上 下
29 / 95

第二十九話 犬顔ゴーレムと小人の店

しおりを挟む
 ヴィオラはサクサクっと土ゴーレム七体を作成し、各部屋に配置した。

 デザインについて相談され、すっげー安直な発想で、犬のダンジョンに置くゴーレムだからコボルトでいいんじゃね? ということで、犬頭の半獣人を提案してみた。

 こっちの世界には犬の獣人がいるが、それは耳と尾のみ犬で九割人間のいわゆる萌えキャラ的獣人で(男もいるけど)、犬頭はいないんだ。

 なのである意味幻獣と言えるのでは?と思っての提案だったがあっさり採用され、完成した土(と言うよりは粘土)ゴーレムは、闇狗ダークドッグの頭を持ち、ムキムキマッチョで半裸の変態に仕上がった。

 まあベルベットのような漆黒の短毛に包まれているので、半裸というと語弊があるかもしれないが。

 これが本当に、粘土製だとはとても思えないリアルな手触りの毛皮なんだ。
 この質感を出すために少し多めに魔力を含ませたっていうヴィオラの話で、人から絞った魔力をそういうことに浪費するのかと若干苦い気分になったのだが、まあ良しとしよう。

 これ、あまりにリアルで多分ゴーレムだと気づかずに話しかける人が出てくると思うよ。

 喋るとゴーレムなんだけどね。
 お決まりの定型文を繰り返すだけだから。

 内容は、一にこの先は非公開エリアであること。
 二に、但し従魔を得る意志を持つ者とその仲間のみ立ち入りを許すが、戦闘行為は一切禁止とすること。
 三に、闇狗ダークドッグは人の血を好む魔獣で、例え子犬であっても噛むためこの先に立ち入る際は充分に注意せよ。
 四に従魔契約の際は契約したい魔獣にのみ数滴の血を与えよ、そして契約した後は定期的に同量の血を与えよ。
 以上の文言を話すだけのゴーレムだ。

 ところでこのゴーレムがイケメンだと闇狗ダークドッグたちの間で評判らしい。子どもたちの中には、将来進化したらこのゴーレムみたいになれると信じているのがいるようだとのリウスとキオの報告に、ヴィオラがちょっと微妙な顔で唸っていた。

 「新しい魔獣を誕生させそうだな、妖魔王」
 「……もういっそ、獣魔王と友達になりたいんだけどムリなのかなぁ?」
 ヴィオラが渋い顔をする。

 まあ、友達なら闇狗ダークドッグの新しい進化先として提案して、あとは向こうに丸投げしてもいいんだもんな。

 いまだにちょろちょろと影が見え隠れするだけで、直接の接触が無いんだよな。何を考えてるのかサッパリわかんねぇ。
 そんなヤツと友達になれるのかと尋ねられたら、俺は「友達なんぞ、全くもってなれそうな気がしねぇ」と答えるしかない。

 「ただ、一遍話をしてみるのはいいかもしれないな」
 「こっちから出向いてしまおうか。まあ、その前にこっちを完成させないといけないけど」
 「──だな」
 ヴィオラの言葉に俺は頷いた。

 もう向こうの反応を待つのは飽きた。
 友達になるのが無理だったとしても、適度な距離を保ちつつ当たらず障らずの関係を築くことはできないのか? 是非確かめてみたい。

 「ほんとはさ、人間を守る妖魔の王と獣を守る獣魔の王は隣同士の関係で、協力しあってたはずなんだ」
 ヴィオラが少し寂しそうに呟いた。

 「噂の範囲だけど、今の獣魔王は友達になってやるかわりに誠意の証にワイズスライムを寄越せなんて言ってきかねないヤツらしいからな」
 「スライムを根こそぎ狩り集めてるらしいところからして、その要求をしてくる可能性はかなり高そうなのが嫌なんだけど……スライムをアイテムみたいに考えてる時点で、もう解り合えそうにはないよね」

 妖魔族とスライムの関係を思えば、もっともな意見だ。

 「まあ、本人がいないところでいくら非難をしたところで何の解決にもならないけどね」

 獣魔王と直接話し合いの機会を持つという決意を、ヴィオラは固めているようだ。

 とにかくいちど、古い方の大ダンジョンに赴く必要があるだろう。今ある情報で、獣魔王の身内と接触できそうなのがそこしかないし。

 「ところで、レイチ、相談なんだけど」
 「──なんだ?」
 真面目な顔のヴィオラを振り返る。

 「戦闘で負けて仮死状態になってる仲間を連れて出ようとしてる冒険者をここで引き留めるようにしたいんだけど、何かいい方法ない?」
 ヴィオラが腕組みをして足を止める。

 新ダンジョンの入口を入ってすぐのところに、ヴィオラはかなり広めの空間を作らせていた。

 っていうか、もう俺の日本人的発想で考えると、ここに受付カウンターがあるイメージしか出てこないんだよ。中が体験型アトラクションみたいだって感想を持ってしまったせいで。

 「いっそ、ここで回復ポーションでも販売したらどうだ? で、売店の店員にここで薬を使えば死んだ仲間が生き返るって説明させるんだ」
 「……それは、凄く効果がありそうだけど、ちょっと阿漕だよね」
 ヴィオラが真顔で唸る。

 「阿漕か? 自分らの手持ちのポーションがあるならそれを使えばいいんだから、そうズルいこともないだろ?」
 「まあ、そうかもしれないけど」
 「そうだな、ここの売店のポーションは正規の値段より三割増しくらいに設定しておこう。ここに来るのはD級以下の連中ばかりだろうから、きちんと準備して行くことの大切さを教えてやるんだ。回復関係は多めに持って行くってのは、冒険者の基本だからな」
 「……レイチ。僕、レイチのこと見直したよ。レイチって商人だったんだね」
 ヴィオラが呟くように言った。

 ……見直したんだから、いいんだよな? なんか表情がドン引きしてるように見えるんだけど、気のせいか?

 「魔力回復ポーションも置いといたほうがいいな。魔術師に回復させる連中もいるだろうし、そうすると戦闘で魔力を使い切った魔術師が補充しようとするだろうからな」
 「……」
 「ヴィオラ、売り子の当てはあるのか?」
 「……ん?あ、ああ、あるよ。ノームにやらせよう。彼らは金銭感覚も鋭いから、問題ないだろう」
 「オーケー、魔獣のテイムをさせるなら、ここに首輪とかのアイテムを置いてもいいかもしれないな」
 「ノームは細工物を作るのが得意だから、多分張り切って作るんじゃないかな」
 「おー、いいね! あ! カウンター作るなら、さっきキオが作った石材があるからあれ使えばいいよな。……おーい、リウス、キオ! ちょっと石運ぶの手伝ってくれるか?」
 俺の呼ぶ声に応じて奥からリウスとキオの二人がやってくる。
 俺が指した方を見て頷いた。

 「ああ、あれだな。ここに持ってくればいいのか?」
 「ああ、まだどう配置するのか決まってないから、とりあえずここに積んで置いてくれ」
 「わかった」
 「ボクもやります!」
 キオもリウスの後を追ってそそくさとダンジョンを出ていく。

 「土産物屋もあるダンジョンなんて、至れり尽くせりだな! ……ん、どうした、ヴィオラ?」
 「いや、レイチの意外な顔を知れたな、と思って」
 「意外か? 一般の旅人を招くなら、このくらい普通じゃないか? なんなら食い物屋もあるといいな」
 「……僕はまだ、人間のことをあまり知らなかったみたいだ」
 ヴィオラが呆然とした面持ちで呟いた。

 ……俺、何か変なことしたか?



 ヴィオラがノームを召喚して仕事内容を伝えると、ノームたちはノリノリで引き受けた。

 自分たちで作ったアイテムを販売してもいいという許可を出し、販売額に応じた報酬を与えると約束したからだ。
 具体的には売上利益のうちの五十パーセントを彼らの利益として支給することになる。

 もし料理を作って出してくれるなら、販売用とは別にノームへの賄いとして酒を差し入れることも約束した。

 ノームはブラウニーとちょっと似てるが、背中は真っ直ぐだ。とんがり帽子を被った身長七、八十センチくらいの小人で、男は白髭を蓄え女は福々しい頬をした、まさにおとぎ話に出てくる小人そのものの姿をしている。
 これが店番をする商店なんて、癒やしでしかないだろ。

 こうなると、どうしても作ってほしい施設がある。
 トイレだ。

 食事をしたら催すのはごく自然な生理現象だ。大勢の人間がやってくるならそこの問題をどうにかしておかないと、衛生上大変なことになる。

 そんな俺の提案で、リウスとキオに再び魔獣形態になってもらい新たにトイレ用の小さい洞窟を掘ってもらった。

 男女別で魔獣除けの結界付き、更に便壺内には《土作成》の魔法陣をヴィオラが設置した。これで排泄物が分解されて普通の土になるらしい。
 排泄物に含まれた魔力で使用毎に魔力が補充されるため魔石も必要無しという、省エネの観点から見ても素晴らしいトイレだ。

 産出された肥沃な土はノームが定期的に運び出してくれる。
 ノームが畑の肥料として持ち帰りたいということだったので、ヴィオラが許可してやっていた。と言うか、逆に有り難い。
 採れた野菜を販売する料理に使ってくれるそうで、見事なエネルギーの循環が成立して俺はちょっと感動を覚えた。

 公衆トイレ付きだよ! こんなダンジョン、他にないだろ!

 いや、マジな話、トイレ問題って結構大変なんだよ。平常心で野○ソできるっていうのは冒険者の必須スキルだ。
 ここをクリアできないと、まず街から出られない。
 魔術師だって、魔力を無駄遣いできないからな。貴重な魔力をトイレで捨てるわけにはいかないから、やっぱり野○ソだ。

 そんな冒険者たちを救う、公衆トイレ! しかも無料! こんなの俺も使いたい!

 って言うか、トイレ目当てでここを通る旅人が皆立ち寄ることになるだろ、間違い無く。
 つまり、ここはパーキングエリアなんだ。

 軽食が摂れてアイテムの補充もできて更にはダンジョンで遊べる!
 一夜城じゃないけど、たった一日で凄いスポットが誕生しようとしているな。

 「大儲けの予感しかしねぇぞ。凄いな、ヴィオラ」
 「いや、大儲けについてはほぼ、君とノームで仕掛けてることだよ」
 ヴィオラが苦笑する。

 「妖魔が人間と遊ぶダンジョンなんだろ?それなら人間が立ち寄りたくなるものを用意しないといけない、結果的に金が入ってくる、それだけの話だ」
 「うん。僕は人間のことをあまり知ってなかったからね。穴掘って魔物を用意すれば人間が来るんだろうくらいにしか考えてなかったから、レイチがいてくれて良かったよ」
 「餅は餅屋、人間のことは人間に聞け、だ」
 ちょっとドヤ顔でふんぞり返ってやった。
 従魔が有能過ぎて主の影が薄かったけど、やっと役に立ったよ。
 戦闘じゃなくて商売だけど。でも考えようによっちゃ、これこそが人間の一番の武器なのかもしれない。

 ダンジョン入り口の部屋では、ノームたちが早くも店作りを始めていて、リウスとキオに石材を運ばせたり自分たちの地魔法で何かを作ったりしていた。

 「ここは任せておいて良さそうだね。じゃあ僕は第二層への入口を設置してこようかな」
 ヴィオラが洞窟の奥へと足を向けた。
 俺もそっちについて行くことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

男子学園でエロい運動会!

ミクリ21 (新)
BL
エロい運動会の話。

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

美しい側近は王の玩具

彩月野生
BL
長い金糸に青目、整った顔立ちの美しい側近レシアは、 秘密裏に奴隷を逃がしていた事が王にばれてしまった。敬愛する王レオボールによって身も心も追い詰められ、性拷問を受けて堕落していく。 (触手、乱交、凌辱注意。誤字脱字報告不要)

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

処理中です...