つれづれ司書ばなし

つづれ しういち

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97 「ドリトル先生物語全集」

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 こんにちは。
 本日ご紹介する作品はこちら。

 とはいえこちらは名作中の名作ではありますよね。中学校に置かれているのは珍しい感じもしますが、現在勤めている中学校には、なぜかハードカバーの美品が全セット揃いで置かれていまして。
 お恥ずかしながらわたくし、こちら作品をちゃんと読んだことがなかったもので、大変遅ればせながら今回手にとってみた次第です。

 〇「ドリトル先生アフリカゆき」(ドリトル先生物語全集・第一巻)
 ヒュー・ロフティング・著  / 井伏鱒二・訳 / 岩波書店(1961)

 初版が1961年とありますが、私が読んだものは第63刷で2012年版でした。長く読み継がれてきたことがよくわかる、素晴らしい数字ですね。
 もちろん翻訳ものなので、原著はもっと古く、イギリスでの初版の出版は1920年とのこと。

 翻訳に井伏鱒二とあるのですが、この事実もこの本を手に取るまで知りませんでした。なんと、あの井伏鱒二……。しかも、この井伏鱒二氏に「この本が面白いので日本語訳をしてもらえませんか」と話を持っていったのが、あの石井桃子氏。当時、たまたまご近所にお住まいだった井伏氏に、石井桃子氏が話の内容を話して聞かせたのが始まりだそうで。

 この本、あとがき部分でちょっと他の本ではお目にかかれないほど非常に多くのページを割いているのですが、その中に井伏鱒二氏によるあとがきと、石井桃子氏による「『ドリトル先生』について」という寄稿文、主なキャラクター紹介、さらにシリーズ各巻の丁寧な紹介まで入っています。非常に懇切丁寧!

 井伏鱒二氏によるあとがきの中の、ロフティングによる少年文学についての抱負が非常に個人的に心をつかまれる内容だったので、こちらに少し引用したいと思います。

  「子どもの読み物は、まず、おもしろくなくてはいけない。そのおもしろさは何物にかえても守らなければいけない。しかし、単におもしろがらせるために媚びることは、大きなまちがいである。
 けっして調子をおろしてはいけない。調子をおろされることは、心ある子どもの嫌悪するところである。心ある子どもの真に喜ぶものが、ただしい読み物である。
 子どもの読み物として上乗のものは、同時に、おとなの読み物としても上乗のものでなくてはならない。
 子どもはつねにおとなになりたいと望み、またおとなは子どもにかえりたいと願っている。子どもとおとなの間には、あまりはっきりした境界線を引くことができないものである。」
        (「ドリトル先生アフリカゆき」あとがき より)

 この「ドリトル先生」シリーズは、もともと作者のロフティングが第一次世界大戦でフランスに出征していたとき、故郷に残してきたふたりの幼いお子さんのためにと、動物のたくさん出てくる絵物語を手紙として書いて送ったのがもとになっているとのこと。
 イギリスが素晴らしい児童文学をたくさん生んできた国であることは周知の事実なわけですが、「不思議の国のアリス」「くまのプーさん」そして「ピーターラビット・シリーズ」などの名作もすべて、作者が自分の子や親戚の子どもたちにむけて語り聞かせたり、手紙を送ったりして考えだされた作品であることが知られています。
 その根底にあるのは、引用させていただいたような「子どものための物語とはかくあるべきだ」という、しっかりとした信念ではないかと感じています。

 さて、お話を少しだけご紹介しましょう。
 医学博士ジョン・ドリトルは、とある田舎町で人間相手の医者をしていたのですが、なにしろ動物が大好きでたくさんの動物を家で飼って暮らしています。その餌代がバカにならない額になるというのに、動物を嫌う人々が次第にやってこなくなり、貯金がどんどんなくなっていく日々。これにあきれた妹が、遂に愛想をつかして家を出ていってしまう始末。
 そうこうするうち、ドリトル先生はオウムのポリネシアから動物語を学び、様々な動物の言語をよく理解するようになります。
 そうすると、動物の間で「あのお医者さんは動物の言葉がわかる」というので非常に有名になってしまうのでした。
 その名が(動物界に限りますが)海外にまで聞こえてしまった結果、ドリトル先生は流行病が広がってしまったアフリカのサルたちから助けを求められ……。

 私はハードカバーを読みましたが、こちらには岩波少年文庫版も存在します。そちらなら場所も取りませんし、中学生でも手にとりやすいかもしれません(中学校よりは小学校にあるほうがよい本だろうとは思うのですが)。
 なお、「ドリトル先生」ですっかり定着している先生の名前ですが、原語では「DOLITTLE」であり「ドゥーリトゥル」、日本語にすると、なんと「やぶ医者」といったような意味だそうです! これまたびっくり。

 さまざまな背景を知って読むと、また別の感動がある本でした。
 ではでは、今回はこのあたりで!
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