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第三十八話 キオの覚え書き②

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 リウスは固い木の板が剥き出しの寝台にボクを押し倒した。
 背中が板に擦れてちょっと痛い。

 つい顔をしかめてしまったのだろうか、リウスがハッとしたように体を離した。
 「大丈夫か? 痛いんじゃないか?」
 「ん、ちょっとね。ゴメン、少しだけ待ってくれる?」
 止められないって言った矢先にゴメンね。

 ボクは服を脱いだ。
 この服、どうしても自分の魔力だけで服を作るのが難しかったボクに、ヴィオラ様がくれたものなんだ。
 ヴィオラ様の魔力で編まれた服で、ボクの魔力を足すことでどんな形にも変えられるし消すこともできる。変幻自在の素晴らしい服だ。
 多分、これを使えば今だけこの寝台をフカフカにすることは出来るんじゃないかな。

 脱いだ服に魔力を送り、ふわふわの寝具になるようにイメージした。
 ヴィオラ様の服はちゃんとそれに答えてくれて、真っ白でふわふわのマットレスに変わった。

 「出来た!」
 腰を掛けてみる。適度な弾力のあるマットレスは、柔らかくボクの体を受け止めてくれた。

 「お待たせ、リウス。続き!」
 リウスを振り仰いで両腕を差し出すと、リウスはなんかちょっとポカンとした顔をしていたが、すぐに我に返ってボクの手を取りつつ傍らに腰を下ろした。

 「お前こんなこともできるんだな」
 「兄さんも出来るんじゃない?同じ服をいただいたんだし」
 「オレは魔法はどうもコントロールが効かないんだ。いただいた形のまま、出すか消すかしか出来ない」
 そっか。リウスがずっと同じ格好でいるのは、他のデザインに変えることが出来ないからだったのか。
 そんな不器用なリウスがたまらなく愛しい。

 「ゴメンね、せっかくいい雰囲気だったのに、なんか台無しにしちゃって」
 リウスの厚い胸板にちょっと頬を寄せてみる。リウスのニオイと体温が心地いい。
 耳を澄ませば、トコトコとリウスの心臓が鼓動を打つ音も聞こえる。

 「いや、いいんだ。ちょっと頭が冷えた。あのまましてたらまた、お前のこと痛めつけてしまいそうだったから」
 リウスがボクの肩に腕を回す。

 「ね、兄さん。人間の仕方、知らないでしょ?ボクね、ヴィオラ様から少し教わったんだ。だからちょっとだけボクに任せてくれる?」
 「え、キオ、お前いつの間に……」
 ビックリしたように目を丸くして固まるリウスを、ボクは寝台に押し倒した。

 「兄さん、服、消して?」
 ポカンとしたままでボクを見上げているリウスの胸元をチョイと摘まむ。
 「あ、ああ」
 リウスの裸身が現れた。

 人間の体って、不思議だ。
 被毛が無いのも不思議だけど、被毛代わりの服を脱ぎ捨てた姿が美しくて頼りなくて、そしてとてつもなく官能的で。

 服が無くなるたけで雰囲気が変わる。
 犬のようにニオイで誘うわけでなく、普段隠してる肌を見せることで相手の発情を誘うのが人間なんだろうか。

 リウスは闇狗ダークドッグの時も美しかった。人の姿になっても変わらない。
 大きくて、引き締まってて、手足が長くて。

 うっとりとその肢体に見とれ、すべらかな肌に手のひらを這わせる。

 綺麗に盛り上がった胸のてっぺんにポツポツと二つ付いた小さな果実にそそられて、ボクは唇を寄せる。

 人間の乳首は、雄でも色まで変えて存在を主張してる。触って欲しそうに。

 ヴィオラ様が言ってた。人間の体は局部だけじゃなくていろんなところで気持ちよくなれるから、探してみるといいよって。

 きっとここがそうだ。
 チュッと吸った。
 それだけじゃ物足りない気がして、舌で膨らみを転がしてみた。
 舌先に当たる感触が楽しくて、更にクリクリといじめてみる。

 「……それ、人間のやり方なのか?」
 リウスが不思議そうに尋ねるけど、ほんの少し息が乱れてるの、ボク気づいてるよ。

 「多分そう」
 「多分?」
 「気持ちよくない?」
 「なんか、ムズムズする」
 「じゃ、もう少しガマンして」
 リウスの乳首への攻撃を再開するとリウスは小さく唸り、仕返しなのかその指でボクの胸のポッチを弄りだした。
 ボクが舌でやってる動きを指で再現してるみたいだ。

 「……は、ぁ」
 舐めながら思わず吐息が漏れる。

 なんか触られてるところが変だ。
 ウズウズしてギュッとなるみたいで、そのうちに触られてるのは胸なのに、なぜか股間にウズウズが飛び火していく。

 気がつけばリウスのソコも臨戦態勢だ。

 ヴィオラ様の言葉を思い出した。
 そうだ、解さないと。この状態じゃ、リウスはすぐに入れようとしてくる。

 ボクは自分の股間の奥に指を伸ばした。
 不自然な格好にリウスがすぐに気づいて尋ねてくる。
 「何してんだ?」
 「ここ、入れる前に指とか使って解しなさいって。そうじゃないと、痛い思いするからって」
 「ヴィオラ様が言ってたのか?」
 「うん」
 「キオ、来い。そこはもういい、オレがやるから」

 このままじゃボクのお尻にリウスの手は届かない。胸は離して上に上がって来いって手招きしてくる。
 ぷっくり固くなって立ち上がった乳首がちょっと名残惜しかったけど、せっかくリウスがその気になってくれてるから言われるままに這い上がってリウスの隣に体を並べた。

 リウスは両腕をボクの背に回し、両の手のひらで尻の丸みを揉みしだきながら片方の指を割れ目の奥に差し入れてくる。
 なんか、リウス、いつの間にこんなこと覚えたんだろう。
 ほんのちょっと悔しいような気分になる。
 せっかくボクがリードしてたのに。

 リウスは揉みながらボクの耳元に鼻を寄せニオイを嗅いでくる。

 「キオ、いいニオイがする」
 「いいニオイ?」
 「ああ、なんか、興奮する」
 なんだろ。雄だから発情臭はしないはずだけど。

 リウスの指がボクの尻の割れ目を探る。すぐに窄まりを探り当て、クイクイと指の腹で捏ねてくる。

 「……濡れてきた」
 嬉しそうに囁く。
 リウスが指で捏ねてるソコは、クチクチと音をさせるようになっていた。

 これも人間の体の機能なのかな。よくわからないけど、なんか、気持ちいい。

 ツプリと指先が侵入してくる。
 粘液で滑らかになったソコは、いとも簡単にソレを受け入れた。

 「……っん、ふ……」
 思わず声が漏れる。

 ボクの耳に興奮したリウスのフゥフゥという呼吸音と温かい吐息がかかる。
 リウスの興奮を写したように後孔の指はちょっと荒々しく中を擦り抜き差しされる。

 擦られるごと、粘液の量が増していく。
 どうしていいかわからなくて、思わずリウスの背に爪を立ててしまった。

 いけない、と思って手を緩めるよう意識するんだけど、擦られてるソコの感覚が堪らなくて、いつの間にかまたギュッと手に力が入ってしまっている。

 「キオ、いいから、気にすんな」
 あ、と思って手を緩めると、宥めるようにボクの腕を撫でてきた。

 「……ん」
 小さく頷く。

 奥を捏ねる指は増え、それに釣られるようにクチクチという音も増していく。
 リウスの荒い呼吸音がそれに重なって、もうなんだか音だけで達してしまいそうだ。

 「キオ、もういいか?」
 たかぶりきったリウスが指を抜き、熱い切っ先を押し当ててきた。
 声も出せずボクはただ首を何度も縦に振る。

 何これ。こんなの知らない。
 前されてたときは、こんな風にならなかった。

 リウスに促され、俯せに体を返す。
 早く欲しくて尻を高く掲げると、荒ぶったリウスがグイッと押し入ってきた。

 「────!!」
 声にならない。

 熱い、固い、大きい。
 ソレがボクの中をゴリゴリと擦ってゆく。
 リウスがボクの腰に乗り、激しく律動する。

 「あ、あ、あ」
 意識せず声が漏れる。
 思わずマットレスに爪を立てる。

 ソコの感覚が研ぎ澄まされて、リウスの陰茎の形まで感じ取れる。
 グッと張り出したエラがボクの中をグリグリと擦っていく。リウスはますますたかぶり、律動は更に早く激しくなっていく。

 「あ、あ、や、何これ?スゴい、何かでそ……!!」
 「いいよ、イッちまえ。オレも……」
 リウスの大きな手のひらがボクの張り詰めたものの先を包んだ。

 ボクはリウスの手のひらにそれを吐き出した。
 全身を貫く激しい快感。
 内側に感じる熱い飛沫。

 やがて、甘い溶暗が訪れた。



 多分、意識を失ったのはほんの一瞬だったんだろう。
 気がつくとリウスは自分の手をペロペロと舐めていた。

 「……何してるの?」
 ボクの予想が正しければ、それはさっきボクが出した……。

 「お前の子種」
 あああ!!
 その返答に頭を抱える。

 「何してんの、そんなの舐めないでよ!」
 「何で? すっげえ上質な魔力を含んだ濃厚な体液だぜ? ちと味とニオイに癖はあるけど、血とそう変わりないよ」
 尻尾を振りそうな顔で言う。

 「優秀な魔術師の魔力を取り込んだら、オレも魔法がもうちっと上手くなるかもしれないしな」
 「……それはないと思う」
 答えてから、ん? 待てよ? と考える。
 ヴィオラ様は出した体液が魔石化するほど濃厚な魔力を持ってるんだよね?
 で、ヴィオラ様の魔力を取り込んだ魔物は進化する……。

 考えるのよそう。それは魔王のヴィオラ様だから起こることで、ボクの魔力なんて取り込んだって少し魔力が回復するくらいの役にしか立たない。

 リウスは汚れた手を綺麗に舐め尽くしてしまったらしく、ブンブンと振られる尻尾が見えそうな笑顔でボクに覆い被さってくる。

 「な、キオ。もう一回しようぜ。今度はオレがするからさ」
 ……さっきだって途中で主導権をボクから奪ったクセに、と半目で睨む。けど、重ねて「な?」と頼まれ、折れた。
 というか、正直ボクももう一度したい。
 あんな気持ちいいの、初めてだった。衝撃的過ぎて、なんか細部の記憶が曖昧だから今度はきちんと覚えておきたい。

 「……しょうがないな、いいよ。好きなようにしてみて」
 ボクは手足を投げ出して横たわった。
 「よし!」
 幻の尻尾を振りまくり、リウスがボクにのしかかってくる。

 結果、ボクは好きなようにさせたことをちょっとだけ後悔した。

 全身くまなく「そんなところまで?!」って思わず声を上げてしまうようなところまで舐め尽くされてボクばかり何度もイかされ、トドメにあの逞しいモノで激しく突き上げられ、気絶するように意識を失う羽目になったのだから……。



 狭い寝台に二人で抱き合って迎える甘やかな朝は、不躾な訪問者によって打ち破られた。

 「リウス様、キオ様、誰か来たよぉ。『早く結界を解かないと獣魔王様に対し敵対の意志ありと見做して攻撃する!』とか言ってるけど返事する?」
 黒い蝶の羽を持つ小さな妖精──ヴィオラ様が時々伝言に使ってる手紙の妖精だ。名前は知らない。

 ちっちゃな手でペチペチと僕らの頬を叩いて起こしてくれた。攻撃の意志を持たない訪問者が来た場合はこうして妖精が伝言を持ってくる。

 もし問答無用で奴らが攻撃を仕掛けて来た場合、ボクらは結界に仕掛けられた攻撃の一部を擬似的に与えられるという甚だ不愉快な形で起こされることになっていただろうから、一旦待ってくれたのは正直有り難い。

 「『すぐ行くから暫し待たれよ』と」
 妖精に伝言を託す。

 「リウス、ゴメン、ちょっとだけ時間稼ぎしてくれる? ボク、ゴーレムを隠してくる。あれをアイツらが見たらまた獣魔王様への反逆を企ててるとかなんとか言ってうるさそうだ!」
 「おお、わかった」
 「リウス、くれぐれも手は出さないようにね」
 「自信はねえな。あんまり遅くなるようだとぶっ飛ばしちまうかもしれねえ」
 「すぐ戻るよ! 一応念話を繋いでおいて。ヤバそうなら戻るから」
 「わかった」
 頷いていつもの服を纏ったリウスがダンジョンの外へ向かう。

 ボクは寝具を服に戻しつつ、先に洞窟の奥へ向けて遠吠えを放った。
 『訪問者有り。敵ではないが警戒状態は維持』というメッセージがこれで伝わる。
 奥から了承を告げる遠吠えが各群れごとに返ってくる。

 ボクは洞窟の各部屋に向かい、それぞれのゴーレムに隠形状態になるよう命じる。
 これはこのダンジョン管理者に与えられた権限で、もともとこのゴーレムは幾つかの姿に変われるように設定されていた。隠形はそのうちの一つだ。隠形状態に移行したゴーレムは完全に壁と同化して見えなくなる。
 もともとは冒険者への奇襲攻撃を想定してたんだけど、今はこの設定をしてくれていたヴィオラ様にひたすら感謝だ。

 全てのゴーレムを隠形状態に変え、ついでに『もしヤツらが暴れたら攻撃してもいいんだろう?』と戦闘を期待してソワソワしてる狼たちをなだめ、ダンジョンの入口にとって返した。

 『朝っぱらからなんだよ』
 『言ったであろうが。この洞窟を我ら獣魔族で改めると』
 『ふうん。こんな夜も明け切らねえようなクッソ早朝にいきなり突っ込んでくるのがお前らのやり方なのか?」
 『予告ならしていたであろう。こちらの都合が付き次第来るという意味だったのだから、迎える用意が整っていないのはそちらの不手際だ。さっさと通せ!』
 『別にいいけど、犬たちだって寝るんだよ。寝起きにそんなブサ……知らないツラ見たら、ビックリして攻撃しちまうかもしれねえだろ?ココロの準備ってもんが必要なんだよ。野蛮なケモノ魔族にはわからねえかもしれねえけどさ』

 リウスからはこんなやりとりが伝わってきてて、リウスにこのまま対応を任せておくと本当にあそこで戦闘に入りかねない。

 ボクは既に一触即発状態のリウスと訪問者の間に割って入った。

 獣魔族は三人、昨日来た不愉快な男と、後ろにソイツより更にチビの猫背男が二人。
 リウスが腕を一振りしたら吹っ飛んでしまいそうなヤツらばかりだ。

 「獣魔王様の使者殿ですね。先にこちらのリウスが申し上げた通り、準備せぬままお通しすれば、犬たちが外敵が来たと勘違いして攻撃してしまう恐れがあったためお待たせすることになってしまいまことに申し訳ありません! 準備が整いましたのでご案内いたします」

 僕は返事を待たず、獣魔族の使者の前に立って歩き出す。ちゃんとついて来たようだ。
 念話でリウスに『ヤツらの後ろに着いて!』と送り、了承を得る。

 あまり余計なところは見てほしくない。例えば、この店みたいなのはなんだ、とか。
 もし本当にそう聞かれたら多分リウスが「店だが?」なんて言ってしまいそうだ。

 一応聞かれた場合の答えは用意してるけどね。街道沿いという場所柄、ただの魔物が棲む洞窟ではいずれ人間たちが問題視してくるだろう。入口に店を開くことで、中の魔獣たちが無害であることをアピールする意図があるのだ、と。

 それで納得するかどうかは知らない。それでも納得せずにギャーギャー言ってくるようなら、ヴィオラ様とレイチ様に後の対応を丸投げするつもりだ。僕らがするのは一次対応だけでいいはずだし。
 ボクだって実はそんなに我慢のきくほうではない。あまりに失礼なことを言われれば、洞窟の天井から礫が降ってきた風を装って《石弾》とか飛ばさずにいられる自信はないんだ。

 結論から言うと、連中は大人しかった。
 中を見て回って、犬たちしか居ないのを確認して「ふん、これだけか、ほんとうに犬が住むだけの洞窟のようだな」などと言っていた。

 店のある入口スペースを通るときに何か言われるかとちょっと緊張したけど、まだ棚しかないせいか特に何か言うことはなく、ただ「妖魔王や供の人間はどこで休むのだ?」と尋ねてきた。

 何か企んでいそうだ。
 仕掛けるつもりなら仕掛けさせよう。それで後で調べればいい。そちらの方がヤツらの意図を読める。

 ボクはとっさに「普段こちらでは休みませんが、時折あの寝台で仮眠を取られることがありますよ」と嘘をついた。

 使者たちはそれを信じたのか、そっちに行って寝台を確認する。勿論ボクは真横にピッタリくっ付いている。

 蝙蝠男はペタペタと寝台を触り「つまらん、ただの粗末な寝台ではないか」と吐き捨てていた。何を期待してたんだ?
 因みにそれ、さっきまでボクとリウスが抱き合ってた寝台ですけど?

 去り際に素早く寝台に目を走らせる。特に見た目に変わった様子はないが、少しおかしなニオイがするような気がする。
 お二人が戻られたら、調べてもらおう。

 「獣魔王様との謁見の日取りはまだ未定だ」
 そう言って、とことん不愉快な獣魔族の使者団は去って行った。

 はあ。甘い気分が台無しだ。

 ボクは主らに念話を送った後、犬たちに訪問者が去ったことを伝える。
 そのうちにノームたちがやってきて、またいつもの日常が始まる。

 今日の狩りはどうしようか、出来ればこのダンジョン内である程度食料が調達出来るようになると良い。
 そんなことを話したりしてるうち、二人の主が帰還した。
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