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亡くなった妻と、お茶を一緒に。6
しおりを挟む俺が初めて、ドロドロと醜い感情を抱いたのは、春香が成人し、振袖姿を見せに来てくれた頃だったと思う。
可愛いらしさを残しながらも、春香は時々、大人びた艶やかな表情をするようになっていた。
周囲の男が、春香に対する目が変わっていたことも感じていた。
しかし、自分の立場は他の男たちとは違うのだと、どこか楽観的だった。
それは少なからず、春香も自分に対して異性として好意があるのだろうという空気に、あぐらをかいていたからだ。
しかし、俺が思っているよりも、春香の人生を左右する状況は進んでいた。
多くの交際の申し込みをされ、中には求婚もあったのだという。
田舎のコミュニティは狭い。良い噂も悪い噂も、あっという間に広まってしまう。
春香の恋愛事情も、その情報網から知った。
そして、俺はそこでやっと焦った。
誰かに盗られる前に捕まえなければ。
自分だけが、彼女を独り占めできる立場を得たいのだ、と。
今も、あの時と似たような焦燥感を覚える。
以前と違って、闘う相手は天使や死神なのかもしれないが……。
たとえ、天使のように清らかな存在であったとしても、春香を渡すわけにはいかない。
もう二度と離さないと決めたのだ。
年甲斐もなく、熱い思いが湧いてくる。
それは独占欲にも近い感情なのだろう。
この思いは、都合良く捉えれば「純愛」と呼ぶのかもしれない。
しかし、独り善がりで醜い感情がそこに混ざっていることに、もう気付いてしまった。
脳裏に、底なし沼に首まで浸かりかけている自分の姿が過った。
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