3 / 13
亡くなった妻と、お茶を一緒に。
しおりを挟む
「春香……」
思わず、妻の名前を呼ぶ。
喉がキュッと締まって、声になったかどうか分からなかった。
しかし、春香は「はい」と笑ってくれた。
「寒いだろ? 中に入れよ」
まだ頭が上手く働かない状態で、裸足のまま庭に出た。そして、右手を宙に差し出す。
「うん」
小さく返事をした彼女が、ふわっと枝から降りると、俺の手の上に小さな手を乗せる。
そして、そのまま彼女の手を引いて、居間に入った。
春香の手は、ひやりと冷たい。寒空の下に居たせいだろうか。それとも……。
とりあえず二人でこたつに入ってはみたが、どちらも言葉を発さず、しばらく時間だけが流れた。
何か話さなければ。
聞きたいことも、伝えたいことも、たくさんあったはずなのに何も言葉が出てこない。
つっかけも履かずに雪の上を歩いたせいで、足の裏が濡れて冷たい。
しかし、目の前に亡くなったはずの妻が現れたことに比べたら些末なことだ。そんなことを考えながら、沈黙は続いた。
どれくらい時間が経っただろうか。おもむろに春香が、すくっと立ち上がった。
「秀志さん、お茶飲む?」
「あ、あぁ」
声がうわずった。
そんな俺の様子を気にすることなく、彼女はトタトタと迷わず台所へと歩いて行く。
まだ夢見心地の俺は、その後ろ姿をぼんやりと見つめた。
思わず、妻の名前を呼ぶ。
喉がキュッと締まって、声になったかどうか分からなかった。
しかし、春香は「はい」と笑ってくれた。
「寒いだろ? 中に入れよ」
まだ頭が上手く働かない状態で、裸足のまま庭に出た。そして、右手を宙に差し出す。
「うん」
小さく返事をした彼女が、ふわっと枝から降りると、俺の手の上に小さな手を乗せる。
そして、そのまま彼女の手を引いて、居間に入った。
春香の手は、ひやりと冷たい。寒空の下に居たせいだろうか。それとも……。
とりあえず二人でこたつに入ってはみたが、どちらも言葉を発さず、しばらく時間だけが流れた。
何か話さなければ。
聞きたいことも、伝えたいことも、たくさんあったはずなのに何も言葉が出てこない。
つっかけも履かずに雪の上を歩いたせいで、足の裏が濡れて冷たい。
しかし、目の前に亡くなったはずの妻が現れたことに比べたら些末なことだ。そんなことを考えながら、沈黙は続いた。
どれくらい時間が経っただろうか。おもむろに春香が、すくっと立ち上がった。
「秀志さん、お茶飲む?」
「あ、あぁ」
声がうわずった。
そんな俺の様子を気にすることなく、彼女はトタトタと迷わず台所へと歩いて行く。
まだ夢見心地の俺は、その後ろ姿をぼんやりと見つめた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
麗しき未亡人
石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。
そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。
他サイトにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる