テイマー勇者~強制ハーレム世界で、俺はとことん抵抗します~

つづれ しういち

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第七章 混沌

12 共闘

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《だからさ。いいじゃねえかよ、もう》

 割って入ったのは、ゾルカンだった。

《ユウジンの野郎が、あんたがこうなることを望んでたとはとても思えねえ。今のあんた、幸せか? ちげえだろ》
《…………》
《この百二十年ってもの、あんたが幸せだったことなんてあんのかよ。そんなんで、ユウジンの野郎が本当に喜んでると思うのか。あいつが、あんたにこんな風にならせたくて、オーガどもの餌になる道、選んだとでも言うつもりかよ》

 キリアカイの思念が、さすがに返す言葉に詰まったのか、つらそうに黙り込んだ。

《いいから、退きな。あとはここにいるヒエンに引き継がせるからよ》
《ヒエン……。さっきの獅子顔の男ね》
《おお。俺の片腕の野郎だよ。まあこう言うと口はばってえが、『股肱ここうの臣』ってやつだあな》

 彼がそう言うと、場のみなの視線が自然とヒエンに集まった。ヒエン自身は、やや困ったように片眉を上げただけで沈黙している。何やらくすぐったいのだろう。

《な、悪いようにはしねえ。約束してやる。あんたはそんな風にはなっちまってても、もとは俺の大事な盟友の女だ。ここのことだってそうだ。ユウジンは俺にとっても大事な奴なんだ。その霊廟にゃあ、絶対に変な奴らを踏み込ませたりしねえ。安心しな》
 言いながらゾルカンが目配せをすると、ヒエンが重々しく頷いて一礼した。
《無論のことです。凡夫、非才の身ではございますが、それだけはお約束申し上げましょう。どうか、自分にお任せくださいませ》

 長い長い、間があった。
 が、とうとうキリアカイが応えた。

《わかったわ……。約束よ、ゾルカン》
 おお、と誰ともなしに、場にいる皆から声があがった。ゾルカンが手のひらに拳を打ち付けて「よっしゃ」と言う。
《決まりだな。じゃ、出てこいよ》
《ああ、その前に》

 俺が口を挟んだので、ゾルカンがぎろりとこちらを睨みつけた。「まだ何かあんのかよ」と言わんばかりの目だ。
 が、これはせっかくのチャンスだった。俺としては思念で話をしている間に、これだけははっきりさせておきたかったのだ。

《キリアカイ閣下。提案があるのですが。いいでしょうか》
《提案……? なによ》
《あなた様が、もしもまだ、あの『マリア』への恨みをお忘れでないのなら──》
《当たり前でしょ!》
 言いかけたところを遮るように、激しい思念が飛んできた。
《八つ裂きにしたって、飽き足りないわよ! あの女、あれ以来あたくしの前に姿を見せていないけれど。今度会ったらただじゃおかないって、この百二十年というもの、ずっと思い続けてきたのだから……!》
 それはもう、当然のことと言えただろう。彼女の思念からはどろどろと、怨念そのもののような炎が噴き出している。
《よく分かりました。でしたら、なおのことです。……あらためまして、キリアカイ殿。自分と共闘していただくわけには参りませんか》
《共闘……ですって?》

 ぽかんとしたようなキリアカイの思念と同じく、周囲の皆も一瞬、俺を凝視した。
 俺はそこから、一通りの説明をした。ゾルカンとヒエン、フェイロンについてはすでに話を通してあることだったけれども、他の者にも聞かせておく必要があったからだ。
 俺は「魔王ヒュウガ」として、かの「創世神の巫女」たる「システム・マリア」を滅ぼす計画を持っていること。それには、南の人族側の協力もある程度は得られる所まできていること。その上で、あちらでもマリアに関する情報を集めてもらっているところであること。
 また、あのリールーの父親にしてガッシュの祖父たるいにしえのドラゴンにも協力を要請していること。

《あの者をこのままこの世界にのさばらせておいたのでは、あなたが舐めた辛酸を、またほかの誰かが舐めねばならないことになる。それはもう、この代で終わりにできないかと考えております》
《……驚いたわね。まさか、あなたがそんな大それた計画をしていたなんて》
 キリアカイの思念も、そのままの驚愕を表現していた。
《こんな魔王ははじめてだわ。本当に驚いた……。で? ゾルカンもハオユウも、このことは了解しているのね?》
《おう。無論よ》
《自分もです》

 ゾルカンとフェイロンの肯定の意を受けて、キリアカイは少し黙った。が、やがて不思議に晴れ晴れしたような思念で言った。

《それなら、望むところだわ》

 彼女がそう言った途端、霊廟の扉を覆っていた分厚い氷結魔法による氷がじゅうじゅうと溶け始めた。キリアカイが魔法を解除したのだろう。
 やがてきい、と軽い音を立て、扉の中からキリアカイが現れた。それは不思議に、背筋に今まではなかった芯が一本通ったような姿に見えた。女は扉を閉じるとすぐに、再びそこに幾重にも魔法による鍵をほどこした。
 彼女がそれを終えて口を開こうとした瞬間、ギーナとフェイロンがさっと手を上げて、周囲に魔力障壁をつくりだした。この会話を、聞き耳を立てているかもしれないあの者に聞かせないようにするためだろう。

「ヒュウガ……いえ、魔王陛下」

 キリアカイは乱れ落ちた髪のままではありながら、それでも頭をきりりと上げて、しずしずと俺に近づいて来た。
 そして不意に、俺の前に片膝をついて頭を垂れた。

「どうか、あたくしの目の黒いうちに、あの者を八つ裂きにするとお約束くださいませ。さすればあたくしは今後、あなた様に対していっさいの協力を惜しむものではございません」
「キリアカイ殿──」
 俺は少し驚いて、跪く女の姿を見下ろした。
「無論のことです。約束します。それを成し得ない限り、もはやこの世界の展望はないと考えますので」
 女は顔を上げた。そして、にこりと笑った。
「では。どうぞあたくしを、あなた様の配下にお加えください。あいつの死に目をこの目で見られるのなら、この命だって要りませんことよ」
 その声は、ひどくきっぱりしたものだった。
「そのためにもし必要とあらば、こちらに蓄えました金銀財宝の数々も、惜しむものではございません。どうぞご存分に、利用くださいましな」
「まことですか。キリアカイ殿──」

 さすがに驚いて、俺は聞き返した。
 あのキリアカイが。財欲の四天王が、みずから己が財宝を手放すと言うのだ。これにはゾルカンやヒエン、ギーナたちも驚いた様子だった。

「あたくしの、この百二十年の恨みつらみを晴らすためなら、何を惜しいと思いましょう。あいつの体のひとかけらなりと、断末魔のひと声なりと、こちらの霊廟に供えることができましたら、それこそがあたくしの本懐と申すものですわ──」

 毅然と言い放つキリアカイの声は、先ほどまでとはまったく別人のもののようにその場に響いた。

(春が……来る)

 いや、こんな地底深くにあって、そんなことがあるはずはなかったけれども。
 でも俺には、そう思えたのだ。
 外界に訪れはじめた温かな陽射しがここまで届き、冷え込んでいた北国の空気がじわじわと溶けだして、場にふわりと、新しい季節を呼び込んできたように。

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