うちのダンナはぽっちゃり男子

つづれ しういち

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2 慣れとはなんぞや

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 バルテルが持ち込んだ酒で盛り上がる古龍シェンは、酔うに従って外見が変化した。頭の上にツノが飛び出し、続いて肌に鱗が現れる。最終的には長い尻尾が揺れ始めた。バルテルの話だと、酔い潰れたら龍に戻るそうだ。

 本体が龍なので、正体不明になると元の姿になるのだ。その辺は魔族にも似たようなのが居たから分かる。

「ところで、ツノ……じゃなくて、えっとシドウ殿」

 シェンは多少怪しい呂律で僕を呼んだ。両手で干し肉を掴んで齧る琥珀の膝の上に転がる僕は、『なんですか』と尋ねた。声を出さないと聞いてるか、分からないだろうし。

「当代の魔王殿が勇者に倒されたとすると、数十年は動かぬであろう。なぜベリアルが彷徨いておるのか」

 ああ、なるほど。普段なら魔王が斃れると数十年は閉じこもって回復に魔力を注ぐ。その間は他の魔族も大きな動きはしない。なぜなら魔王はひとつのシステムだった。魔族の魔力は魔王の能力に比例する。魔王が玉座にいなければ、その間は魔族の能力が格段に落ちるのだ。

 掻い摘んでその話をすると、シェンは驚いた様子で目を見開いた。あれ? これって周知の事実で秘密じゃないよな?

「そのような事情、初めて聞いたぞ」

『そう、なのか? 皆知ってると思ってた』

 素で返した僕の右側で、バルテルが唸る。

「それであの魔族、ベリアルだったか。あいつも強気に出られなかったのか」

 威嚇はしたが、最終的には契約を持ち出した。つまり森人の集落を相手取って戦うのは不利で、今後に差し支えると判断したのだろう。

「バルテル、魔族を滅ぼすぞ」

「そうだな。盟約を破ろうとしたことだし、琥珀に危害が及ぶ。何より、こんなチャンスは二度とない」

 魔族……そんなに嫌われてたんだ。好かれる要素は見当たらないけど、滅ぼすほど憎まれてるとは知らなかった。

「他に何か情報はないか」

『逆に質問してよ、答えるから』

 僕としては琥珀が最優先だ。数百年に及ぶ孤独を癒してくれたし、僕を初めて人扱いした友達だった。幼子だから、今後は彼の成長を助ける庇護者でありたい。持っている知識や知恵が役立つなら、大いに活用して琥珀を守ってくれ。

「魔王に他に弱点はあるか」

『今の魔王は数十回の再生に耐えたから、もう交代時期だと思う。もしかしたらツノが折れたのも、そういう事情だったりして』

 今まで魔王の頭上にいて、何度か攻撃を当てられたこともある。だが一度も折れなかった。先が欠けたことはあったけど、あれもついこの間の話だ。弱体化している可能性があった。数十回も再生と破壊を繰り返せば、強靭な魔族の体も脆くなるはずだ。

「なるほどな……」

 考えられる。鍛治を行う森人バルテルは、己の経験に照らして納得した。

「新しい魔王が誕生する条件を知ってるか?」

『確か、魔力量だっけ』

 今の魔王を凌ぐ魔力を持つ、魔族が魔王を消滅させることで、次の王が生まれる。戦いは魔力をぶつけ合うシンプルな戦いで、故に魔力量だけが重要視された。技術や魔法の扱い方は要らない。

「そうだ。ならば、ツノのシドウ殿を持つコハクが次の魔王だな」

 シェンはにやりと笑った後、後ろにぐらりと倒れた。いびきをかいて寝ている。酔いが限界に達したらしい。

「おい、逃げるぞ」

 まだ肉を齧る琥珀を急かしたバルテルは酒瓶を掴み、反対の手で琥珀の手を握って走り出した。右手に肉を持つ琥珀が伸ばした左手に掴まれ、僕もかろうじて一緒に離脱する。

 ぐがぁああ! 大きな寝言が響いたと同時、洞窟の半分を埋める巨大龍が出現した。完全に酔うと元に戻るって、本当だったんだな。
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