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第八話 二人の夜とヴィオラの進化

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 夜中に俺は目を覚ました。
 高確率でって言うか、今のところ十割の確率で、起床時に淫魔が股間にしゃぶりついているのだが。

 「──んッ」

 例外はなかった。もしかして寝てる間ずっとしゃぶってるんじゃないだろうな。
 俺は下半身に視線を落とした。そこで俺のモノを口に含んでいるのは、凛とした面差しの美丈夫──ではなかった。

 「ヴィオラ?」
 「レイチ、起きた?」
 唇を卑猥に濡らし、亀頭に触れさせたまま淫靡に微笑んだのは、華奢で可愛い、少年っぽい姿の淫魔だった。

 「やっぱりレイチ、この姿の方が好きなんだね。最近、僕を見る目がちょっと寂しそうなの、気づいてたんだ。僕ね、レイチに見せた姿、どれにでもなれるんだよ。ただ、戦うのに一番力を振るいやすいのは大人の姿だから、普段はこの姿は取らないけど」
 「そう、か。もう二度とこの姿のお前を見られないのかと、思ってたよ」
 「えっちは見た目も大事だからね。好きな見た目の相手とするほうが興奮するでしょ?」
 俺は跳ね上がる吐息を噛み殺した。
 「そう、だな」
 会話しながらもヴィオラの手はくちゅくちゅとそれを扱きたてている。気持ち良くて、思わず腰がピクピクと手の動きに合わせて動いてしまう。

 ヴィオラが再びそれを含もうと唇を寄せるのを、額に手をやって止めた。
 「レイチ?」
 不思議そうにこちらを見るヴィオラ。
 「ヴィオラ。──抱きたい。いいか?」

 花がほころぶようにヴィオラは微笑んだ。
 「嬉しい。いいの?」
 「ああ。お前が、欲しい」
 欲情に声が掠れた。一度諦めたせいだろうか、不意に現れたかつての姿のヴィオラに、もう衝動を抑えることはできなかった。

 俺は体制を入れ替え、ヴィオラの上に覆い被さった。
 頬に手を這わすと、紫色の潤んだ瞳が俺を見詰めた。
 「レイチ」
 俺を呼ぶヴィオラの声が、微かに震えている。その声を、吐息ごと飲み込んだ。

 「ん……」

 軽く触れ、離す。
 瞳を合わせ、もう一度、艶めく果実を啄むように、食む。
 舌で唇をなぞると、誘い込むように開いて、そのはしたない舌が俺に絡みついてきた。
 くちくちと音を立てて、互いの舌を絡ませ合う。
 ヴィオラの両腕が俺の背に回った。
 俺はヴィオラの舌を味わいながら、指先で胸の蕾を摘んだ。

 「……ッん」

 ヴィオラの吐息が跳ね上がる。
 触れるか触れないか、というギリギリのフェザータッチで、その蕾の先端をくすぐる。

 「……んんッ……」

 ヴィオラが堪らぬ様子で身悶える。
 舌はいよいよ深く絡みつき、いっそ俺を飲み込んでしまいたいかのように奥へと誘い込む。
 クリッと乳首を転がすと、ヴィオラの体は両足まで俺に絡みついてきた。

 「ああン、レイチ……気持ちいいよ……もっと」

 唇を離すと蕩けきった瞳までも、俺に絡みついてきた。
 キスと乳首の刺激だけでこれだ。溺れるな、という方が、無理だ。

 もっと啼かせてやりたくて、乳首に唇を落とした。唇で摘み、舌で転がし、翫ぶように弾く。そのたびにヴィオラはいい声で啼いた。

 乳首を舐め転がしながら、片方の手を、脇腹を撫で下ろしながら下へと滑らせていく。

 プラチナブロンドの陰毛が薄っすらと茂っている向こうに、綺麗なピンク色の陰茎がピンと反り返っているのが見えた。

 美しい少年めいた姿の彼が前を張り詰めさせている姿は、堪らなく淫靡で刺激的だった。

 その瞬間、堪らない衝動が体中を駆け巡った。瞬時に高まる射精感。

 ……ダメだ。一回出しておかないと、保ちそうにない。

 俺は痛いほどに張り詰めた赤黒い己のモノを、ヴィオラのピンク色の愛らしいペニスに擦りつけた。

 「あ、あ、あッ……!レイチ、レイチ!気持ちイイよ!あ、あッ!!」

 ヴィオラは俺の背を掻きむしり、その細い腰を俺にグイグイと押し付けてきた。二人の体の間で二本のペニスと二組の陰嚢が揉みくちゃになる。

 俺はより強く接触させたくて、二人のソレを纏めて握りこんで擦りたてた。

 「レイチ!レイチ!気持ちイイ!イッちゃうッ……!!」
 「イけ、ヴィオラ。俺もイク……!」

 ヴィオラは身を震わせ背をのけ反らし、俺の背に爪を立てながら達する。それに合わせて俺も放った。

 束の間、互いの荒い呼吸音だけの静寂が訪れる。俺はヴィオラを潰さないよう、その傍らに身を横たえた。

 ヴィオラは幸せそうに目を閉じ、深い呼吸を繰り返していたが、ふと我に返ったように目を開くと、自分の体を見下ろした。

 「おつゆ……」

 己の腹から胸にかけて散った二人分の精液を指で掬い取り、口に運ぶ。
 その姿に思わず吹き出した。

 「ヴィオラ、お前、ほんとブレねぇな」
 「大事なゴハンだもん、無駄にはできないよ」
 「そうだよな、これでお前、大きくなったんだもんな」
 俺の身長を追い越すほどにな、とは言わないでおいた。

 「レイチ、これで終わりじゃないよね?」
 精液を舐めながら小首を傾げて俺を見る、
 「──もちろん」
 俺は微笑って言いながら、ヴィオラの額に唇を落とした。

 一回出したから、ちょっと余裕がある。
 俺は自分の指に唾液を纏わせると、ヴィオラの下肢を割って奥へと差し入れた。

 「あ、レイチ……」
 「……怖いか?」
 尋ねると、ヴィオラはふるふると首を振った。
 「嬉しい。レイチのおつゆ、僕の中にちょうだい」

 後孔に指を差し入れながら、ヴィオラの唇を再び貪った。
 舌を絡ませるリズムと、後孔内を探る指の動きがリンクする。重なる唇を割って漏れるヴィオラの喘ぎがそれに重なる。

 ピクッとヴィオラの体が跳ね上がる。
 同じ場所をなぞると、再び三たび、しなやかな体が跳ねる。
 ぷくりと可愛らしいペニスが膨らんで、ピンと勃ち上がる。

 「レイチ……」
 唇を離すと、ヴィオラははぁはぁと息を弾ませながら俺に目線で傍らを示した。そこには紫色の星を抱いたスライム。
 「ヴァスの粘液、使って?」

 俺はほんの一瞬だけ、真顔になった。
 閨のお供をさせるためにペットにしたスライム。そういう使い方をするのか、と。

 「そう言えばスラサンは……」
 「スリープの魔法で眠ってる」
 ヴァスの反対側に、微動だにしない粘体があった。ちょっとホッとしつつ、意識をヴィオラに戻す。

 ヴィオラの求めに応じて、一旦後孔から引き抜いた指をヴァスの表面になぞらせると、粘っこい粘液が指に絡みついてきた。これはたしかに、ローションに使えるな。
 せっかくなのでたっぷり指に纏わせて、二本に増やした指を差し入れる。スルリと抵抗なく飲み込まれた。

 「あ……」
 ヴィオラが小さく喘ぐ。

 俺は後孔を弄りながら、ヴィオラの屹立を口に含んだ。こういう経験はないけど、不思議なほど抵抗は無かった。毎日のようにヴィオラにされてるように、とはいかないものの、それを思い出しながらちゅぷちゅぷと音を立てて舐めた。

 「ああ、レイチ……」
 ヴィオラがぎゅっと俺の頭を掴み、髪を握り締めてくる。

 拙いフェラでも、舐めてるこちらが気持ち良くなるほどいい反応をくれるから、つい夢中になってもっともっとと貪り舐めてしまう。つられて後ろを抉る指の動きも激しくなり、三本目の指を差し入れる。

 「あ、あッ……レイ、チッ……」

 細い体を身悶えさせながら、両の太腿で俺の頭を挟みこんでくる。

 「ああッ……ダ、メ、イッちゃぅ……!」

 ビクッビクッとヴィオラの腰が二度三度跳ね上がり、俺の口内に温かい液体が満たされた。射精が収まったのを見て、柔らかくなったペニスから口を離し、口内のものを嚥下した。不思議に嫌悪感はなかった。なんなら美味いと思ったほどだ。

 ヴィオラが達しても後孔の指は構わず中を擦り続け、ヴィオラも声を上げながら身悶える。
 一旦萎えたモノもまたすぐに勃ちあがった。
 後孔に差し入れた三本の指が楽に動くようになったところで、指を引き抜いた。

 「レイチ……」
 ヴィオラが艶めいた視線を俺に投げる。
 俺は見せつけるように、すっかり力を取り戻したペニスにスライムの粘液を擦りつけた。

 ヴィオラが誘うように体を開く。
 「レイチ、来て……」

 招きに応じて俺はヴィオラに覆い被さり、奥まったそこに俺自身を埋めていった。

 「ああぁ……」

 ヴィオラが吐息混じりの喘ぎを漏らす。
 根本まですっぽり飲み込ませたところで、少し動きを止める。

 「ヴィオラ、キツくないか?」
 ヴィオラはふるふると首を振った。
 「気持ちいい。動いて、レイチ」
 「ああ」
 俺は欲望のままに律動を開始した。

 はじめはゆっくりと。さっき指でしたとき反応していたところに強く当たるように動かす。

 しどけなく下肢を開き、切なげに眉根を寄せ、それでも瞼を閉じることなく、潤んだ瞳で俺を一心に見つめるヴィオラが、どうしようもなく愛しくてならなかった。

 「……あ……あ……ンッ」
 小さな声で、絶え間なく喘ぎを漏らし続けている。

 俺を包む粘膜が、きゅうきゅうと吸い付いてくる。突き入れれば亀頭に吸い付き、引き抜けば雁首に絡みつく。はじめはヴィオラのいいところを……なんて考えていたが、すぐにそんな余裕は失った。

 「……あ、あ、あ、レイ、チッ……気持ちい……あ、あ、あ、ンッ」

 ヴィオラが俺の背を掻きむしる。俺の律動に合わせてその腰を揺すり、パンパンと激しく肌が打ち合わされる。
 突き上げるたびにヴィオラのペニスが頭を振り、先走りを散らす。

 ヴィオラが一際高い声で啼いた。
 「あ、あ、あッ、レイチッ、も、出ちゃう……!!」
 「……ヴィオラ!」

 ヴィオラが俺たちの体の間に欲望をほとばしらせるのと同時に、俺もヴィオラの中にそれを解き放った。

 「ああン……レイチ、凄い。僕の中に、レイチのおつゆが出てる」

 注ぎ込んでる最中に、もう一回注ぎたくなるような卑猥な台詞を吐いてくれた。さすが淫魔。ブレない。

 最後まで絞り出してから、俺はヴィオラの傍らに身を横たえ、そのほっそりした体を抱きしめた。
 ヴィオラが甘やかな吐息を漏らす。

 「レイチ、ありがとう。寝ていいよ。後は僕に任せていいから、ね?」
 額にチュッと唇が降りてくる。
 俺は魔法をかけられたように、眠りに落ちた。



 翌朝、俺史上最高の爽快な目覚めだった。日本にいた頃も含め、これほど爽やかに目覚めた記憶はちょっとない。小学生以前まで遡れば別だろうが。
 いつも俺の目覚めを退廃的にしている元凶の淫魔が今朝は股間にしゃぶりついていないのも、爽やかな朝の理由の一つなのだろう。目覚めるとしゃぶられている十割伝説が崩れた。いや、べつにいいんだけど。

 で、そのヴィオラは?
 辺りを見回す。
 いるのは二匹のスライムだけだな。一匹は何故かミニサイズの《風殻》の中に閉じ込められてる。紫色の星入りのヴァスだ。
 で、もう一匹、スラサンは何故か俺の腹の上に陣取ってる。
 「おはようございます、マスター
 「おはよう。スラサン、なにしてるんだ?」
 「はい、我が主君マイ・ロードに命じられ、マスターをお守りしてます!」
 ポヨっと長くなるスラサン。
 「ヴィオラに言われて?そのヴィオラはどうしたんだ?」
 「はい、お一人で出かけられました。すぐ帰るから心配いらないとおっしゃられてました」
 「……そうか」
 どうしたんだろう、ヴィオラ。まあ、野営中だし、目覚めたら裸で腕の中なんてのは無理だなんてわかってたけどさ。

 っていうか夢中で完全に意識の外だったけど、よく考えたら思いっきり青姦じゃねぇか。まあそこは多分、有能な淫魔がなんとかしてくれてたのだろうと思うことにする。うん、すげー声出してたけど、大丈夫なんだろう、きっと。

 しゃぶられながら起きるってどうなんだよって思ってたけど、いなきゃいないで、なんか調子狂うな。

 朝メシの準備するか、とスラサンを下ろして昨夜の焚き火の燃えさしから灰を取り除き、枯れた小枝を追加して火を熾す。湯を沸かし、スープを作る準備をしていると、カサカサと茂みが揺れ、見慣れたプラチナブロンドが現れた。

 「おお、ヴィオラどこ行って、って……ヴィオラで、いいんだよな?」
 俺はその人物をまじまじと見つめた。
 というのも、昨日まで……いや、正確には昨夜までのヴィオラとは全く雰囲気が違っていたからだ。

 何て言うのかな。例えば、高級な本物とそれをそっくりコピーした廉価版みたいな。見た目のデザインは全く同じなのに、並べると品質の違いがはっきり感じられてしまうような。

 いや、昨日まてのヴィオラだって充分過ぎるほどカッコ良かったんだよ?でもさ、今のヴィオラと比べちゃうとね。なんつーのか、チャラい感じがするっていうか。

 俺も一応三年活動した冒険者だから、多少の鼻は効く。もしダンジョンを探索してて、昨日までのヴィオラに敵として出会ったら、戦いを挑んでただろう。でもそれが今日のヴィオラなら、俺はどうやってその場を逃れるかってことしか考えないだろうと思う。
 今のヴィオラは、強い。

 「何があった?」
 俺は尋ねた。何もなくてこんな変化はあり得ない。
 「特に見た目が変わった訳じゃないはずなのに、わかるんだね」
 ヴィオラは薄く微笑んで、焚き火の反対側に腰を下ろした。ヴァスの入ってる《風殻》を解除して出してやると、ヴァスはいそいそとヴィオラの肩に登って行った。

 一旦地上に降りたスラサンは、また俺の肩の上に移動した。基本的に俺の側にいるのが落ち着くらしい。一度聞いたら、ヴィオラは普段からスラサンが呼んでるように"主君"なので、畏れ多い気分になるのだとか。俺のことは保護者的な認識のようだ。それでいくと、スラサン的にはヴィオラの方が俺より立場が上みたいだな。ちょっと複雑だ。俺はヴィオラの主でもあるのだが。

 もっとも、今のヴィオラはどっちが主かわからないくらいに、尖ったオーラみたいなのをバリバリ漂わせてるんだけど。
 って、そうだよ!ヴィオラ!何があった?!

 「で、ヴィオラ。何があった?」
 俺はヴィオラを真っ直ぐ見つめた。
 たった一晩だ。いや、たった数時間だ。おかしいだろう?!

 俺に見据えられ、微苦笑を浮かべるヴィオラ。ふっと息をついて言う。
 「レイチは知ってるでしょ?魔物が一夜にして全く異質な存在に変化することがあること。スラサンで体験したよね?」
 「──進化か」
 「そう、進化。今の僕はもう、単なる淫魔じゃない」
 「なんで?なにがきっかけで?だって、昨夜──」
 セックスしたときは、そんな気配は何もなかった。俺が先に眠って、その後、何が起こった?

 「まさに、それがきっかけだった」
 「それ?」
 「セックス」
 はっきり言われると、ちょっと恥ずかしい。無邪気なスラサンの前なだけに。

 チラリとスラサンの方を見ると、スラサンはただポヨポヨしてた。何もわからない無害なスライムのフリをしているようだ。まあ、顔があるわけじゃないから、想像でしかないんだけど。

 「レイチには前に言ったことあるよね?僕、淫魔なのにセックス知らないって」
 「ああ」
 「それって、淫魔として存在はしててもデビューしてない状態だったんだ」
 「あ、もしかして、神殿に行ってなかったから魔法が使えなかった俺と一緒?」
 「かもしれない。進化条件はわかってた。全ての魔法スキルがレベル2以上であること。それから、成人した淫魔であること」
 「成人した淫魔……」
 「淫魔としての成人の儀、それが」
 「人間との、セックス?」
 「そう。昨夜、その条件の両方を満たした。あと、《回復力上昇》だけだったんだ。ただ、あれは基本的にセックスしないと発動しないから、なかなかレベル上がらなくてね」
 「一回使っただけで上がるものなのか?」
 「一応、これまでもちょこちょこ使ってはいたんだよ。レイチにおつゆもらうたびに」
 「マジか」
 「一日歩いて、その上僕に朝に夕に絞られて、その割には元気だったと思わない?」
 いや、僕に絞られって、自分で言うなよ。たしかに言われてみると、結構体力消耗してそうだよな。野営で充分な睡眠環境でもないし。
 「言われてみれば、そんな気もするな」
 「かかってたんだよ、一応。ただ、ちゃんとしたセックスじゃないから、かかりは弱かったけど」
 「そうだったのか」
 「これまでの累積と昨夜の発動で、魔法スキルのレベルは昇格値に達したみたい。セックスも、サキュバス的な形の変則的なセックスだったから、もしかしたらダメかもって思ったけど、大丈夫だったみたいだね」
 ヴィオラは微笑んで言った。

 「あ、進化条件、もう一つあった」
 「なんだ?」
 「僕の気持ち」
 「気持ち?」
 「そう。力が欲しいって願う思い。守られてるばかりじゃ嫌だ。大切なものを守る力が欲しいって」
 いつか言ったのと同じ台詞。
 しかし、今のヴィオラは、あの時切望したものを得たという、確かな自信をその表情に湛えていた。
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