをご理解いただけないのは残念です。ですが今後私達の間に、理解が生まれる事がないとわかったのは幸いです。ではお先に教室に向かわせていただきます」
意訳:二度と話しかけてこないで、だ。
早足で教室に向かうマグダリーナを、第二王子も早足で追いかけて来た。
一瞬ヒヤッとしたが、追い抜かして先に教室に入って行っただけだった。
どうやら、そうとう負けず嫌いなようだ。
教室に入ると、昨日の第二王子との会話を聞いていた人がいて、なぜだかマグダリーナが第二王子に無理矢理婚約を迫っていると変に拗れて噂になっていた。
噂の発生源は直ぐにわかった。
なんとなく誰が噂を流したのかと鑑定魔法を使ったら、ライアンとレベッカの頭の上に矢印がペカペカしてたからだ。鑑定魔法すごいな。
マグダリーナはとにかく早く、学年を飛び級しようと思った。
テストは、自分で思っていたより好調だった。熊狩に参加したお陰だろう。
アーベルが「脳にも身体強化魔法をかけろ」と言っていたのを思い出して試してみたら、いい感じだったのだ。
お昼休みの時間になって、マグダリーナは食堂へ向かった。
王立学園は無料で使える食堂と、王族や高位貴族が使う有料のサロンがあった。
マグダリーナが入学する前に、サロンでヴェリタスの食事に毒が盛られていたことがあり、それ以来ヴェリタスの昼食はうまみ屋の特製日替り弁当だ。
新年の女神の奇跡で鑑定魔法を取得できていなかったら、危なかったかも知れなかった。
お弁当は食堂の空いてる席で食べているらしい。
マグダリーナは今日の一件で、自分もオーブリー侯爵家にロックオンされてると感じたので、明日以降お弁当にすることに決めた。
丁度食堂でヴェリタスと会えたので、一緒に食事をする。
今朝の第二王子や教室の様子を、不特定多数のいる食堂で話題にすることはできないので、次の熊修行の予定など聞いたりした。
「そう言えば、ディオンヌ商会が貰ったあの島、なんか珍しい果実があったらしくてさ、エステラがめちゃくちゃ喜んでたぞ」
「何かしら? たぶんそのうち、うまみ屋で販売されるわよね?」
「その前に試食持ってくるだろ、絶対」
「そうね! 楽しみだわ」
午後のテストは魔法学の筆記と実技だ。
担任から事情を聞いてる魔法学の先生が、実技には出なくて良いと言ってくれたが、念のため確認する。
「魔法の実技無しでも、学年の飛び級はできますか?」
「いいえ、ショウネシーさんには学年の飛び級は諦めてもらうことになるわね……」
それは、絶対、嫌だった。
「自分で魔法は使えなくても、魔導具で魔法を使う事ができます。それでテストは受けられますか?」
魔導具と聞いて、一瞬先生は皮肉気な笑みを浮かべた。
魔導具とは誰でも特定の魔法を一定の出力で使えるように、作られるものだ。
「それをすると、魔導具でズルをしていると、皆んなに言われるわよ」
「別に構いません。道具を使いこなすのにも熟練が必要だと、見る目のある方には理解していただけると信じてますから」
魔法実技のテストは、遠くの的に魔法を当てるテストだった。
「あなた実技のテスト受けれるの?」
クラスメイトの女子が聞いてくる。
「先生に魔導具使用の許可をいただきましたので、それでテストを受けます」
「ふうん、魔導具ねぇ。それ意味あるの? おままごとみたいね」
どうとでも言うがいい、飛び級の為なら、大人げなくエステラ作魔導具使用も辞さないのだ。
第二王子が的に小さな火球を当て、合格を貰う。レベッカが大袈裟に王子を褒めまくっている。
そう言えば、エステラもハイエルフ達も、あまり火魔法を使っているとこ見たことないなと思った。
素材をダメにするし、森とかで使うと火事になるからだろう。
見た目は派手だが使いにくい魔法かも知れない。
ライアンの火球は的に届かず消えた。
聖魔法はどうするのだろうかと思えば、レベッカは光の玉をぽんと出し、数センチ飛んで消えた。
他の生徒もそんな感じだったので、的に当てた第二王子は優秀なんだろう。
自分はどんな魔法で的に当てるか考えていると、周囲が騒がしくなり、悲鳴も聞こえ出した。
「きゃあああああ」
「熊よ――――!!! なんで学園に熊が!!!」
学園に熊、という強力なワードに、一瞬意識を全部持っていかれたが、校庭で見慣れた巨躯が咆哮しながら向かってくる。
(本当だよ。しかも熊師匠じゃないの!!!)
熊師匠――四つ手熊が二体、学園の運動場を歩いていた。
今回はランバート領の森に転移して、熊師匠を探す。
道中、第二王子の件を話すと、アーベル以外は皆驚いた。
アーベルは特に興味がないだけだ。
「第二王子って、どんな子なの?」
エステラがヴェリタスに聞く。
「どうって言われても……公式の場で挨拶くらいしかしたことないしな……俺もよくわかんね」
「リーナはどう思った?」
「え? まあ向こうも混乱してたかも知れないけど、かなり気が強くて傲慢だなって」
ズバリと言ったマグダリーナに、ヴェリタスは苦笑いした。
「まあ、混乱するだろうな。普通はお茶会だのなんだので、まず顔合わせくらいはするもんだからなー」
「そうなの? てっきりシャロン伯母様みたいに家の繋がりで相手は決まってて、結婚するものだと思ってた」
「それにしても、実際の婚約までに何度かお茶会や晩餐なんかで、一応親交するのが普通だよ。母上みたいに問答無用なのは、余程相手に問題があったりするんだよ」
めちゃくちゃ実感のこもった、お言葉だった。
がさりと音がすると、ゲインズ領でよく見る灰色狼が現れた。グレイが素早く討伐する。
そして、熊居ないなあーと思った途端に、現れた。
「よし、まず腕を切り落とせ!」
アーベルの指示に、アンソニーとヴェリタスが風魔法でそれぞれ四つ手熊の左右の前足を二本一気に落とした。
「グレイ、心臓を狙えるか?」
グレイは黙って、剣を構えた。
前足が無くなっても熊は牙を剥き出して、襲ってくる。
グレイが蛇行しながら走りこみ、熊に近づくと、一つ目の心臓に剣を突き刺す。
だが心臓に達する前に熊の腹筋で、剣が動かせなくなった。
「あぶない! ギロチン!!」
熊の牙がグレイを襲おうとするところを、マグダリーナは熊の首ごと切り落とした。
「くっ」
剣を押し込もうと力を込めるグレイに、アーベルは「力ではなく魔力を使え」と指導する。
グレイの身体から、淡く魔力の輝きが立ち上る。
グレイは元々身体強化の魔法を使っていたが、今は冒険者ギルドでアーベルの指導を受けて他の魔法の使い方も会得し始めていた。
「せいっ」
剣を媒体に熊の心臓に魔法を叩き込み、剣を抜くと素早く、そのままもう一つの心臓も突き潰した。
動かなくなった熊の胴体を、アーベルがガンガン叩く。
――本当にガンガンと音がした。
「四つ手熊は、心臓のある腹部周りの胴体が一番硬い。それを考えて対応しないと、一人で討伐はまず無理だ。あとこいつらは火属性の魔獣だから、半端な火魔法で攻撃すると逆に強化する。秒で消炭にする自信がないなら、火魔法は使わない方がいい」
今回は一人ずつ、皆んなのサポートを受けながら、熊の心臓潰し体験で終わる。
犠牲になってくれた熊師匠達に感謝し、残さず素材としてマゴーが解体し、一部はコッコ(オス)達のお腹にも収まった。
「マグダリーナなら、冒険者の研修を受ければ直ぐにFランクになれるが、どうする?」
ショウネシー領に戻ると、アーベルに聞かれたが、とりあえず令嬢としては今のところ必要がない資格なので、遠慮した。
因みにアンソニーとヴェリタスは、今回Eランクに昇格した。
ショウネシー家に帰ると、ダーモットから「第二王子との婚約の話が来たけど、断っておいたから」と何でもなかったかのように言われた。
◇◇◇
学園二日目のクラスの様子に、マグダリーナは少しウンザリした。
まず朝一に、第二王子に捕まった。
「俺はお前に、わきまえろと言わなかったか!」
第一声がこれだ。
「ええ、そうおっしゃいましたが何か?」
「それなのに、お前の方から婚約の申し込みを断るとはどういうことだ! 王族に恥をかかせて良いと思っているのか」
(はあ?)
「承諾いたしましたら、お話しが進んでしまうではありませんか。昨日王子が私と婚約する気はないとおっしゃったので、その意にそったまでです」
「お前は馬鹿か? 俺はわきまえろとも言った。ここはお前は婚約を承諾し、俺がお前を認めぬのが筋だろう!」
(はあ????)
なんだその筋とやらは、である。
「その筋は現実的なものですか?」
「なんだと?」
「バーナード王子は、実際に陛下の意に逆らって、その筋通りにすることができるのですか? 私はお互い状況を考えて、最善と思われる方法を取っただけです。それをご理解いただけないのは残念です。ですが今後私達の間に、理解が生まれる事がないとわかったのは幸いです。ではお先に教室に向かわせていただきます」
意訳:二度と話しかけてこないで、だ。
早足で教室に向かうマグダリーナを、第二王子も早足で追いかけて来た。
一瞬ヒヤッとしたが、追い抜かして先に教室に入って行っただけだった。
どうやら、そうとう負けず嫌いなようだ。
教室に入ると、昨日の第二王子との会話を聞いていた人がいて、なぜだかマグダリーナが第二王子に無理矢理婚約を迫っていると変に拗れて噂になっていた。
噂の発生源は直ぐにわかった。
なんとなく誰が噂を流したのかと鑑定魔法を使ったら、ライアンとレベッカの頭の上に矢印がペカペカしてたからだ。鑑定魔法すごいな。
マグダリーナはとにかく早く、学年を飛び級しようと思った。
テストは、自分で思っていたより好調だった。熊狩に参加したお陰だろう。
アーベルが「脳にも身体強化魔法をかけろ」と言っていたのを思い出して試してみたら、いい感じだったのだ。
お昼休みの時間になって、マグダリーナは食堂へ向かった。
王立学園は無料で使える食堂と、王族や高位貴族が使う有料のサロンがあった。
マグダリーナが入学する前に、サロンでヴェリタスの食事に毒が盛られていたことがあり、それ以来ヴェリタスの昼食はうまみ屋の特製日替り弁当だ。
新年の女神の奇跡で鑑定魔法を取得できていなかったら、危なかったかも知れなかった。
お弁当は食堂の空いてる席で食べているらしい。
マグダリーナは今日の一件で、自分もオーブリー侯爵家にロックオンされてると感じたので、明日以降お弁当にすることに決めた。
丁度食堂でヴェリタスと会えたので、一緒に食事をする。
今朝の第二王子や教室の様子を、不特定多数のいる食堂で話題にすることはできないので、次の熊修行の予定など聞いたりした。
「そう言えば、ディオンヌ商会が貰ったあの島、なんか珍しい果実があったらしくてさ、エステラがめちゃくちゃ喜んでたぞ」
「何かしら? たぶんそのうち、うまみ屋で販売されるわよね?」
「その前に試食持ってくるだろ、絶対」
「そうね! 楽しみだわ」
午後のテストは魔法学の筆記と実技だ。
担任から事情を聞いてる魔法学の先生が、実技には出なくて良いと言ってくれたが、念のため確認する。
「魔法の実技無しでも、学年の飛び級はできますか?」
「いいえ、ショウネシーさんには学年の飛び級は諦めてもらうことになるわね……」
それは、絶対、嫌だった。
「自分で魔法は使えなくても、魔導具で魔法を使う事ができます。それでテストは受けられますか?」
魔導具と聞いて、一瞬先生は皮肉気な笑みを浮かべた。
魔導具とは誰でも特定の魔法を一定の出力で使えるように、作られるものだ。
「それをすると、魔導具でズルをしていると、皆んなに言われるわよ」
「別に構いません。道具を使いこなすのにも熟練が必要だと、見る目のある方には理解していただけると信じてますから」
魔法実技のテストは、遠くの的に魔法を当てるテストだった。
「あなた実技のテスト受けれるの?」
クラスメイトの女子が聞いてくる。
「先生に魔導具使用の許可をいただきましたので、それでテストを受けます」
「ふうん、魔導具ねぇ。それ意味あるの? おままごとみたいね」
どうとでも言うがいい、飛び級の為なら、大人げなくエステラ作魔導具使用も辞さないのだ。
第二王子が的に小さな火球を当て、合格を貰う。レベッカが大袈裟に王子を褒めまくっている。
そう言えば、エステラもハイエルフ達も、あまり火魔法を使っているとこ見たことないなと思った。
素材をダメにするし、森とかで使うと火事になるからだろう。
見た目は派手だが使いにくい魔法かも知れない。
ライアンの火球は的に届かず消えた。
聖魔法はどうするのだろうかと思えば、レベッカは光の玉をぽんと出し、数センチ飛んで消えた。
他の生徒もそんな感じだったので、的に当てた第二王子は優秀なんだろう。
自分はどんな魔法で的に当てるか考えていると、周囲が騒がしくなり、悲鳴も聞こえ出した。
「きゃあああああ」
「熊よ――――!!! なんで学園に熊が!!!」
学園に熊、という強力なワードに、一瞬意識を全部持っていかれたが、校庭で見慣れた巨躯が咆哮しながら向かってくる。
(本当だよ。しかも熊師匠じゃないの!!!)
熊師匠――四つ手熊が二体、学園の運動場を歩いていた。
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