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第十七話 ある魔犬の独白

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 どうして、こうなっちゃったんだろう。

 ボクにのしかかり、何度も腰を打ち付けてくる兄さん。もう何度も倒れてるのに、目覚めるとまたふらつきながら行為を始める。

 幾度も幾度も魔力を注がれて、ボクばかり元気になっていく一方、兄さんはもう体力も魔力も限界だ。

 兄さんが倒れて意識を失ってる間に狩りに出るけど、ひとりじゃ狩れるものなんてせいぜいスライムくらいだ。スライムじゃ体力は回復できないけど魔力の足しにはなるから、できるだけスライムを獲って兄さんに届けてあげるのが、この数日の日課だ。

 けれど、最近はそのスライムもあまり口にしなくなってきた。
 目を覚ますとまずボクを探す。そしてボクを見つけると、ふらつきながらまた、のしかかってくる。

 このままじゃ、兄さんは死んでしまう。
 いや、もう、いつ死んでもおかしくないかもしれない。

 こんなことになったのは、あの人間の魔法使いと会ってからだ。ボクらの方が戦いを挑んだわけで、魔法使いはそれを退けただけだ。ただ、その退けた魔法が普通の人間が放つ火とか氷とかが出るやつじゃなくて、みんなを一斉に発情させるものだったんだ。

 みんな死んだ。
 正確には、後から来た別の人間に殺された。交尾後の繋がって動けないところを狙われた。
 ボクらはオス同士だったから、動けなくならなかった。すぐに逃げることができて助かったんだけど、実は助かってなかったんだ。

 あの人間の魔法は、時間が経っても解けなかった。
 あれから兄さんはずっと発情して狂ったままだ。

 洞窟に帰りたい。
 みんなで暮らしてた洞窟。

 時々人間が来て、戦って、倒したり倒されたりしてたけど、あんなに怖い魔法を使う人間はいなかった。

 あの洞窟ではボクら魔物は人間に倒されても少しすれば体が再生してまた元に戻ってたから、ボクらは本当に安心して暮らせていたんだ。

 ボクは洞窟で生まれて洞窟で暮らしてたから、体が再生するのは魔物なら当たり前でみんなそうなんだと思ってた。それは洞窟だけで、洞窟の特別な魔法なんだってことを知ったのは、そこを出てからだった。

 ある日すごく強い魔族が来て、ボクらを洞窟から追い立てた。

 追い出す時に囁いたんだ。
 東に向かえと。

 囁かれるままにボクらは東に向かった。
 そうしたら強い魔力を感じ、ボクらはなぜか皆その魔力に向かって行った。

 今思うとおかしい。
 だって、あんなに強い魔力を放つヤツなんて人間だろうと魔物だろうと敵いっこないんだから、いつもならむしろ逃げてたはずなんだ。
 それなのに、あのときはなぜか皆、まっしぐらにその魔力に向かって行ってしまった。

 その結果が、これだ。

 帰りたいよ。
 帰りたい。

 皆んながもう戻ってこないなら、せめて兄さんだけでも戻ってほしい。

 優しかった兄さんに戻ってほしい。

 ボクはいつものように、兄さんに尻を犯されながら、そんなことをずっと考えていた。

 もう今はさほど辛くもない。兄さんは体力が無くて、すぐに倒れてしまうから。
 少し休んでほんのちょっと回復した体力と魔力を全部ボクを犯すことに使ってしまうから、それほど長くは保たないんだ。

 今だってそうだ。
 目を覚ましてボクを見つけて上に乗り、何回か腰を使うと直ぐに魔力を放ってまた意識を無くす。

 ボクは散々兄さんに魔力を与えられたせいかもう魔法はすっかり解けていて、体も問題ない。強いて言えば、少し尻がヒリヒリするくらいだ。

 眠っている兄さんはやせ衰えて、骸と見紛うくらい酷い有様だ。

 なんとかしないと。

 あの魔法使い。
 きっと、彼なら兄さんを助けられる。
 彼らはスライムを連れてた。きっと、魔物使いなんだ。それなら、服従の意を示せば助けてくれるかもしれない。

 ボクはねぐらに使ってる木の洞から出て、いつものように周囲の気配を探った。

 地上は獲物が少ない。
 洞窟では魔虫や大鼠が沢山獲れたのに、地上ではさっぱりだ。ボクも最近口にするのはスライムくらいで、しかもそのスライムもなかなか居なくて、兄さんのことを言えないくらい痩せてしまっている。

 肉を食べたいけど、今のボクにはもう鼠や兎なんて追う体力は無いと思う。

 その時、強烈な魔力を感じた。
 あの魔法使いより、もっともっと大きい魔力。

 どうしよう?行ってみる?
 ただボクが食われて終わるかもしれない。

 でも、このままにしていてもどうせ兄さんはすぐに衰弱死して、ボクは獲物が獲れずに飢えて死ぬだけだろう。
 どうせ死ぬなら、可能性に賭けてみたい。

 ボクはその、強い魔力に向けて走った。
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