高校球児、公爵令嬢になる。

つづれ しういち

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第四章 目的に向かって邁進します

10 野球チームを結成します

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 とかなんとか部屋の前でわーわーやっていたら、俺たちのそばにはいつの間にか、他の先輩騎士たちが集まってきた。
 みんな物珍しそうに俺を見下ろしている。

「おお、これが噂のシルヴェーヌ嬢か」
「なるほど美しい。噂どおりだな」
「以後よろしくな。私の名は──」
「こら、抜け駆けをするな! 階級が上のものが優先だろうっ」
「いやいや! それなら貴様よりも、私が先に自己紹介をするべきで──」
「それを言うなら俺が最初だ!」
「なんだと、この野郎っ」

 わーわーぎゃーぎゃー。

(なんだなんだ……?)

 いったいなんだ、この騒ぎ。
 ぽかんとしている俺を、クリストフ殿下とベル兄がいつのまにか、なんとなくかばうようにして立ってくれている。たぶん無意識だろうけど。

「なんですか、みなさん。どうか落ち着いてください」
「『なんですか』じゃないですよ、クリストフ殿下」
「『やきゅう』とやらの面白さを教えてくれたのは、ほかならぬ殿下じゃないですか」
「俺たちがどんだけ待ってたか、殿下が一番ご存知でしょう?」
「そうだそうだ!」
「我々にも、ぜひ噂のシルヴェーヌ嬢を紹介してくださらねば!」
「は? 野球っスか? なんですかそれ」

 俺、思わず男ふたりを押しのけて会話に割りこんだ。
 だってほかならぬ「野球」って単語だぞ。これは反応せざるを得ねえじゃんっ!

「おお、シルヴェーヌ嬢! 君がここに入ってくれたら、休憩時間に『やきゅう』が楽しめると聞いていたんだ!」
「そうそう、その通り!」
「試合とやらもしてみたいが、まだ詳しい決まり事などがわからなくてな」
「決まり事……ってああ、ルールね?」
「そう呼ぶのか? だったらそれだ」
「是非とも君に詳しく話を聞きたいと思っていたんだ」
「よってわれらは君を、大歓迎しにきたわけだッ!」
 胸を張るな、その分厚い胸を。
「我々は、本当に心から君の合格と配属を心待ちにしていたんだよ。遅ればせながら合格おめでとう!」
「おめでとう!」
「麗しき公爵令嬢どのを、われらは心から歓迎するぞ!」

 むくつけき野郎どもは互いに押し合いへし合いしながら、そんなことを口々にわーわー言いまくっている。そして「おめでとう」の大合唱。
 さすがにクリストフ殿下ほどのイケメンはいないけど、さすが騎士団員だけあってみんな体格はいい。宿舎の狭い通路がさらに狭くなった感じ。
 鍛え上げられた胸筋に腰まわり。隊服の上からでもはっきりわかるいいカラダ。要するにみんな立派なスポーツマン体形だ。
 うん、かっけえ。
 でもなんとなく暑苦しい……ごめん。

「それにしても、俺を心待ちって……マジっすか?」

 ひょいと隣を見たら、クリストフ殿下がにっこり笑い返して来た。

「そなたに頂いたボールとグラブで、時々休憩中にベルトランとキャッチボールを楽しんでいたのだがな。前にも言ったが、そうしたら彼らもいたく興味をそそられたようで」
 ああ。そういや聞いたな、そんなこと。
「ほら、そもそも道具が少ないだろ? だからみんなで奪い合になっちまっててなあ。最近じゃ、エマの父上のところで大量に注文しようって話になってるんだ。騎士団で、みんなの分をな」
「え、マジ? ベル兄」
「マジもマジ」
「おお、やったぜ!」

 そりゃエマパパも喜んでくれそうだなあ。エマちゃんがまた感動して泣いちゃうぞ。

「っていうか、ここにいる人数でなら試合もできそうだろ? どうだ、シルヴェーヌ」
「えっ」
 言われて俺は、慌てて周囲の男たちを数えた。
「ひのふの……うっひょお! ほんとだ。二十人とか余裕でいそう。やったぜ!」

(試合。試合かあ……!)

 俺、たぶん今日いちばんで目をきらきらさせているに違いない。
 いや、騎士団に野球やりにきてるわけじゃねえのは百も承知よ? でもなあ。
 試合ってなったらやっぱり、胸が高鳴っちまうじゃん! いやが上にも!
 そんな俺を見て、皇子はますます満足そうな顔になった。

「そう言ってくれると思っていた。もちろん騎士である以上は軍事訓練こそ最重要事項だが、休憩時間や休暇中は、ぜひみんなと『やきゅう』もやろう」
「おお……! あ、でもその……そんな勝手やらかして、騎士団長閣下から怒られたりとかは……?」
「それなら大丈夫。団長どのは、そちらに関しては非常に寛大なお方だからね。というか、団長どのご自身が野球に興味を示しておいででね」
 答えたのは皇子。
「幸い、場所も君が作ってくれた野球場があることだし。細かいルールについては、いちいちこの人数に教えるのも大変だろうし、いっそ冊子を作って配るのはどうかと思うんだが」
「おお。ルールブックっすか?」
 俺、たぶんきらーんと目を光らせただろう。
「いいですね~それ! グッドアイデアっすよ、皇子!」
「それはよかった」
 皇子は品よくにっこり笑う。
「どうだい? 素敵な話だろう、シルヴェーヌ嬢?」
「うんっ。うんうんうんっっ!!」

 俺、大喜びでぶんぶん顔を縦にふった。
 やったあ。
 こりゃ、これから色々楽しみだぜ!

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