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しおりを挟む「はい、佐竹。あーん」
というわけで。
いま俺は嬉々として、粥をすくった蓮華を持ち上げ、佐竹の前に差し出している。
もちろん佐竹は渋い顔だ。
おっそろしく怖い顔だ。
「いや。いくらなんでもこれは──」
小さな子供ではあるまいし、とかなんとか言いかけるのを、俺は敢えて遮った。
「うるさいの。約束したでしょ? 武士……じゃないけど、男に二言はないって言うじゃん。男らしくないぞー、佐竹」
「…………」
途端、佐竹がすうっと目を細めた。
うあ、怖いよ。これ、こいつが本気で怒ったときの顔だよ。いや、本当の本気だったらもっと怖い殺気が飛んでくるはずだけど。
まあこういう時、あんまり「男らしくない」とか「女らしくない」とか言うのは俺、本当はあんまり好きじゃないけどね。そんなのどっちだっていいことなんだし。
ちょっとズルイよな。ごめんな、佐竹。
いや、でも佐竹はやっぱり「武士」だと思うけどね、俺は。
今じゃこの国にそういう階級制度はなくなっているわけだけど、いわゆる「武士道精神」みたいなものはやっぱり残っているわけだし。
もちろんそれはいいことばかりでもなくて、良くない部分もきっとあったはずなんだけど。剣道をはじめとする様々な「道」に昇華されてきたことで、より美しい部分だけが抽出され、凝縮されて残ってきているような気もする。
佐竹って奴は、たぶんそういうものを色濃く残してる奴だと思う。
まさに、生きた武士道精神の体現者。
当の佐竹はって言うと、相変わらず目を細めて口元に突き出されたままの蓮華を睨んでいる。さぞかし不本意なんだろう。
そりゃそうだよね。
でも、ざまあみろ。
俺をこんだけ心配させた罰、ちょっとぐらい受けさせたってバチは当たらないよな? そうだよな?
「ね? もういいじゃん。観念して、口あけてよ」
「…………」
「せっかく温めなおしたのに、冷めちゃうしさー」
「…………」
「せっかく俺、頑張って作ったんだし」
「…………」
「ね? ひと口だけでいいから。それで絶対満足するから。約束するから」
「…………」
「ね? お願い、この通り!」
器を置いて片手だけで拝む真似をして見せたら、とうとう佐竹が目を閉じて頭を抱え、長い長い溜め息をついた。
……それから、一度じっと俺を見つめて。
そうして、徐に口を開いた。
(うわ! マジ!?)
俺、心の中でガッツポーズ。狂喜乱舞。
やったね!
今回は俺の勝ち。
「はい、よくできました。それじゃ、あーん」
俺はにやけてくる頬をもはやどうにもできないまま、
心から嬉々として、
蓮華を佐竹の口に近づけた。
了
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