75 / 143
第六章 北壁への参戦、本格化です
11 とうとう認めてしまいます?
しおりを挟む
《だって健人さん。そちらでできたご友人や騎士の同僚など、たくさんの人間関係も、とても大切になってらっしゃるでしょう? 今のあなたは》
《…………》
《それも、特に殿下のことは。……お好きなんですわよね? 健人さん》
《…………》
《ちゃんとお答えになってくださいませ。そうでないと、わたくしも困ってしまいます》
シルヴェーヌちゃんの追及が、珍しくきびしい。
どこまでもどこまでも追いかけてくる。逃げ場がねえ。どこにもねえ。
俺は手の甲でぐしっと鼻の下をこすった。
《すっ……好きか、キライか……って言われりゃ、そりゃ──》
《……お好き、なんですわね》
《ううう……っ》
バルコニーの手すりにゴン、と額をぶちあてる。
シルヴェーヌちゃんが微かに笑ったみたいだった。
《『忍ぶれど 色に出でにけり』──ですわね、まさしく》
その声はどこまでも静かで、透明だ。
《うう~っ……》
俺は髪をかきむしった。
もうダメだ。降参だ。
そしてなんなんだ、この子は。もう百人一首まで知ってんの??
《い……イジワルだっ、シルヴェーヌちゃんっ……!》
《そうですわね。ごめんなさい》
《それにっ、シルヴェーヌちゃんだって帰りてえんでしょ? そっちは野球部とか勉強とかで色々楽しいみたいだけど、こっちには君の家族だっているんだしっ……!》
《……はい。正直申せば、戻りたいと思います》
シルヴェーヌちゃんの声がふっと暗くなる。
俺の頭はますます混乱した。
《だったらなんで、そんなこと言うんだよ……》
《ふふ。もしかすると、健人さんのお姉さまの影響もあるのかもしれませんわね》
《へ? 姉貴……?》
そうらしい。あの後、姉貴は俺になっちゃったシルヴェーヌちゃんに、いわゆる「BL本」の手ほどきを色々やったようなんだよな。
《──いや。ちょっと待ってよ》
なんか、いやーな予感がして恐る恐るきいてみる。
《もしかして、俺と皇子のこと……姉貴に言ったり、してないよね?》
《あ、はい。あのう……ごめんなさい。話してしまいました……》
《えーっっっ!》
《本当にごめんなさい……ほんの少しだけなんですけれど》
《いやいやいや! やめてよー!》
なんかもう目に浮かぶわ。
「健人と皇子、その後どうなったの」「進展あった?」っつて目をキラッキラさせて情報を引き出そうとするあの凶悪な姉の顔が。
あの腐りまくった姉貴のことだ。目を爛々と光らせて「皇子×健人、その後どう?」って聞きまくってるに違いない。そんで、もしかすると例のイベントのためにうすーい本とか作ろうなんて、目論んでいやがるのかも。
《あ、そうそう。『薄い本』とかいうもののネタになさるとか。わたくしには、おっしゃっていることが今ひとつわからなかったのですけれど……。さすがによくご存知ですね、健人さん。うふふ》
「いや笑ってる場合じゃねえ! 冗談じゃねーぞ!」
思わずまた口で叫んでしまって、ハッとした。
さっきまでクウクウ寝ていたドットが、今度はぱっと顔をあげてこっちを見ている。そのまま、半分ねぼけたような顔でふらふらっと飛んで、こっちへやってきちまった。まったくもう!
《……とにかくね。宗主さまにお会いするから。俺》
《えっ。健人さん──》
《事情をちゃんと説明して、戻る方法をちゃんと探すっ。いいよな、それで? シルヴェーヌちゃん》
《いえ、あのう……健人さん》
そこまでだった。
俺は意識的に、彼女との間につながっている「通信回線」的なものをぶちんと切った。
ドットが「きゅるきゅる」と甘えた声をあげながら俺の肩にとまりに来る。そのままぐりぐりと頬のところにこすりつけてきた頭を、そっと撫でた。
(……そうだよ。俺、ちゃんとしなきゃ)
いくらこっちに好きな人がいるからってさ。
だからって、シルヴェーヌちゃんがこれから一生自分の家族にも会えない状態を許すだなんて。そんなこと、できるわけがねえじゃんか。
確かにこっちの世界は好きだよ。
あったかくてイイ奴が多いし、いっぱい友達だってできたしな。野球だって、みんな好きになってくれてチームまで作ってくれてさ。あの練習試合、めちゃくちゃ楽しかったもん。
このドラゴンのドットのことだってめちゃくちゃ可愛いし。
「みんなやこの子たちにもう会えなくなるかも」って考えるだけで、涙腺が急にヤバいことになっちまうけど。
それはしょうがねえし。
だって、どうしようもねえし。
(皇子……)
俺は頭上の月を見上げて、ぽつんと呟いた。
俺、間違ってねえよな。そうだろ?
あんたのことは……嫌いじゃねえ。
……いや、たぶん好きなんだと思う……そういう意味で。
でも。
(俺があっちに帰らねえなんて……ありえねえよ)
あんたが何を言ったとしても。
必死になって引き留めようとしてきても──。
「きゅるるうん?」
ドットが困ったような声を出して俺を見つめ、ぺろんと俺の頬をなめた。
つい、ぽろっと零れちまったナニカを、なかったことにするように。
《…………》
《それも、特に殿下のことは。……お好きなんですわよね? 健人さん》
《…………》
《ちゃんとお答えになってくださいませ。そうでないと、わたくしも困ってしまいます》
シルヴェーヌちゃんの追及が、珍しくきびしい。
どこまでもどこまでも追いかけてくる。逃げ場がねえ。どこにもねえ。
俺は手の甲でぐしっと鼻の下をこすった。
《すっ……好きか、キライか……って言われりゃ、そりゃ──》
《……お好き、なんですわね》
《ううう……っ》
バルコニーの手すりにゴン、と額をぶちあてる。
シルヴェーヌちゃんが微かに笑ったみたいだった。
《『忍ぶれど 色に出でにけり』──ですわね、まさしく》
その声はどこまでも静かで、透明だ。
《うう~っ……》
俺は髪をかきむしった。
もうダメだ。降参だ。
そしてなんなんだ、この子は。もう百人一首まで知ってんの??
《い……イジワルだっ、シルヴェーヌちゃんっ……!》
《そうですわね。ごめんなさい》
《それにっ、シルヴェーヌちゃんだって帰りてえんでしょ? そっちは野球部とか勉強とかで色々楽しいみたいだけど、こっちには君の家族だっているんだしっ……!》
《……はい。正直申せば、戻りたいと思います》
シルヴェーヌちゃんの声がふっと暗くなる。
俺の頭はますます混乱した。
《だったらなんで、そんなこと言うんだよ……》
《ふふ。もしかすると、健人さんのお姉さまの影響もあるのかもしれませんわね》
《へ? 姉貴……?》
そうらしい。あの後、姉貴は俺になっちゃったシルヴェーヌちゃんに、いわゆる「BL本」の手ほどきを色々やったようなんだよな。
《──いや。ちょっと待ってよ》
なんか、いやーな予感がして恐る恐るきいてみる。
《もしかして、俺と皇子のこと……姉貴に言ったり、してないよね?》
《あ、はい。あのう……ごめんなさい。話してしまいました……》
《えーっっっ!》
《本当にごめんなさい……ほんの少しだけなんですけれど》
《いやいやいや! やめてよー!》
なんかもう目に浮かぶわ。
「健人と皇子、その後どうなったの」「進展あった?」っつて目をキラッキラさせて情報を引き出そうとするあの凶悪な姉の顔が。
あの腐りまくった姉貴のことだ。目を爛々と光らせて「皇子×健人、その後どう?」って聞きまくってるに違いない。そんで、もしかすると例のイベントのためにうすーい本とか作ろうなんて、目論んでいやがるのかも。
《あ、そうそう。『薄い本』とかいうもののネタになさるとか。わたくしには、おっしゃっていることが今ひとつわからなかったのですけれど……。さすがによくご存知ですね、健人さん。うふふ》
「いや笑ってる場合じゃねえ! 冗談じゃねーぞ!」
思わずまた口で叫んでしまって、ハッとした。
さっきまでクウクウ寝ていたドットが、今度はぱっと顔をあげてこっちを見ている。そのまま、半分ねぼけたような顔でふらふらっと飛んで、こっちへやってきちまった。まったくもう!
《……とにかくね。宗主さまにお会いするから。俺》
《えっ。健人さん──》
《事情をちゃんと説明して、戻る方法をちゃんと探すっ。いいよな、それで? シルヴェーヌちゃん》
《いえ、あのう……健人さん》
そこまでだった。
俺は意識的に、彼女との間につながっている「通信回線」的なものをぶちんと切った。
ドットが「きゅるきゅる」と甘えた声をあげながら俺の肩にとまりに来る。そのままぐりぐりと頬のところにこすりつけてきた頭を、そっと撫でた。
(……そうだよ。俺、ちゃんとしなきゃ)
いくらこっちに好きな人がいるからってさ。
だからって、シルヴェーヌちゃんがこれから一生自分の家族にも会えない状態を許すだなんて。そんなこと、できるわけがねえじゃんか。
確かにこっちの世界は好きだよ。
あったかくてイイ奴が多いし、いっぱい友達だってできたしな。野球だって、みんな好きになってくれてチームまで作ってくれてさ。あの練習試合、めちゃくちゃ楽しかったもん。
このドラゴンのドットのことだってめちゃくちゃ可愛いし。
「みんなやこの子たちにもう会えなくなるかも」って考えるだけで、涙腺が急にヤバいことになっちまうけど。
それはしょうがねえし。
だって、どうしようもねえし。
(皇子……)
俺は頭上の月を見上げて、ぽつんと呟いた。
俺、間違ってねえよな。そうだろ?
あんたのことは……嫌いじゃねえ。
……いや、たぶん好きなんだと思う……そういう意味で。
でも。
(俺があっちに帰らねえなんて……ありえねえよ)
あんたが何を言ったとしても。
必死になって引き留めようとしてきても──。
「きゅるるうん?」
ドットが困ったような声を出して俺を見つめ、ぺろんと俺の頬をなめた。
つい、ぽろっと零れちまったナニカを、なかったことにするように。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜
三日月コウヤ
青春
父親の異常な教育によって一人野球同然でマウンドに登り続けた主人公赤坂輝明(あかさかてるあき)。
父の他界後母親と暮らすようになり一年。母親の母校である農業高校で個性の強いチームメイトと生活を共にしながらありきたりでありながらかけがえのないモノを取り戻しながら一緒に苦難を乗り越えて甲子園目指す。そんなお話です
*進行速度遅めですがご了承ください
*この作品はカクヨムでも投稿しております
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する
平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。
しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。
だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
王妃さまは断罪劇に異議を唱える
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。
そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。
彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。
王族の結婚とは。
王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。
王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。
ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる