高校球児、公爵令嬢になる。

つづれ しういち

文字の大きさ
上 下
47 / 143
第四章 目的に向かって邁進します

8 そして実技試験です

しおりを挟む

「心配してくれてありがとなっ。でも大丈夫。これでも師匠たちにビッシバシに鍛えられてきたんだからよ」

「いや、しかし──」
「そんなことより。なあ、名前きいてもいい?」
「えっ」
「だって、そっちはこっちの名前をもう知ってんだろ。それって不公平じゃ~ん。これから同僚になるかもしんねえのによー。俺にも自己紹介してくれよー」

 男は完全に面食らって、眉を八の字にしてしまった。早々に「こりゃだめだ」とあきらめた顔だ。

「……アンリだ」
「あっそ。じゃあアンリ。俺と当たったら、手加減ナシでよろしくな。ぜってえ約束だかんな? 手ぇ抜いたら許さねーし。あ、ここにいるみなさんもなー? よろしくたのむぜ~?」

 声をわざと大きくして、耳ダンボ状態になってた周囲の男どもにも聞こえるようにする。
 周りのやつらの反応は色々だ。目をぱちくりさせたり、面白そうな顔をしたり。
 ざっと見た感じ、そんなに性格悪いやつはいなさそうで、ちょっとほっとする。
 そりゃそうか、一応みなさん貴族の息子、つまりは紳士なんだからな。それに、なんてったって「帝国を守る栄えある騎士」になろうかっていう野郎どもなんだしな。
 とはいえ、相手が女だからってかさかっていたぶる奴ってのがこの世にはいるからよ。
 ま、そんな奴ぁ俺がこの手でギッタンギッタンにするまでだけど。

「いや、無茶言うなよ……」
 アンリが微妙に肩を落とした。
「とにかく。試験で怪我やなんかはしないでくれ。女が怪我するところなんて見たくないんだよ、俺は」
「それは俺もだけど。でも、なんでよ」
「寝覚めが悪すぎる。縁起も悪い」

 そうそう、うんうん、といわんばかりに周りの男どものうち数名がうなずいている。ちぇ~っ。

「あっそ。でも、そんなの約束できねえよー。訓練中、擦り傷や打撲ぐらいは日常茶飯事だったんだぜ? うちの師範のみなさん、わりとみんな容赦なかったしさ。めっちゃスパルタでよー。何度も死ぬかと思ったわ、マジで」
「……そうなのか?」
 アンリ、完全にびっくりしている。
「ま、『大怪我はしねえ』ってぐらいなら約束しねえこともねえけど」
「じゃあそれでいい」
 アンリの声はほとんど溜め息と同じだった。
「『大怪我はしない』。たのむぞ、マグニフィーク公爵令嬢」
なげえ」
「は?」
「それ長えから。めんどくせーし。シルヴェーヌでいいよ、アンリ」
「えっ? いや、そういうわけには──」
「じゃなっ。そろそろ時間だぜ~?」

 ひらひらと手を振って、ぽかんと見送る男どもを後目しりめに、俺はとっととつぎの試験場である前庭へ出ていった。





「うおおおっ!」
「ぬううううっ!」
「はああああッ!」

──さてさて。
 怒号の連呼を並べててもしょうがねえんで、結論から言おう。

 俺、どちゃくそ強かった。思ってた以上に。フンス!
 体術の対戦でも剣術でも、さらに馬術でも、かなりの高得点を挙げたと思う。事前のことがあったから、対戦相手も遠慮せずにかかってきたと思うんだけどな。 
 俺はわりと短時間で相手の剣を弾き飛ばし、地面に沈めることができた。

 まあアレだよ。
 うちの師匠連中のスパルタの成果ってやつだよ。
 俺はよく知らなかったけど、なにげにこの国の豪傑ぞろいだったみたいだからな、あの人たち。なんか伝説の勇者的な。うへえ。
 みんないい年したおっさんやじーさんだけど、めちゃくちゃ強かったかんなあ。

「それまで! 勝者、マグニフィーク公爵令嬢、シルヴェーヌ!」

 俺に剣を弾かれたやつも、軽々と「巴投げ」(ってこっちでは言わねえだろうけど)を食らったやつも、一様に呆然とした顔だった。
 要するに「なにが起こったのかわかりません」って顔。

 ……うん、ごめんな。
 でも先に「舐めてかかんなよ」って警告はしたかんな? 俺は。
 もちろんこっちは軽量級だし、スタミナもねえし、筋力だけの勝負ならぜってえ負けるし。重量級の奴にがっつり体を掴まれたらヤバいってことは分かってた。だから、そこはちょこまか逃げ回った挙げ句のことだけどな。
 それで一瞬の隙をついた。

 まあなあ。だからって、俺もうぬぼれるつもりはねえよ?
 なんだかんだ言っても、やっぱり「女だから」ってあなどって掛かった奴も多かったんだろうしな。それはそれで、「修業がたりぬ」って師匠連中なら言うだろうけどな。
 あ、そうそう。
 そして俺は、ちゃんとアンリとの約束も果たした。つまり、大怪我どころか擦り傷ひとつ作らなかった。まあ作ったところで《癒しの手》の持ち主だからな。ちょちょいと魔法で治しちまえば済むことだ。

 というわけで。
 数日後に公爵家に届いたのは、幸いにも「騎士団合格」の手紙だった。
 家族のみんなは驚いたり呆れたり。パパンとママンは心配が先行した感じで、長兄アルフレッドと姉のテレーズは呆れてるって感じだったな。
 もちろんエマちゃんたち侍女とメイド一同は大喜びでお祝いを言ってくれ、ささやかなお祝いパーティまでしてくれた。
 んで。
 夜になって、シルヴェーヌちゃんもさっそくお祝いを言ってくれた。
 
《よかったですね、健人さん。おめでとうございます!》
《うん、ありがとー。いよいよ騎士団入隊だ~!》
《はいっ。がんばってくださいね。わたくしも、ケントさんのご活躍を拝見するのが楽しみです》

 そこからは大忙しだった。入団準備でなんやかやとね。
 騎士になるとなったら、一応は叙任式っていうものもあるし。
 その日、俺は支給された第一騎士団の制服に身を包み、最低限の私物だけを持って、晴れて皇宮に向かった。
 騎士団内ではどんな高い身分の者も自分の従者をつけることは許されていない。基本的に自分のことは自分でやる。俺にしてみりゃそんなの当たり前の話なんだけど、それをはじめて知ったエマちゃんはひどく残念そうだった。

「えっ。私はついていけないんですか……?」

 いやまて。
 まさか、本気でついてくる気だったんじゃねえだろうな。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...