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亡くなった妻と、お茶を一緒に。

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「春香……」
 
 思わず、妻の名前を呼ぶ。
喉がキュッと締まって、声になったかどうか分からなかった。
しかし、春香は「はい」と笑ってくれた。

「寒いだろ? 中に入れよ」
 
 まだ頭が上手く働かない状態で、裸足のまま庭に出た。そして、右手を宙に差し出す。

「うん」
 
 小さく返事をした彼女が、ふわっと枝から降りると、俺の手の上に小さな手を乗せる。
そして、そのまま彼女の手を引いて、居間に入った。
 
 春香の手は、ひやりと冷たい。寒空の下に居たせいだろうか。それとも……。

 とりあえず二人でこたつに入ってはみたが、どちらも言葉を発さず、しばらく時間だけが流れた。

 何か話さなければ。
 聞きたいことも、伝えたいことも、たくさんあったはずなのに何も言葉が出てこない。
 
 つっかけも履かずに雪の上を歩いたせいで、足の裏が濡れて冷たい。
 しかし、目の前に亡くなったはずの妻が現れたことに比べたら些末なことだ。そんなことを考えながら、沈黙は続いた。

 どれくらい時間が経っただろうか。おもむろに春香が、すくっと立ち上がった。

秀志しゅうじさん、お茶飲む?」
「あ、あぁ」

 声がうわずった。
 そんな俺の様子を気にすることなく、彼女はトタトタと迷わず台所へと歩いて行く。
まだ夢見心地の俺は、その後ろ姿をぼんやりと見つめた。
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