45 / 143
第四章 目的に向かって邁進します
6 入団試験に出発です
しおりを挟む
《今度、なんだかんだで、流れで騎士の試験を受けることにもなっちゃってるけど……。いいよね? 俺、受けにいっても》
《はい。自分が騎士にだなんて想像もしなかったことですけれど、実際にケントさんがやり始められてから、実は訓練を見ているのが楽しくてしかたがありませんの》
《おっ。そうなの?》
《はい。それに、帝国のお役に立つことは帝国の臣民ならば当然の務めでもありますし。ですからその体にいらっしゃる間は、どうぞ存分になさっていただければ》
《そっか……。ありがと、シルちゃん!》
シルちゃんはうふふ、とまた笑った。
《とはいえわたくしたちは、なにより、どうすればもとに戻れるかを模索しなくてはなりませんけれどね》
《うんっ。そこはまったく同じだよ、俺も。あのさ、これからはこうやって、時々連絡が取れそうなのかな?》
《はい、おそらく。一度つながった連絡の道筋はそうそう断ち切られないと思われます》
《そっか! じゃあ夜には連絡するようにするよ、俺からも》
《はい。こちらは授業中ですとあまりお返事できないかもしれませんが、なるべくお返事いたしますわね》
ひょええ。さっすがシルちゃん、まじめだなー。
《今は部屋なの?》
《はい》
《そっか。んじゃ、姉貴にはよろしく伝えといてよ。シルちゃんのこと、これからもよろしくなって。恩に着るって言っといて?》
《はい。本当によいご姉弟でいらっしゃいますね。羨ましいですわ……うちとは大違いですから》
《え~? それほどでもねえよ。姉貴は完全な『俺サマ』だかんなあ。俺なんかずっと尻に敷かれっぱなしで。シルちゃんも、姉貴にいじめられたら俺に言ってね? 俺だって姉貴の弱みのひとつやふたつ、知ってんだからよっ》
《あら、それは頼もしいですね。でも大丈夫ですわ。本当にうまくやっておりますから……。わたくしたち、本当にいいお友達になったのよ? ですから心配なさらないで》
そこまでだった。
シルちゃんはどうやら誰かに呼ばれたらしい。「ではそろそろ。またご連絡いたします」と言って、ぷつんと通信を切ったんだ。
俺はベッドに座り込んだまま、しばらくぼんやりとカーテンの外の月を眺めていた。
(ひょええ……。びっくりだなあ)
でも、なんだかわくわくする。
なにかが急に動き出しそうな予感がした。
◆
そして。
いよいよ今年の騎士団の入団試験の日がやってきた。
季節は冬を越えて、いつのまにか春がやってきたんだ。
その日、俺は朝から緊張していた。
「お嬢様、とにかく落ち着いてくださいませね」
「お嬢様ならきっと大丈夫にございます。あれほど練習なさったのですし」
エマちゃんはじめ、侍女ちゃんとメイドちゃんたちが口々に可愛い声で励ましてくれる。
あ、そうそう。
あれからすぐ、新しい侍女とメイドが俺の陣営に加わった。今度こそちゃんと身元も性格もはっきりわかった女の子たちだ。要は「親シルヴェーヌ派」とでも言うべき子たちかな?
人選にはパパンやママンはもちろんのこと、あれ以来すんごく俺のことを気にしてくださってる皇后陛下や、クリストフ皇子の口利きもかなり大きく影響した。
そしてエマちゃんには計画していたとおり、俺の侍女長に昇格してもらった。もちろん、俺は事前に新人ちゃんたちに「平民出身だからってエマちゃんを見下すような真似はしないでね。見つけ次第、厳罰おっことすから」ときっちり釘を刺している。
これでもう、軽率にアンジェリクなんかの口車にのってシルヴェーヌちゃんイジメをやるような、愚かな子は出てこないはず。
よかったよかった。
俺がこの体になったことの意味のひとつが成就したってわけだよな。
「俺、だいじょぶ? どこもおかしくない??」
ひととおりの身づくろいを終えて、でかい鏡の前に立った俺は、周囲の女の子たちを見回した。
武術や馬術の実技があることは分かってるんで、今日はもちろんドレスじゃない。騎士団の隊服は入隊してからの支給になるから、俺は今日のためにそれによく似た感じの、女性向けの服を特別に誂えた。
乗馬服とよく似たワイン色のジャケットに白いキュロットパンツ。そして長靴。髪は後ろでポニーテールにしてある。あくまでも試験が目的なんだから、あんまりキラキラした飾りなんかはナシにしてもらった。
いっぱいの微笑みとともに、「もちろんでございます」「お嬢様に非の打ちどころなどございません」という温かい励ましの声が俺をつつむ。
侍女長エマちゃんはとりわけ感慨深そうだ。嬉しそうな顔が輝いている。
ああ、この温かさ。ここにシルヴェーヌちゃん本人が立ってるんならいいのにな。
「お嬢様が十分に実力を発揮されますよう、わたくしども一同、心よりお祈り申し上げております。どうぞご存分になさいませ」
もはや「どこの貴族のご令嬢?」と思うような上品な振る舞いでスカートをちょっと持ち上げ、エマちゃんが礼をすると、周りの子もそれにならった。
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
「公爵家の星の、ご武運をお祈り申し上げております」
「ありがと、みんな!」
俺はみんなに向かってぶんぶん手を振って、公爵家の馬車に乗りこんだ。
《はい。自分が騎士にだなんて想像もしなかったことですけれど、実際にケントさんがやり始められてから、実は訓練を見ているのが楽しくてしかたがありませんの》
《おっ。そうなの?》
《はい。それに、帝国のお役に立つことは帝国の臣民ならば当然の務めでもありますし。ですからその体にいらっしゃる間は、どうぞ存分になさっていただければ》
《そっか……。ありがと、シルちゃん!》
シルちゃんはうふふ、とまた笑った。
《とはいえわたくしたちは、なにより、どうすればもとに戻れるかを模索しなくてはなりませんけれどね》
《うんっ。そこはまったく同じだよ、俺も。あのさ、これからはこうやって、時々連絡が取れそうなのかな?》
《はい、おそらく。一度つながった連絡の道筋はそうそう断ち切られないと思われます》
《そっか! じゃあ夜には連絡するようにするよ、俺からも》
《はい。こちらは授業中ですとあまりお返事できないかもしれませんが、なるべくお返事いたしますわね》
ひょええ。さっすがシルちゃん、まじめだなー。
《今は部屋なの?》
《はい》
《そっか。んじゃ、姉貴にはよろしく伝えといてよ。シルちゃんのこと、これからもよろしくなって。恩に着るって言っといて?》
《はい。本当によいご姉弟でいらっしゃいますね。羨ましいですわ……うちとは大違いですから》
《え~? それほどでもねえよ。姉貴は完全な『俺サマ』だかんなあ。俺なんかずっと尻に敷かれっぱなしで。シルちゃんも、姉貴にいじめられたら俺に言ってね? 俺だって姉貴の弱みのひとつやふたつ、知ってんだからよっ》
《あら、それは頼もしいですね。でも大丈夫ですわ。本当にうまくやっておりますから……。わたくしたち、本当にいいお友達になったのよ? ですから心配なさらないで》
そこまでだった。
シルちゃんはどうやら誰かに呼ばれたらしい。「ではそろそろ。またご連絡いたします」と言って、ぷつんと通信を切ったんだ。
俺はベッドに座り込んだまま、しばらくぼんやりとカーテンの外の月を眺めていた。
(ひょええ……。びっくりだなあ)
でも、なんだかわくわくする。
なにかが急に動き出しそうな予感がした。
◆
そして。
いよいよ今年の騎士団の入団試験の日がやってきた。
季節は冬を越えて、いつのまにか春がやってきたんだ。
その日、俺は朝から緊張していた。
「お嬢様、とにかく落ち着いてくださいませね」
「お嬢様ならきっと大丈夫にございます。あれほど練習なさったのですし」
エマちゃんはじめ、侍女ちゃんとメイドちゃんたちが口々に可愛い声で励ましてくれる。
あ、そうそう。
あれからすぐ、新しい侍女とメイドが俺の陣営に加わった。今度こそちゃんと身元も性格もはっきりわかった女の子たちだ。要は「親シルヴェーヌ派」とでも言うべき子たちかな?
人選にはパパンやママンはもちろんのこと、あれ以来すんごく俺のことを気にしてくださってる皇后陛下や、クリストフ皇子の口利きもかなり大きく影響した。
そしてエマちゃんには計画していたとおり、俺の侍女長に昇格してもらった。もちろん、俺は事前に新人ちゃんたちに「平民出身だからってエマちゃんを見下すような真似はしないでね。見つけ次第、厳罰おっことすから」ときっちり釘を刺している。
これでもう、軽率にアンジェリクなんかの口車にのってシルヴェーヌちゃんイジメをやるような、愚かな子は出てこないはず。
よかったよかった。
俺がこの体になったことの意味のひとつが成就したってわけだよな。
「俺、だいじょぶ? どこもおかしくない??」
ひととおりの身づくろいを終えて、でかい鏡の前に立った俺は、周囲の女の子たちを見回した。
武術や馬術の実技があることは分かってるんで、今日はもちろんドレスじゃない。騎士団の隊服は入隊してからの支給になるから、俺は今日のためにそれによく似た感じの、女性向けの服を特別に誂えた。
乗馬服とよく似たワイン色のジャケットに白いキュロットパンツ。そして長靴。髪は後ろでポニーテールにしてある。あくまでも試験が目的なんだから、あんまりキラキラした飾りなんかはナシにしてもらった。
いっぱいの微笑みとともに、「もちろんでございます」「お嬢様に非の打ちどころなどございません」という温かい励ましの声が俺をつつむ。
侍女長エマちゃんはとりわけ感慨深そうだ。嬉しそうな顔が輝いている。
ああ、この温かさ。ここにシルヴェーヌちゃん本人が立ってるんならいいのにな。
「お嬢様が十分に実力を発揮されますよう、わたくしども一同、心よりお祈り申し上げております。どうぞご存分になさいませ」
もはや「どこの貴族のご令嬢?」と思うような上品な振る舞いでスカートをちょっと持ち上げ、エマちゃんが礼をすると、周りの子もそれにならった。
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
「公爵家の星の、ご武運をお祈り申し上げております」
「ありがと、みんな!」
俺はみんなに向かってぶんぶん手を振って、公爵家の馬車に乗りこんだ。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる