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第五章 事態は急転直下です
1 いよいよ騎士団チームの試合です
しおりを挟む「じゃじゃーん。完成でーす!」
「おおっ」
「とうとうできたのか、マグニフィーク少尉!」
「はいはい、できましたよできましたよ~? 今から配りますんで、みんな並んで並んで~?」
──というわけで。
あの騎士団の入団試験からほぼ二か月。
いまの俺たちが夜の騎士団宿舎の食堂でなにをやってるかっていうとだな。
この世界で初めての「野球ルールブック」が発行されたのだ!
もちろん、シルヴェーヌ・マグニフィーク公爵令嬢の監修で。
んで、いま俺はそれを、晴れてみんなにお披露目しちゃってるわけね。
「野球チームつくろうぜ」
「試合だってやっちゃおうぜ」
「えっ、ルールがよくわかんないって?」
「でも、いちいち説明すんのめんどいな~」
……ってなわけで、皇子の勧めもあり、俺は野球のルールブックを作成することを決心したのだ。
ルール自体はそんなに難しいもんじゃないんで、俺が空き時間をみて簡単にさーっと書いたものを、専門の物書きの人やら絵描きの人やらに頼んで清書してもらい、印刷会社に持ち込んだ。
シルヴェーヌちゃんも言ってたけど、こっちの科学技術っていうのはあっち世界で言う産業革命以前ぐらいのレベルだ。蒸気機関すら存在してない。
そもそも魔法があることで、それ以外の燃料やなんかを研究開発する熱意が生まれにくいみたいだし、研究費の支援なんかもないわけだし。庶民のみなさんは、自分の生活を支えるだけでせいいっぱいなのが普通だしな。
普通はそういうのって王侯貴族や金持ちの商人たちが金銭的な支援をするからできるもんだけど、この世界ではそっち方面があまり進展してないんだよ。北壁での戦闘が続いてることも原因のひとつだろうけどな。
というわけで、こちらの印刷技術っていうのはそれなりだ。一応、活版印刷ではあるんだけど、動力が人力だったり、魔力の珠や魔導士による機械の操作が中心。
最初から平民が経営する店を使うことに決めていた俺は、ここでもまたエマパパの人脈を頼りにした。
結果、街の小さな印刷工房の主人に引き合わせてもらえることになり、小さな野球のルールブックが完成したんだ。ハードカバーなんかにしたら高くなっちゃうんで、簡単なパンフレット形式。値段はごく安く設定して、平民のみんなでも読みやすいものにした。
これまたシルヴェーヌちゃんのポケットマネーから出資したSMマーク付きだ。
町の書店に置いてもらえるように交渉したら、街の人たちや子どもたちなんかが次々に買っていってるらしい。
◆
そして、遂にこの日がやってきた。
騎士団のみんなによる、この世界で初めての野球チームが結成されて、野球場での初めての公式試合が行われることになったんだ。
あ、もちろん訓練をしていない休日のレクリエーションとしてだぜ?
一方が「鷹チーム」。そしてもう一方が「虎チーム」。ネーミングは団員たちの投票で決まったものだ。
一応、それぞれのチームで揃いのユニフォームも準備した。そんなに凝ったデザインじゃねえけど、鷹は紺色がベースで、虎はもちろん黄色だ。背番号については、まあ高校野球じゃねえんで、みんな好き勝手な番号をつけている。
チーム編成はあれこれ文句がでねえように、基本的に抽選で決めた。なんたって、みんな騎士だし。ある程度の得手不得手はあるにしても、それなりのポテンシャルを持ったやつばっかだかんな。
抽選は、竹串みたいな棒の先に色をつけておいて、でかいジョッキに入れたのをみんなに回して行われた。
「な……なんだって」
棒を手にして最初めっちゃ呆然とし、一番ゴネたのが皇子だった。
「どうして私が、シルヴェーヌと同じチームではないんだ。納得がいかん」
「それがくじ引きでしょうに。なに言ってんだかな~この皇子サマはよー」
ジョッキを手にした俺はというと、その隣で半眼になっていた。
「はははっ、かわいそうに! 俺はシルヴェーヌと同じチームだな。よろしくな、妹どの」
「へーへー。ベル兄はこっちね」
というわけで、俺とベル兄は鷹チーム。皇子は虎チームに決まった。
皇子は最後までベル兄に「取引をせんか」って言い続けてたけどな。はあ。なんか大人げねえ。
あっちの世界と違うのは、男女混成チームであることぐらい。だってそうしなきゃ、俺が参加できないじゃんっ!
「では、双方いいか。……プレーボール!」
そうして、シルヴェーヌちゃんの領地に作らせてもらった屋外野球場でのはじめての試合が始まった。
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